
2023年9月、タイにおけるラグジュアリーホテルの先駆けである「デュシタニ」ブランドが「デュシタニ京都」として日本に初上陸した。その後開業から1年も待たずして、「ミシュランキー ホテルセレクション」にて、卓越した宿泊体験と優れたホスピタリティを提供するホテルに贈られる「1ミシュランキー」を獲得。タイ発祥のホテルブランドとして唯一であり、2025年度版でも1ミシュランキーを維持している。そんな注目のホテルに足を運んできた。
タイと京都の伝統文化が融合した、静謐なホテル

JR京都駅から徒歩10分ほど、世界遺産「西本願寺」がある門前町エリアに佇む「デュシタニ京都」。館内に足を踏み入れると、タイの伝統的な藍染と日本の絞り染めが融合したアートワークがゲストを出迎える。

窓の外には中庭の緑が広がり、静謐なる空間に、タイと京都の美意識が溶け合う。「デュシタニ」とはタイ語で「天国の街」という意味の通り、繁華街の喧騒を忘れる非日常な空間が印象的だ。

案内されたのは、中庭を望む客室。タイと日本のモダンな要素を取り入れたデザインが心地よい。
慌ただしい日常からエスケープするように、屋内プールやサウナ、スパを備える「デバラナ・ウェルネス」へ。水に身を委ねる静かな時間は、思考をクリアにし、この後の体験への期待感を高めてくれる。
アルコールフリーフローも付いた、タイ王室の伝統×日本食材のアフタヌーンティー

シグネチャーレストラン「Ayatana(アヤタナ)」でのアフタヌーンティーは、「デュシタニ京都」でしか味わえないハイライトの一つだ。目の前に置かれたのは、タイの伝統的なお弁当箱「ピントー(Pinto)」と、息を呑むほどに美しい磁器。タイ王室にも献上されてきたという「ベンジャロン焼」だ。

赤、青、黄、白、黒。五色を基調とした絢爛な器に、金彩がきらびやかな光を添える。日本国内で、この芸術品ともいえる器でアフタヌーンティーを供するのは、ここだけだそう。

「ピントー」の蓋を開けると、繊細な料理が宝石のように並ぶ。京都市内の数あるアフタヌーンティーと一線を画すため、セイボリーを充実させ、ベジタリアンにも対応するという細やかな配慮が嬉しい。

タイ南部の食文化に着想を得た「ガドガド風サラダ」、ココナッツとスパイスが鼻腔をくすぐる「サテ」が並ぶのが、なんともタイらしい。そしてスイーツには、京都の秋の味覚である栗やさつまいもと、タイを象徴するマンゴーやパンダンリーフが、見事なマリアージュを見せる。
サツマイモの焼きプリンのなめらかさ、バナナスティッキーライスの優しい甘み。一口ごとに、京都とバンコクの街並みが交互に浮かぶようだった。

ドリンクはTWGとコラボした「デュシタニ京都シグネチャーブレンド」をはじめとした紅茶やコーヒーに加え、なんとアルコールを使ったカクテルもフリーフロー。パフュームボトルで香りを吹きかけていただくウェルカムカクテルの「クルンテープ」は、塩気のあるココナッツ、ハラペーニョの刺激、ハーブの青い香りが複雑に絡み合う。タイ料理の五味(甘味、塩味、酸味、旨味、辛味)すべてを内包したかのようなその味わいは、まさに“飲むタイ料理”だ。
「シェフズテーブル 紅葉」で「鮨 石橋正和」監修のディナーに舌鼓を打つ

この旅のクライマックスは、地下1階に隠れ家のように存在する「シェフズテーブル 紅葉(Koyo)」で迎えた。2025年8月に新たに登場した、銀座で予約困難を極める名店「鮨 石橋正和」が監修する鮨カウンターだ。

カウンターに立つのは、シンガポール支店や「石橋」本店で研鑽を積んだ原氏。「江戸前の伝統と、京都の食文化を融合させたい」と話し、シャリは江戸前の赤酢を使いつつ、ほんの少しだけ輪郭をまろやかに仕立て、押し寿司や手まり寿司の文化も意識し、京都や関西の人々の味覚に寄り添う。
その哲学は、ガリの代わりに供される「京野菜の盛り合わせ」にも表れていた。朝どれの京水菜、老舗「ぎおん川勝」のべったら漬け。添えられた金山寺味噌も、和歌山のものではなく、あえて京都のものを選ぶ。「豆腐、味噌、野菜は京都が誇るべきもの」と、この地への深い敬意を口にする。
コースの始まりは、3ヶ月も常温熟成(エイジング)させ、甘みを頂点まで引き出した「北海道産かぼちゃのスープ」。生クリームと出汁、隠し味のハチミツのみで仕上げたスープは、青臭さが一切なく、凝縮されたかぼちゃの生命力そのもののような、濃厚な甘みが舌を包み込む。そして、七輪で炙られ、芳ばしい香りを立てる「大トロ」が食欲の扉を開く。
続くは、旬を迎えた「カマス」の塩焼き。「シャインマスカットとあん肝」という、背徳的ともいえる組み合わせの妙が光る。
そして、握りへ。兵庫県・淡路産のもみじ鯛は、シャリが口の中でほろりと解ける感覚がたまらない。愛媛県・宇和島産の中トロ、筋子から丁寧にバラしたイクラとウニを纏わせた小丼という贅を尽くしたプレゼンテーションにも歓喜する。
ミョウガと大葉で締め、皮目に炭を直接押し当て、旨味を閉じ込めた「しめ鯖の炭炙り」は圧巻だ。北海道・根室「小川のうに」のバフンウニは、シャリを覆い尽くすボリューミーさで、クリーミーな甘みがもはや官能的でさえある。
大ぶりな「大トロの握り」。ふっくらと、継ぎ足しの煮汁で煮上げられた「長崎県産の煮穴子」。一貫一貫に精緻な仕事が施されていた。
ガパオライスなどメインが選べる、ハーフブッフェスタイルの朝食

中庭に面したオールデイダイニング「Kati(カティ)」での朝食も、旅のエピローグにふさわしい。タイ語で「ココナッツミルク」を意味する名の通り、ここはタイの家庭料理の温かさに満ちている。

朝食はハーフブッフェスタイル。「ガパオライス」や「タイ風ライスヌードル」といったタイスペシャリテに加え、「クロワッサン スパイスエッグベネディクト」や「フレンチトースト」などを含む8種類ほどのウエスタンスペシャリテの中から、好みのメインディッシュを選べる。ブッフェ台にはフレッシュな南国フルーツや、タイ粥のジョーク、焼きたてパン、サラダなどが並び、ここでも東洋と西洋の文化、そしてタイと京都の文化が混ざり合っていた。
古都・京都でタイの優雅なホスピタリティに酔いしれる

「デュシタニ京都」での体験は、日本、そして京都にいながらタイという異国を感じられるだけでなく、京都らしい雅なおもてなしで心身共に癒される時間であった。タイの優雅なホスピタリティと、京都の奥深い伝統。その二つが織りなす時間は、一泊二日の週末リチャージ旅にぴったりであった。
デュシタニ京都
住所/京都府京都市下京区西洞院通正面上ル昭薬師町461
TEL/075-343-7150 (代表)
URL/www.dusit.com/dusitthani-kyoto/ja/
Photos & Text: Riho Nakamori














