スコットランド発「ストラスベリー」。 アイコンバッグ大ヒットの理由を創設者が語る | Numero TOKYO
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スコットランド発「ストラスベリー」。 アイコンバッグ大ヒットの理由を創設者が語るPROMOTION

イギリスを構成する北部の地域、スコットランド。美しい山岳地帯と湖をもつ地で生まれたレザーブランド「ストラスベリー(Strathberry)」は、ハンドバッグで人気を博している。創業からわずか12年で、世界中の女性の心を掴み、ビジネス的にも成長を続けるブランドのストーリーを探るべく、創設者に話を聞いた。

創設者 ハンドルビー夫妻
創設者 ハンドルビー夫妻

ユニークで美しく、使いやすいデザインを

──「ストラスベリー」というブランド名の意味を教えてください。

「造語なのですが、“Strath” はスコットランド・ゲール語で谷という意味です。それに英語の“Berry”、果実という単語を組み合わせました。『豊かな自然の恵みの地』をイメージさせるスコットランドらしい美しい情景を想起させる言葉です」

──ブランドコンセプトを聞かせてください。

「“ユニークで美しく、使う人にとって使いやすいデザインを届けたい”という想いからブランドを立ち上げました。ブランドを設立したきっかけは、最初に建築デザインに興味を持ち、その延長でバッグブランドのアイディアを思いついたから。そのアイディアにリーアンが賛同してくれました」

──ブランドを始める前、何をして過ごされていたのでしょう?

「自分たちの家を建てていました。個人的なアイディアを建築家の協力のもと5年間かけて設計し、自分たちの手で建てたので完成まで2年くらいかかったと思います。4階建てで、大きな窓からたっぷり採光でき、地下室には映画室があるモダンな建物です。この経験からデザインに対する関心が高まり、何か新しい挑戦をしてみたいと思ったんです」

──ファッション業界での経験無くして、ブランドを運営することに躊躇はありませんでしたか。

「全く違う分野ですが、迷いはなく、自分が本当に得意としていることを活かした上でいいブランドを作りたいと思いました。住宅はただ存在する場所というよりも、人が住み、生活する必要があります。機能面ではバッグデザインでも同じことが言えると思います。それに、建築物もバッグも自分の創造性や興味、情熱を表現するものだと考えています。質の高い素材も関係していて、建築とバッグの両方において長く使える特別なものを作ることができると思っています。違いは、バッグが外出時に持ち運ぶものだということくらいでしょうか」

モザイク バッグ ¥99,000
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素材と職人技にこだわるバッグ作り

──生産地について教えていただけますか?

「バッグはすべて、スペインのウブリケという町で生産しています。アンダルシアの山間にあるこの町は、風光明媚な“白い村”として知られ、何世紀にもわたり世界の名だたるラグジュアリーブランドにレザーグッズを供給してきた場所です。私自身、約18カ月スペインに滞在していた際に、現地の職人たちの本物のクラフトマンシップと仕事ぶりを間近で目にしました。その丁寧な手仕事と技術の高さに触れ、ここで自分たちのバッグを作りたいと強く思ったのです」

──素材についてはいかがですか。

「スペインの北東部にあるアンダルシアの外れ、イグアラダになめし革工場が集まる地域があります。ここでは最高品質のレザーが作られており、ストラスベリーにとって品質への投資は最も重要な優先事項のひとつです。製品の耐久性を確保することは、私たちにとって非常に大切なことです。このレザーの柔らかい感触が気に入っているので、譲ることができません」

──ブランドの設立から12年。「ストラスベリー」は多くの女性の心を掴んできました。何がブランドの強みだと思いますか。

「徹底的に高品質と洗練されたデザインに情熱を注ぎ、お客様にバッグを通して特別な体験をしていただきたいと思っています。日本にもスコットランドにも、他者へ敬意を払う文化があると思います。どんなお客様に対しても感謝と最大限のリスペクトをもって接して来ました。誰にとってもうまくいかなかった日や落ち込むことがあると思います。請求書が届いたり、駐車違反切符を切られたり。でもストラスベリーのバッグが隣にあることで前向きになる。細心の注意と配慮が込められているバッグが生活を豊かなものにしてくれ、自信につながっていく。残念ながら、最近はそういうアイテムは滅多に出合えないと思っています。バッグを売ることは、多くの大企業にとっては単なる数字でしかないのかもしれません。真の誠意こそがストラスベリーが成長し続けている理由です」

ミディ トート ¥118,800
ミディ トート ¥118,800

──アイコンバッグ「トート」について教えてください。

「『トート』は最初に作ったバッグです。とにかくシンプルな形で、スライド式のハンドルがすっきり収まるものを作りたかったんです。このバッグは、古い革製の譜面ケースから着想を得ています。オリジナルデザインは、現在の『トート』の一番大きいサイズ。街を歩いているとき、向かいの通りで持っている人がいたら、一目でストラスベリーのバッグだとわかるほど、特長的なデザインです」

──次に注目されたバッグが「モザイク」。こちらも人気アイテムだと伺いました。

「才能あるデザインチームが最初のアイデアとデザインを思い描き、そこから『モザイク』バッグが誕生しました。ハンドルの向きやバッグのボリューム、プロポーションは何度も調整され、デザイン完成後も理想のフォルムを具現化するために何度も修正を重ねました。このバッグは、職人技が光るエッジペイントの仕上げの精度の高さがわかるところが気に入っています」

モザイク ナノ ¥84,700
モザイク ナノ ¥84,700

──5月に発売された「カイト」は、他のバッグに比べてより、実用的に見えます。

「より自由な精神を体現していると思います。収納力があり、色々な使い方ができます。より柔らかさを全面に出したデザインに仕上がっていると思います。発売されたときから最も早く人気が出ました。優秀な1人のデザイナーが手掛けました。看護婦や教師、母として毎日を送る人たちがこのバッグとどのように毎日を過ごしているかを伺うチャンスがあったのですが、とても心が動かされました」

カイト ホーボー マキシ ¥114,400
カイト ホーボー マキシ ¥114,400

──主な販売国はどこですか?

「アメリカ、カナダ、イギリスです。中東や日本でも販売しています。韓国にも興味があり、いつか展開したいと思っています。しかし、現在は事業が分散しないように限られた市場にのみ注力しています」

──クオリティーに対し、比較的手に入りやすい価格帯に設定していることに何か理由やポリシーがあるのでしょうか。

「より多くの人に手に取ってもらいたいからです。ラグジュアリーなものに誰もがアクセスできるべきだと思っています。よく食べ物に置き換えて考えていて、最高な一皿には、いい素材と有能な料理人が必要ですよね。それに、高額なお金を払わずとも私たちが美術館やギャラリーなどで芸術や詩、美しいものに触れることができるように、誰しもの生活にラグジュアリーなバッグが排除されるべきではないと考えています。どんな職業の人であっても、いいバッグを手にして毎日を送って欲しいのです。とはいえ、ストラスベリーはもちろん安くはありません。一部の人にとっては手の届かない価格帯なことは事実です。しかし、より公平で開かれたブランドであることは良いことだと思っています。多くの人たちが高品質なバッグを楽しめる状況を維持し、できる限り包括的なブランドであり続けたいと考えています」

──“スコットランドらしさ”とは何か教えてください。

「スコットランドでは、何かが壊れたりすると修理する習慣があります。これは日本の金継ぎと非常に似ていて、人々は同じものを長期的に使い、ものを本当に大切に保管します。私の祖母は新しいものをたくさん買わず、持っているものを使い続けていました。これは本当に重要なことで、地球環境にも優しい習慣です。日本には『侘び寂び』など、素敵なことわざがいくつかありますよね。歳月の経過をそのまま受け入れ、隠さずに美を見出す。物事を楽しむヒントになるので、もっと学びたいです」

モザイク ナノ ¥84,700
モザイク ナノ ¥84,700

──なぜ、スペインで作ることにこだわっているのですか?

「スペインには、革を巧みに使い、柔らかく、それでいて構築的な製品を完璧に仕上げる素晴らしい技術があります。繊細なハンドバッグを作るには特別な技術が必要で、スペインが最も適していました。当初はスコットランドでバッグを作ることも検討しましたが、難しかったんです。スペインとはバッグのタイプが違い、どちらかというと乗馬用品のような素材を使いとても構造的で頑丈なものです。スコットランドには『クライド』という造船所で作るバッグだという言い伝えがあります。『クライド』で作られたバッグは長持ちし、何世紀も使える。この考え方はブランドに生きていると思います」

──「ストラスベリー」のバッグは購入後、どのようなケアを受けられるのでしょう?

「スペインの工房またはスコットランドの本社で修理ができます。日本でお客様からバッグを預かり、状況に応じてアトリエに送って修理します。スペインの工房に送って修理することも可能です。今後は、リペアの取り組みをさらに強化していきたいと考えています」

──現在、何名くらいの従業員が「ストラスベリー」で働いているのでしょうか。

「英国に4店舗あるので、販売員の数は25人程度です。エディンバラの本社を拠点とする従業員は約65人。ロンドンには商業部門を担当するチームがあり、スペインには品質管理とオペレーションを担うチームもあります。これらを合わせると、直接雇用している従業員は約120名にのぼり、その数は年々増え続けています。加えて、工房に所属する職人たちを含めると、ストラスベリーのものづくりに携わる人々はおよそ500名に達します」

カイト ホーボー ¥99,000
カイト ホーボー ¥99,000

手の届くラグジュアリーを目指して

──この12年間で順調に成功を収めてきた理由を聞かせてください。

「“一貫してシンプルに考えること”。そして『こうするべきだ』ではなく、『正しいことだからやる』を行動で示してきました。物事を深く考えすぎると、『なぜそれをやっているのか』、『なぜ人々が自分の仕事に感謝してくれるのか』と考えてしまい、本質を見失ってしまうことがあると思います。それから新しいブランドやデザイナーは、慎重に資金を貯めて、再投資していく必要があります。初期投資のしすぎに気を付けるべきです。あとは自分の選択を自分でできるように、独立性を保つことも大切です」

──現在、高級バッグの価格が高騰しています。原材料費の価格が上がり、米国による関税で世界経済が混乱しています。「ストラスベリー」は、このことを見越しての価格設定を行なっているのでしょうか。

「いいえ、価格設定はブランドのコンセプトです。しかし、アメリカによる関税の状況が不安定だったため、価格設定について再考する必要がありました。『今後、どうなるのだろう?』という不安を感じていましたが、ある意味こうした困難は、学ぶには良い機会。何かをより良い方法で実現するためのきっかけになると考えています。今回も結果的に、事業成長を加速させることができました。利益は上げなければならないので、時には値上げせざるを得ないこともありますが、バランスが大切だと考えています。私たちは、現実離れした価格設定やブランディングは行いません。値段はコストに基づいており、人気が高まったからといって製品の価格を上げるチャンスだと捉えることは決してありません」

──今後のビジョンについてお聞かせください。

「私たちは、好きなことをこれからも変わらず続けていきたいと思っています。そして多くの人にバッグを気に入ってもらえることを続けていくつもりです。幸運なことに、大手ラグジュアリーブランド出身のデザイナーやスペシャリストなど、素晴らしいチームに恵まれていて、とても刺激的です。パートナーのリーアンと私が経験の全くないところからスタートしたとは信じられないほど。彼らの経験が、ブランドの飛躍に活かされています。将来的には東京にもショップをオープンしたいですね。私も妻も『sacai』の大ファンなので、東京・青山のエリアにお店を構えられたら最高だと考えています。あと、ニューヨークやロンドンにも出店したいと考えています。すでに4店舗のショップがありますが、主要市場では年間約50%という急速な成長を遂げています」

──今後、ブランドを成長させるために挑戦したいことはありますか?

「大手ブランドと同等の価値を手が届く価格で届けたい。それが大きな成長の機会になると考えています。ファッション業界では素晴らしいことが数多く起こっています。ここ数年、ある意味では面白みが薄れていたように思いますが、回復しつつあると思います。しかし、一部の顧客と大手ラグジュアリーブランドの間には、ある意味で乖離があるように感じます。多くは高すぎる価格によって引き起きていることです。私たちのようなブランドの参入は、他のブランドとは異なるユニークさを提供できると思います」

──ブランドの成功にどのようなアプローチが有効でしたか。

「ずっと謙虚なアプローチを取ってきました。それでも利益を上げなければなりません。それは社内だけではなく、社外で一緒に仕事をする人たちにとっても同じで、互いに強い忠誠心を持ちあっています。スペインで最初にバッグを作り始めた工房と今でも仕事を続けていて、約100人ほどのスタッフがストラスベリーのバッグを作っています。ブランドが成長するのと同時に、彼らも成長してきたのです。双方が利益を上げて良好な関係を築くことがいかに大切かを感じています」

──今回、日本を訪れていかがでしたか。

「日本のカスタマーは、品質について明確な判断基準をもっていると思います。それに必ず応えていきたいですね。個人的には、またいつか、建築家と一緒に素晴らしい空間を創りたい。日本には素晴らしい建築がたくさんあります。とても独創的で、考え抜かれています。ストラスベリーが、日本のデザイナーや建築家とコラボレーションができたら最高ですね」

ストラスベリー
URL/https://jp.strathberry.com/

Interview & Text : Aika Kawada  Edit : Michie Mito, Naomi Sakai

Profile

ガイ・ハンドルビー Guy Hundleby 2013年、エディンバラで妻であるリーアン・ハンドルビーとともに「ストラスベリー」を設立。ハンドルビー夫妻はファッションや革製品業界に従事した経験はなかったものの、高品質な製造技術と魅力的なスタイルのハンドバッグを比較的手頃な価格で提供し、国内外で人気を博す。ブランドの本社はエディンバラ中心部にあり、デザインはスコットランドと英国、バッグの製造はスペインのウブリケの工場で行う。
 

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