デカ目、小顔……日本の女の子たちはなぜ“盛る”のか。ギャルを研究してきた久保友香に聞く | Numero TOKYO
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デカ目、小顔……日本の女の子たちはなぜ“盛る”のか。ギャルを研究してきた久保友香に聞く

目を大きくしたり、小顔に見せたり……。何が私たちを“盛り”に駆り立てるのだろうか。過去25年にわたって高校生だった女性たちにインタビューし、“盛り”を研究してきたメディア環境学専門の博士研究者・久保友香に聞く。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年11月号掲載
 

2014年、東京・渋谷でハロウィーンのためにばっちり盛った女性たち。©Aflo
2014年、東京・渋谷でハロウィーンのためにばっちり盛った女性たち。©Aflo

00年代初頭に流行した「ガングロギャル」。肌を限界まで焼き、鼻筋や唇を白く塗った。©Aflo
00年代初頭に流行した「ガングロギャル」。肌を限界まで焼き、鼻筋や唇を白く塗った。©Aflo

原宿・竹下通りの「森ガール」  ©Getty Images
原宿・竹下通りの「森ガール」 ©Getty Images

──“盛り”を研究するようになったきっかけは何ですか。

「もともと理系出身で、“日本の美意識”という曖昧なものを数値化する研究をしていました。その過程で注目したのが、顔です。浮世絵や絵巻に描かれる美人画を見ると、みな同じような顔をしている。それはデフォルメされているからだと気づきました。その基準や法則を解き明かすことで、日本人の美意識の根源に触れられるのではと考えたんです。当初は歴史資料を調べていたのですが、ふと、コンビニに並んだギャル雑誌を見てみると、若い女性たちの顔もみなそっくりで、デフォルメされている。そこで若い女性たちに話を聞くうちに、デフォルメではなく、『盛る』という言葉に出合ったんです」

──“盛り”の定義は何でしょうか。

「実際とは異なる外見を意図的に作り出すこと。ヴィジュアルを通じて自己イメージを操作し、コミュニケーションを円滑にしたり、ポジティブに方向づけたりすることともいえます」

──“盛り”はどのように進化していったのでしょうか?

「プリントシール機や携帯カメラ、スマホ、SNSと合わせて考えるとわかりやすいです。まず、1995年にプリ機が登場した頃、加工技術はあまりなく、ベタ撮りがスタンダードでした。2000年代に強いストロボを搭載した機器が誕生すると、照明に最適化させたヤマンバのようなメイクがブームに。顔全体を盛るようになります。

また、ガラケーの普及に伴い、自撮りの文化が発展。ガラケーは画面が小さいので、自撮りをすると目が強調されやすい。なので、つけまつげやカラコンを駆使したデカ目が流行しました。目だけを認識して大きく加工するプリ機が登場したり、デコログに代表される携帯ブログが人気になり、目力を強調するように。10年代は光と影を操れるようになります。画面の大きいスマホが登場すると、顔だけではなく、ロケーションなども含む『シーン』全体を盛る方向に。また、インスタグラムの人気と合わせて、ライフスタイルを盛る時代に突入しました」

1995年頃、フレームのみのプリントシール機が誕生。提供:フリュー株式会社
1995年頃、フレームのみのプリントシール機が誕生。提供:フリュー株式会社

99年になると美白機能が追加。提供:フリュー株式会社
99年になると美白機能が追加。提供:フリュー株式会社

2007年頃からデカ目に“サギ”れるように。提供:フリュー株式会社
2007年頃からデカ目に“サギ”れるように。提供:フリュー株式会社

11年には洗練されたナチュラル盛りへシフト。
11年には洗練されたナチュラル盛りへシフト。

18年からはインスタ映えすることが重要視された。
18年からはインスタ映えすることが重要視された。

25年の最新のプリ機では盛りに加え、撮影過程の体験を重要視するように。提供:フリュー株式会社
25年の最新のプリ機では盛りに加え、撮影過程の体験を重要視するように。提供:フリュー株式会社

──そもそもなぜ、人は盛るのでしょうか?

「実物よりよく見せることで、異性にモテたいからと思われがちですが、私が話を聞いてきた若い女性たちの多くはそうではないんですね。彼女たちに『なぜ頑張って化粧をしたり、加工するの?』と聞くと、『自分らしくあるため』という答えが返ってきました。00年代の若い女性の多くは、私から見ると同じような顔に見えていましたが、本人たちは細部にこだわり、個性を出そうとしていた。市販のつけまつげを3、4個買って、それを切ったり、組み合わせたりして、太さや細さ、間隔を調整し、自分仕様にカスタマイズする。また、プリ機ごとにシャッタースピードやストロボの量、画像処理の程度が違うので、それに合わせて顔の表情を変えるなどして工夫を重ねていました。

つまり、「盛り」とはある一定の型を共有しながらも、その中で差異を作り出す自己表現であり、しかも、仲間内でしかわからない違いを楽しむことだと思います。また、盛りの特徴は、民主的であることともいえます。高級ブランド品や生まれ持った外見で勝負するのではなく、百均やドラッグストアなどで誰でも買えるコスメやツールを駆使して、自分らしさを追求していくことができる。その努力や発想力が評価されるところがユニークだと思います」

──「盛る」は日本独自の概念なのでしょうか?

「そうですね。日本発であり、今は東アジア圏に広く浸透している概念だと思います。中国や韓国でも加工は悪いことではなく、むしろデフォルト。無加工であることをハッシュタグで示すくらいです。一方ヨーロッパ圏の人は加工=フェイクというネガティブな印象が強い。ノルウェーのように加工した画像を広告で使うことを法律で制限する国もあるほどです」

──「盛り」文化はこれからどうなっていくと思いますか?

「もともと日本の若者を中心とした外見を盛るカルチャーでしたが、世界観を盛る時代に入ったことで、今後はさらにジェンダーや年齢の幅が広がっていくと思います。『こういう自分でありたい』というメッセージを込めた『盛り』は自己演出であると同時に共感や関係性をつなぐための行為。これからは生成AIを生かした盛りの技術も発展していくと思います」

『「盛り」の誕生―女の子とテクノロジーが生んだ日本の美意識』

著者/久保 友香
価格/¥2,640
発行/太田出版

日本の女の子たちは、自らのビジュアルを「盛る」ことで特殊なコミュニケーションを行ってきた。この「盛り」とは、いつから行われ、どのように生まれたのか。世界へ影響を与えている日本発の文化「盛り」の全貌を解き明かす。

 


 

Text:Mariko Uramoto Interview & Edit:Mariko Kimbara

Profile

久保友香 Yuka Kubo 1978年、東京都生まれ。慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科卒業。東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了。博士(環境学)。専門はメディア環境学。日本の視覚文化の工学的な分析や“盛り”を計測するシンデレラテクノロジーの研究に従事。2015年、研究が総務省のプログラム「異能(Inno)vation」に採択された。著書に『「盛り」の誕生―女の子とテクノロジーが生んだ日本の美意識』(太田出版)ほか。
 

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