1924年にヴァレンツァで創業し、101年目を迎えたイタリアを代表するジュエラー、DAMIANI(ダミアーニ)。6月にローマで発表されたマスターピースコレクション「Ode all’Italia(イタリアへの賛歌)」が、この度日本に上陸! 代官山で開かれた特別なお披露目会にお招きいただき、イタリアの美とクラフツマンシップが凝縮されたラグジュアリーな世界に触れてきました。Numéro TOKYOでジュエリーを担当するファッション・エディター、清原愛花がその模様をお届けします。
前編でご紹介した「Ode all’Italia(イタリアへの賛歌)」では、イタリアという国そのものを映し出したような、まさに圧巻の世界を体感。そこには、家族でブランドを守り続けてきたダミアーニならではの物語が息づいていました。
そして今回特別に、副社長シルヴィア・グラッシ・ダミアーニさんにインタビューする機会をいただきました。ブランドを愛し、そして何よりも宝石そのものを心から愛しているシルヴィアさん。とにかくおしゃれでチャーミングでありながら、仕事に対して情熱的で……本当に素敵な方でした♡ そんな彼女に、まずは、今回のマスターピースコレクション「Ode all’Italia」から、お気に入りの一点を教えていただきました。

──今回のコレクションの中で、特に心に残る一点、ダミアーニの精神やイタリアらしさを最も象徴する作品を教えてください。
「どのマスターピースも我が子のように大切ですが……ひとつ挙げるとすれば、46カラットを超えるパライバトルマリンをあしらった『Marea Rosa』ネックレスです。モルガナイトのパウダーピンクとカラーレスダイヤモンドの透明な輝きが、寄せては返す波打ち際を思わせます。モルガナイトにはピンクゴールド、ダイヤモンドにはホワイトゴールドをあしらうことで、サルデーニャ島北部、ラ・マッダレーナ諸島の“ピンクの砂浜”をそのまま映し取ったかのようなデザインに仕上がっています。自然が生んだ色彩をジュエリーへと昇華させた、まさに唯一無二のピースですね」

──手に取らせていただきましたが、なめらかな仕上がりで、本当に美しいですね。
「はい。また、この『Marea Rosa』は、その美しさだけでなく多彩な楽しみ方ができる点も魅力です。センターストーンのパライバトルマリンの部分は取り外しができて、小さなチェーンに通せばブローチのようにも楽しめます。ひとつのジュエリーが、ネックレスからブローチへと姿を変え、シーンに合わせて表情を自在に変化させるのです。さらに、マーキスカットを縦ではなく横に配した斬新なセッティングや、職人による精緻な仕上げと合わせて、伝統と革新の双方を体現する象徴的な作品だと思います」
ダイヤモンドのセッティングにはホワイトゴールドを、モルガナイトにはピンクゴールドを用いることで、それぞれの宝石の色を引き立て、繊細な色彩のハーモニーを生み出しています。さらに、裏側に触れても驚くほどなめらかな仕上がりで、見えない部分にまで職人技が息づいていることを実感させてくれる逸品です。

──ほかにお気に入りの作品はありますか?
「ローマのカンピドリオ広場から着想を得た建築的なデザインで、入手困難なファンシー・イエローグリーンダイヤモンドをあしらったペンダント『Aethernitas』もお気に入りです。ニュアンスの柔らかな色合いが平和を象徴する『Dolce Stil Novo』のネックレスも挙げたいと思います。どちらも、トップを外してシンプルなチェーンに通したり、長いネックレスを二つに分けて短いネックレスとブレスレットにしたりと、マルチユースが可能です。用途に合わせて変化する“遊び心”は、ダミアーニらしさそのものです。だから、まぁ、一点だけを選ぶというのは難しいんですよね(笑)」


──コレクションを通じて、世界のお客様にどんな“イタリアの美の精神”を伝えたいですか?
「イタリアの美の本質は“多様性”にあると考えています。山々や丘、湖や海、それぞれの街が独自の芸術や文化を持ち、50km移動するだけで全く別世界に出合える。その多様性こそが豊かさであり、クリエイティビティの源です。日本も同じように多様な表情を持つ国であり、イタリアと共通していると感じます」

──ダミアーニは創業から100年以上、家族経営を続けています。なぜそれがブランドの強みになっているのでしょうか?
「家族経営であることで、ブランドのアイデンティティが非常に明確になります。ダミアーニはブランド名であると同時に私たちの名字であり、伝統を守りながら未来へ受け継いでいく大きな原動力となっています。現在は4代目も育っており、その存在が私たちにさらなる責任と情熱を与えてくれています」
──世界の他のブランドと比べても珍しい経営形態ですよね。
「はい。私が知る限り、創業一家による経営は、ジュエリー業界では非常に珍しいことです。フランスの大手ジュエラーには存在しないのではないでしょうか。だからそれが、ダミアーニの大きな特徴となっています。私たち一家は働くことが心から好きで、利益を得ても私生活に費やすより会社へ再投資する。それが独立性を保ち、ブランドをより強くしてきた理由だと思います。
そして何よりも、私たちは仕事が好きなだけでなく、宝石そのものを心から愛しているのです。弟のジョルジョは製作のために宝石を選び仕入れますが、あまりにも宝石が好きすぎて、その仕事自体がすでに喜びになっているのです。彼が“すごくいい宝石が入ったんだよ!”と私や長男のグィドを呼び出すと、私たちは思わず“OK, OK”と応じてしまう(笑)。そうして目にするのは、長年の信頼関係を築いてきたサプライヤーから届いた、稀少で特別な宝石です。もちろん価格交渉もしますが、宝石は自然からの贈り物だと私たちは考えています。だからこそ時間をかけて仕入れ、その後のジュエリー製作にも情熱を傾ける。気づけば家族と過ごす時間よりも仕事に没頭しているかもしれませんが、それほどまでに私たちを夢中にさせるのが、宝石とジュエリーの世界なのです」
──ご兄弟での役割分担はどのように決まったのですか?
「自然な流れでした。私は長女として一番最初にダミアーニに入社し、父の仕事を手伝い、ジェモロジストでもあるので、真珠の買い付けなどにも関わりました。弟たちも宝石学を学び、それぞれが自然と役割を担うようになったのです。1996年に父が急逝した後は、それまでの分野をそのまま引き継ぎ、現在の体制になりました。長男グィドは経営、次男ジョルジョは生産とデザイン、そして私は広報やコミュニケーションを担っています。こうして三兄弟それぞれの分野を活かしながら、ダミアーニは現在、複数のジュエリーブランドやマルチブランドの宝石・時計専門店チェーン『Rocca(ロッカ)』などを擁するダミアーニ・グループへと発展しました。その傘下に、イタリアを代表するヴェネツィアングラスのブランド『Venini(ヴェニーニ)』も加わり、私は社長としてヴェネツィアの工房にも足を運ぶ日々を送っています」

──ヴェニーニは、美しい花瓶やオブジェで知られるブランドですよね。シルヴィアさんご自身も、やはりその美しさに魅せられたのでしょうか?
「はい、強く惹かれました。実際、私の両親も長年ヴェニーニの作品をコレクションしており、幼い頃からその魅力に触れてきたのです。ガラスという素材は無限の可能性を秘めていて、実は私のクリエイティビティを発揮できるのは、ガラスの世界なのかなとも思います。宝石と同じように、ガラスもまた私の情熱を掻き立ててくれる存在です」
──ジュエリーとガラス、それぞれ異なる世界に見えますが、共通点もあるのでしょうか。
「ええ、とても多いと思います。例えば職人を“マエストロ”と呼ぶ点。金細工職人もガラス職人も、その称号を与えられるのは熟練した技を持つ者だけです。ジュエリーは人々の装いを完成させ、ガラス製品は住まいを完成させる。つまり、装いの要がジュエリーであり、暮らしの要がガラスであるという意味で、両者は響き合っているのです。
また、ヴェニーニは長い歴史のなかで、建築家やデザイナー、フォトグラファーなど、さまざまなアーティストとのコラボレーションを重ね、優れた作品を発表してきました。私自身も広報や経営の仕事を通じて、そうしたクリエイターたちと交流する機会に恵まれています。彼らとの出会いは、作品づくりの上でのインスピレーションだけでなく、人としての学びや感動も与えてくれる大切な刺激になっています」

──最後に、ご自身が家業や仕事にこれほど情熱を注げる理由をどう考えますか?
「今、こうしてお話しながら改めて思うのは、私たちがこれほどまでに自分の家業を愛し、日々の仕事に情熱を注げるのは、結局“美しさを求める仕事”だからだということです。もちろん経営者としての責任はありますが、それ以上に、美を追い求めること自体が原動力となり、仕事という枠を超えて、私たちの人生そのものを豊かにしてくれるのだと感じています」

インタビューを通して強く感じたのは……、ダミアーニが100年以上にわたり創業一家の手で続いているのは、偶然ではなく、いくつもの必然と奇跡の積み重ねなのだということです。
ブランド名でもあり、同時に家族の名字を背負っていること。
一家全員が宝石を心から愛し、それを人生の喜びとしていること。
三兄弟が仲良く自然に役割を担っていること。
そして“美しさを求めること”そのものが日々の情熱の源になっていること。
そして何よりも、ブランドの顔として世界に立つシルヴィアさんの華やかな存在。ダミアーニのジュエリーを纏う姿は誰よりも美しく(間違いなく世界で一番ダミアーニのジュエリーがお似合いになる!)、語る言葉にはチャーミングさや情熱が宿っていて、何よりも仕事を愛し、働き者である彼女の姿は、同じ女性として大きな刺激を受けました。そして改めて、彼女こそがダミアーニというブランドをより輝かせている存在なのだなと、しみじみ感じました。
シルヴィアさん、そしてダミアーニ・ジャパンのみなさま、このような貴重な機会を本当にありがとうございました。

Damiani
ダミアーニ 銀座タワー
TEL/03-5537-3336
URL/https://www.damiani.com/ja_jp/
Photos:Kyutai Shim Edit & Text:Aika Kiyohara
Profile

イタリアを代表するハイジュエラー、ダミアーニの創業一家に生まれ、幼い頃から宝石に親しみ、1985年に入社して以来、弟のグィドとジョルジョとともにブランドを率いてきた。広報やイメージ戦略に加え、革新的な海外メディア戦略とマーケティング戦略を推進。ブランド認知度の飛躍的に高めるとともに、エレガントで気品あるスタイルを打ち出し、ダミアーニを世界的なジュエラーへと成長させた。さらに美や文化、アートへの情熱も深く、芸術遺産の保存活動にも尽力。こうした功績が評価され、2018年にはイタリア政府より「Ordine della Stella d”Italia(イタリア星勲章)」を受賞し、19年にはフォーブス誌「世界で最も影響力のある女性100人」に選出。



