【連載】まさき先生が導く全女性のためのウェルネスメソッド vol.5 改めて知っておきたい、「不妊」について | Numero TOKYO
Life / Feature

【連載】まさき先生が導く全女性のためのウェルネスメソッド vol.5 改めて知っておきたい、「不妊」について

毎月の生理、デリケートゾーンの悩み……我慢できてしまう小さな不調を見逃していませんか。不調があって当たり前と見過ごしていると、思わぬ病気や妊娠時のトラブルの原因に。連載「まさき先生が導く全女性のためのウェルネスメソッド」では、産婦人科医の安部まさき先生が、専門的な視点から女性の体と心に寄り添うアドバイスをお届けします。

「日本では、不妊治療の件数は年々増加傾向にあり、夫婦の4.4組に1人が不妊に悩んでいると言われています。約10人に1人の赤ちゃんが体外受精によって生まれているという現状もあり、妊娠=自然にできるものではなくなっているのが、今の現実。不妊はとても身近な問題になってきているのです。少しでも不安に思ったら、クリニックへ。今のカラダがどのような状態かを確認できるのに加えて、これからの人生のプランをイメージするうえでも大事。特に35歳をすぎて妊娠を希望する場合は、なるべく早く受診するのをオススメします」(安部まさき先生)

不妊ってどういうこと?

──何をもって「不妊」とするのか。定義を教えてください。

日本においては、妊娠を望む健康な男女が、避妊をせずに性交していたにもかかわらず、1年間妊娠しない場合を「不妊症」と言います。女性では、排卵がうまく起こらない、子宮内膜症がある、卵管が詰まっているなどが原因で妊娠しにくくなることがあります。生理が不規則な人や心当たりのある方は、1年も待たずに検査や治療を始めたほうが良いと言われています。

──不妊の原因は女性側にあると思われがちですよね。

不妊の原因は女性だけではなく、WHOの調査では約半分が男性にあるとされています。女性のみが原因のケースは約40%、男性のみは25〜30%、男女双方にあるのは25〜30%で、原因不明も10〜15%ほどです。男性側の原因としては、精子がうまくつくられない、通り道がふさがっている、性交が難しいなど……自覚症状がないことも多いため、夫婦で一緒にクリニックを受診することが大切です。検査は不妊治療専門のクリニックのほか、男性の場合は泌尿器科でも受けられます。

──クリニックではどんなことがわかりますか?

原因がはっきりしない場合もありますが、わかっているケースでは、排卵がうまく起こらないことが原因なことが多いです。通常、卵巣の中の卵胞は2cmほどに育つと排卵しますが、排卵がうまく起こらなかったり、卵子の通り道である卵管が詰まったりすると妊娠しにくくなります。これは、クラミジア感染などの炎症や、子宮内膜症による癒着が原因なことが多いです。

さらに、子宮に奇形やポリープ、筋腫などがある場合も、妊娠に影響することがあります。これらは症状が出ないこともありますが、強い生理痛や生理不順として現れる場合も。治療によって改善できることもあるため、不妊の可能性を感じる場合は早めに医療機関を受診することが大切です。

──ライフスタイルも不妊に影響を及ぼしますか?

睡眠不足や過労、ストレスの蓄積などは自律神経やホルモンバランスに影響を及ぼし、不妊につながります。喫煙や受動喫煙は、静止や卵子の質を下げるので、やはり禁煙がベスト。飲酒に関しては適量なら問題ないとされますが、やはり飲み過ぎは注意が必要です。卵管に炎症などトラブルを起こすクラミジア感染症など、性感染症も影響が多いため、予防や早期治療は重要と考えて。

──痩せている、太っているという体型も影響があるのでしょうか?

答えはイエス。過度なダイエットで痩せすぎると排卵が止まる(無月経)リスクがアップします。また、BMIが30を超えると、排卵がうまく起こりにくくなり、妊娠しにくくなることがあります。また、妊娠できた場合でも、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などのリスクが高まります。妊娠を希望する場合は、適正な体重を意識して生活することが大切です。

年齢と妊娠率は反比例する?

──年齢を重ねると、妊娠しづらくなると聞きます。

自然妊娠率(不妊治療をせず、否認しないでの1回の生理周期あたりの妊娠率)は、34歳までは約25〜30%ですが、35歳になると約18%、40歳に入ると約5%、45歳以上では約1%まで下がります。また少なくとも1人を90%授かることができるのは、35歳までに不妊治療を含む妊活を始めた人というデータも。流産率も加齢とともに上がることから、できるだけ早い段階での計画が◎。1人目の妊活は31歳までに、子供は1人でいいというなら35歳までに妊活を始めることをオススメしています。

──具体的にはどんな治療法があるのでしょうか?

一般的な治療法としては以下があります。

STEP1:セルフでのタイミング法
基礎体温や排卵チェッカーを使って排卵日を予測し、その日に合わせて性交渉を行う方法。自宅でもできる基本的な方法です。

STEP2:病院でのタイミング法
超音波(エコー)で卵胞の大きさを測定して排卵日を予測し、性交のタイミングを指導してもらいます。数回の通院が必要で、排卵誘発薬を使うこともあります。

STEP3:人工授精
排卵のタイミングに合わせて、パートナーの精子を採取し、カテーテルで直接子宮内に入れる方法です。

STEP4:体外受精・顕微授精(IVF・ICSI)
より専門的な方法で、卵巣から卵子を取り出し(採卵)、体外で精子と受精させた後、受精卵を子宮内に戻します。

基本的にはSTEP1から順に進め、数周期試して妊娠しなければ次のステップへ進みます。20代であれば各ステップに時間をかけられますが、30代後半では時間的余裕が少なくなるため、タイミング法の期間を短くして人工授精や体外受精に早めに進むことも。また、精子の状態が悪い場合も、早い段階で体外受精や顕微授精を検討します。匂いやオリモノの異常がある場合は、性感染症の検査と適切な治療を受けることも大切です。

“卵子凍結”という選択肢

──卵子凍結をする人も増えていますよね。
卵子は年齢とともに老化することがわかっており、質が低下して妊娠率の低下につながります。そこで卵子をクリニックでお預かりし、凍結することで、若い頃の生殖能力を保ったまま、長期間の保存を可能にするのが卵子凍結です。将来の妊娠に備える選択肢のひとつといえます。

──メリットを教えてください。
卵子凍結した年齢での卵子の質をキープできます。これにより、妊娠の可能性を将来に残すことができる。今は仕事や趣味を充実させてスキルアップやキャリアアップをしたい、パートナーが今はいないので将来に備えたいなど、ライフプランの選択肢が広がる点がメリットです。

──ではデメリットやリスクはないのでしょうか?
「卵巣から卵子を採取するため、少なからず副作用や合併症等のリスクはあり、入院や手術が必要になることも。また、卵子がうまく採卵できないケースもあります。また、将来の妊娠や出産が保証されているわけではないこともよく理解する必要があり、費用対効果が見合わないと思う方もいらっしゃいます。

一般的に、高年齢の方は、若いときに凍結しておいた卵子を用いることで妊娠率が上がることは期待できますが、一方で高年齢での妊娠・出産は母体リスクが上昇するのも事実。費用面では、卵子凍結は自由診療であるため、経済的負担が大きくなる傾向があります。

──卵子凍結による妊娠率は?
海外のデータでは、卵子凍結を行った女性の多く(80%以上)が35歳以上で、平均年齢は36〜38歳です。凍結卵子を実際に使って妊娠した人の割合は5〜7%程度ですが、卵子を凍結した人のうち、凍結せず自分の卵子で妊娠できた人も多く、全体の20%程度といわれています。つまり、半数以上は凍結卵子を使わずに自然に妊娠しています。

卵子凍結にはメリット・デメリットがあり、正しい理解が大切です。卵子凍結について学ぶと同時に、自分のライフプランや妊娠計画を見つめ直すことも重要です。

セルフケアでできる不妊対策

──不妊に対して、できることはあるのでしょうか?

「基本的には食事、睡眠、運動といった基本的な生活習慣を整え、ストレスをためないこと。葉酸のサプリメントの摂取もありますが、基本的に葉酸は赤ちゃんの健康に役立つ重要な栄養素であり、そのために摂るものという認識を。そのほかビタミンDは子宮内膜の環境を整える働きがあるとされており、排卵や着床に関わる可能性があります。また月経で失われやすい鉄分をサプリなどで摂取するのもいいでしょう」

安部まさき先生からひとこと

「不妊に悩む人が増える今、妊娠を望むなら早めに正しい知識を身につけることが大切です。卵子凍結に関心があっても、あまり期待しすぎず、ライフプランも含めて現実的に考えましょう。気になることがあれば、迷わずクリニックで相談してみてください」

なのはなレディースクリニック
住所/埼玉県さいたま市見沼区東大宮5丁目33-12 柏洋ビル1F
TEL/048-878-8338
公式サイト/https://nanohanalc.com/

まさき先生が導く
全女性のためのウェルネスメソッドをもっと読む

Photo:Kouki Hayashi Styling:Ako Tanaka Hair &Makeup:Kei Kouda Interview & Text:Hiromi Narasaki Illustration:Akari Kuramoto Edit:Saki Tanaka

Profile

なのはなレディースクリニック院長。産婦人科医。金沢医科大学医学部卒業後、自治医科大学産婦人科学講座 病院助教、国際医療福祉大学病院産婦人科などを経て、すべての女性がなんでも気軽に相談できるクリニックを目指し、なのはなレディースクリニックを開院。2026年夏頃には出産可能な病院を新設予定。女性特有の病気はもちろんのこと、ライフステージなどにもよって変化する悩みに寄り添い、最適な医療を提案。Numero TOKYOを愛読するファッショニスタでもあり、中でもコムデギャルソンをこよなく愛するという一面も。
 

Magazine

JANUARY / FEBRUARY 2026 N°193

2025.11.28 発売

The New Me

あたらしい私へ

オンライン書店で購入する