美術作家・山口藍による「あのね」展が開催@ミヅマアートギャラリー | Numero TOKYO
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美術作家・山口藍による「あのね」展が開催@ミヅマアートギャラリー

美術作家・山口藍による「あのね」展が東京・市ヶ谷のミヅマアートギャラリーにて開催。会期は、2025年5月14日(水)〜6月14日(土)まで。

『ひとのぬ』 (2025年)  photo : 宮島径 ©ai yamaguchi ・ ninyu works Courtesy of Mizuma Art Gallery
『ひとのぬ』 (2025年) photo : 宮島径 ©ai yamaguchi ・ ninyu works Courtesy of Mizuma Art Gallery

日本の文化や慣習を新たに解釈し絵を描く山口藍は、女の子の存在に自身の美意識を託し、その姿に揺れ動く感情や時間の気配を重ねながら、見る者の記憶の奥に触れるような作品世界を描き続けてきた。本展では、彼女たちの凛とした佇まいが「木」に見立てられ、まるで地に根を張るように、静かに、確かな存在として立ち現れる。

『七木立 – くろあけ』 (2025年) photo : 宮島径 ©ai yamaguchi ・ ninyu works Courtesy of Mizuma Art Gallery
『七木立 – くろあけ』 (2025年) photo : 宮島径 ©ai yamaguchi ・ ninyu works Courtesy of Mizuma Art Gallery

制作の背景には、かつて近所の校庭に立っていた一本のプラタナスの木の記憶があるという。消火栓ボックスを飲み込んで大きく成長していた木が、改築に伴って伐採されることになり、消火栓が取り除かれた跡には、四角くぽっかりと口をあけた大きな穴が残されていた──。自然がかたち作った人工物のようにも見えるその風景は、「ある」と「ない」のあわい、自然と人工の境界の曖昧さ、そして移ろいの在りようとして、山口の記憶に強く刻まれた。

『七木立 – ときわ』(部分) (2025年) photo : 宮島径 ©ai yamaguchi ・ ninyu works Courtesy of Mizuma Art Gallery
『七木立 – ときわ』(部分) (2025年) photo : 宮島径 ©ai yamaguchi ・ ninyu works Courtesy of Mizuma Art Gallery

この出来事を起点に、山口は「+」と「−」をつなぐ一本の線、「|」の存在に着目する。「−」に「|」を加えれば「+」となり、「|」を除けば再び「−」に戻る。実在と不在を行き来し、相反するものをつなぐ小さな媒介のような「|」の存在。ささやかで日常的な気づきではあるものの、山口にとっては制作の核となる、大切な感覚だという。

本展では、その軌跡のようなものを、自身の新たな美意識の形として、女の子たちの佇まいに重ねた。着物の裾はあの木の根のように地を這い、空間に静かに呼応するように、その場にとどまる。抗わず、拒まず、ただ在ること。そのしなやかで揺るぎない存在には、人の手の及ばないものへの畏れと、そこに身を委ねる感覚が息づいている。

『知る波の浜』(部分) (2025年) photo : 宮島径 ©ai yamaguchi ・ ninyu works Courtesy of Mizuma Art Gallery
『知る波の浜』(部分) (2025年) photo : 宮島径 ©ai yamaguchi ・ ninyu works Courtesy of Mizuma Art Gallery

日々の暮らしのなかでふいに芽吹いた思考や感覚、小さな気づきの積み重ねから生まれた新作たち。一本一本丹念に描かれた髪の流れや、沈黙をたたえた眼差し、指の先に続く景色を辿ってみよう。「あのね」と、作品がそっと語りかけてくるような、静かな対話の時間が訪れるかもしれない。

※掲載情報は5月16日時点のものです。
開館日時など最新情報は公式サイトをご確認ください。

山口藍展「あのね」
会期/2025年5月14日(水)〜6月14日(土)
会場/ミヅマアートギャラリー
住所/東京都新宿区市谷田町3-13 神楽ビル 2F
開館時間/12:00〜19:00
休館日/日、月
URL/https://mizuma-art.co.jp/exhibitions/2505_yamaguchi-ai/

Text : Akiko Kinoshita

 

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