WWDJAPAN編集長 村上要が語る2025年トレンド予測「ファッションビジネス編」 | Numero TOKYO
Fashion / Feature

WWDJAPAN編集長 村上要が語る2025年トレンド予測「ファッションビジネス編」

頻発するデザイナー交代に、変化するブランドの服作り、高騰する価格、注目の素材とシルエットなど、ラグジュアリーファッション業界の動向をWWDJAPAN村上要編集長がジャーナリスティックな視点で解説。今後のラグジュアリーファッションの行方と未来を占う。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年1・2月合併号掲載

デザイナー交代劇の業界への影響

クリエイティブディレクターおよびデザイナーは、ラグジュアリーブランドにとっていわば“顔”のような存在。2024年はデザイナーの交代を報じるニュースが相次ぎ、大きな話題になった。

「頻繁にデザイナーが交代しているのは、ラグジュアリー商品のトップ消費国である中国と米国での売れ行きが良くないのが一因。これまでのような成長が見込めないため、新デザイナー就任のような新しい刺激やトピックを仕掛ける必要性が出てきました。歴史あるブランドは、ますますアーカイブに立脚したクリエイション志向になっていますが、いくら優秀なデザイナーでも過去の資料から新しいクリエイションを生み出せるのは7〜8年が一般的なのかも。ブランド側は、常に新しい視点を持つデザイナーを欲しているんです」

一方で、ただ斬新な人材を採用すればいいのかというと、そうとも限らない。求められる“らしさ”を失い、早々にデザイナーが退任することも。

「ビッグメゾンほど、デザイナーはブランド内外の人たちとうまく働けることが重要。優秀な社内のナンバー2的な人が内部昇格して、トップに就任するケースが増えています。一度メゾンで働いた経験があり、ブランドの風土や作るべきものをよく理解しているから重宝される。この能力が求められる代表格はシャネルで、工房の職人たちとの深いコミュケーションは必須。“シャネルらしさ”を理解していることが重要です。別のブランドに移った人を呼び寄せるという選択肢もあるのでは? 今後に注目したい」

また、今年注視されたのは、新たな女性デザイナーで躍進したクロエだ。

「個人的には、まだまだ女性デザイナーには“ガラスの天井”があると思っているけれど、女性でも右腕だった人の昇格が増えている。中でもクロエのシェミナの起用は、大成功と言える好例です。女性のクリエイターが増えることを期待しています」

右からシェミナ・カマリ(クロエ クリエイティブディレクター)、ショーン・マクギアー(マックイーン クリエイティブディレクター)、サバト・デ・サルノ(グッチ クリエイティブディレクター)※23年より就任
右からシェミナ・カマリ(クロエ クリエイティブディレクター)、ショーン・マクギアー(マックイーン クリエイティブディレクター)、サバト・デ・サルノ(グッチ クリエイティブディレクター)※23年より就任

Topic1 有能なナンバー2デザイナーの躍進

スターデザイナーの下で育ったデザイナーが、ブランドのDNAを引き継ぎクリエイティブディレクターに就任するケースがよく見られるように。セリーヌのマイケル・ライダーとクロエのシェミナ・カマリは、いずれもフィービー・ファイロと共に働いたメゾンにカムバック。ジバンシィに移ったサラ・バートンは、かつてこのメゾンを指揮したアレキサンダー・マックイーンの右腕だった。ボッテガ・ヴェネタのマチュー・ブレイジーのような活躍に期待したい。

透け素材や風船シルエットの理由

2025年春夏シーズンのランウェイを彩ったのは、レースやチュール、オーガンジーなど。空気を纏うバルーンシルエットが散見された。

「気候変動で、暑い日が続くとレイヤードスタイルは厳しい。でもレースなら重ね着できるし、パステルカラーの透ける素材のレイヤードは爽やかな色のグラデーションを楽しめる。酷暑のレイヤード提案が多々見られました。オーバーサイズのシルエットも、ストリートに由来するのではなく、空気が行き渡った快適な着心地を提供するため。風船のようなプロポーションは、軽やかさで暗い時代を少しでも明るくしたいという思いの表れではないでしょうか。クロエは、かつてのフィービー・ファイロのようにかわいいだけではなく、ボヘミアンなムードやスエードの日に焼けた感じで自立した女性を讃えています」

Topic2 レースやエアリーシルエットに秘めたエンパワーメント

軽やかでシアーな素材感はトレンドの一つ。透け感はここ数年のキーワードだが、今季はボーホーシックやフューチャリスティックなルックでも、パステルカラーの透け素材のレイヤードが新しい。明るいトーンの淡いパステルカラーの他には、ヴィンテージシックでレトロなくすんだカラーも人気。ボヘミアンなムードを加えて強さも演出する。どこか懐かしい色使いと素材をバルーンシルエットやマスキュリンなジャケット、タイトなドレスに。

次なる未来を見据えた服作り

昨今のラグジュアリーファッション界で存在感を増してきたのは、LVMH、ケリング、リシュモンの欧州3大複合企業グループ。中でもLVMHは「ルイ・ヴィトン」や「ロエベ」など、バッグの成功でライバルを引き離してきた。

「一方のケリンググループは、それぞれのブランドでデザイナーがLVMH以上に服作りに傾倒している。“服の当たり前を疑う”ようなクリエイションに挑み続けるのは、バレンシアガ。子どもがパシッと腕に当てて腕に巻きつけるブレスレットのような服は、着るというより着けるブラトップ。襟を立てたいかにもバレンシアガなトレンチコートは、襟を折りたたむとビスチェになったり。今までとはレベルの違う2wayに挑んでいます。商業的に成功するのはもっと先かもしれないけれど、面白い試み。一般的な洋服のありようさえ疑い、革新しようとする姿勢はクリエイターの真髄では」

他にも心に残ったケリンググループのブランドがあるという。

「ボッテガ・ヴェネタは手の届かない価格帯に突入してはいるものの、工芸やアートとファッションが融合。サンローランはイヴ・サンローランの美学を最大限に表現して今なお人々を魅了し続けています。グッチは大きなブランドだからより大勢が着られるミニマルな日常着を提案しており、私は理解できるし間違っていないアプローチだと思っています。マックイーンは、受け継がれてきた脆くて美しい狂気を若いデザイナーがうまく表現していました。いずれも応援し続けたいです」

Topic3 “服の当たり前を疑う”未開拓のクリエイション

バレンシアガは、形状記憶したフレームを駆使したブラトップ。ジュンヤワタナベは、インダストリアルな防音素材まで採用したドレスを提案。これまで服作りにおいては選択肢に挙がらなかった素材を実験的に使用するブランドが増えてきた。サカイは、定番アイテムの肩や背中の生地をズラしてラッフルに変換。今後はさらに未開拓で意外性に富んだ新素材の追求とシルエットの探求が進むと予測される。

止まらないラグジュアリー傾向の先に

価格の高騰が止まらないブランドバッグ。欧米では90年代から2010年代まで、バッグの価格はホワイトカラーの初任給と同水準だった。20万円程度だったブランドバッグの価格は、彼らの所得と共に上昇し、昨今は40万円前後が一般的。だが今は、欧州のホワイトカラーさえ初任給を全て注ぎ込んでも買えない価格に突入している。

「こんな価格上昇は前代未聞。まして所得が伸びない日本では、ブランドバッグは高嶺の花です。最近はどこもローカル、つまり日本人による売り上げが停滞しています。人件費や材料費は上がっているので以前のような水準には戻りませんが、価格を上げ続けるブランドは減り、もう少し現実的なアイテムが増えるのではないかと予想しています」

一方で、次なる一手に出るブランドも。かつてラグジュアリーブランドのエントリーアイテムといえば、ウォレットなどの革小物。さらにスニーカーやキャップ、最近はヘアアクセサリーなど、若い世代が購入しやすいアイテムを次々開発してきた。しかしファッション雑貨は出尽くした感がある中、各社力を入れ始めたのがフレグランスやコスメの領域。

プラダは24年化粧品をローンチしましたが、25年にはミュウミュウが同じくロレアルと協業してまずは香水、追ってカラーコスメを出すと噂されています。ドリス ヴァン ノッテンメゾン マルジェラもビューティを強化中。さらにはマルニも虎視眈々と参入を狙っています。ハイブランドは、従来の価格帯よりも高額な“ウルトラプレミアムな”フレグランスに注力。1本3万〜4万円という価格帯です。知る人ぞ知る高級香水ブランドとの戦いが始まっています」

ドリス・ヴァン・ノッテンのフレグランスコレクション
ドリス・ヴァン・ノッテンのフレグランスコレクション

プラダ ビューティ ホリデーコレクション
プラダ ビューティ ホリデーコレクション

Topic4 ハイブランドコスメの奮闘

ドリス ヴァン ノッテンのフレグランスコレクションに、新作オードパルファムが仲間入り。意外性のある香りをブレンドした4種類はブランドのアイデンティティを語り、各々アート、色彩、職人技、旅といったテーマを表現している。24年春にはプラダビューティのメイク、スキンケア、フレグランスを購入できる東京・表参道の「プラダ ビューティ トウキョウ」が上陸しコスメライン人気の勢いが増す。


Interview & Text:Aika Kawada Edit:Saki Shibata

Profile

村上要Kaname Murakami WWDJAPAN編集長。1977年、静岡県生まれ。静岡新聞社に勤務後、渡米。ニューヨーク州立ファッション工科大学でファッションコミュニケーションを学ぶ。帰国後はINFASパブリケーションズに入社。2017年『WWDJAPAN.com』編集長に就任。21年より現職。

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