クリエイターがセレクト。大切な誰かに贈りたい、心に残る特別な一冊
最前線で活躍する各界のトップクリエイター7名に、大切な誰かに贈りたい本を選んでもらった。彼らの哲学や希望が詰まった一冊。ぜひあなたも手に取ってみてほしい。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2024年12月号掲載)
グラフィックデザイナー/岡﨑真理子
『NO THANKS, I’M JUST LOOKING』
リサ・スディバシルプ/著(ビルディング・フィクションズ)
日常のオブジェクトがアートに
「アーティストのリサがホームセンターで行ったインスタレーションをまとめた一冊なのですが、安価でありふれた日常のオブジェクトが美術作品に見えてくる。即興的な少しの操作で物事の見方を変化させる面白さとホームセンターへの愛を感じます。オランダ留学時代の同級生が主宰する出版社から発行された本で、彼がプレゼントしてくれたんですが、私からもDIYとホームセンターが大好きな母に贈りたいです。目を輝かせて喜びそう」
(おかざき・まりこ) 慶應義塾大学卒業後、オランダアムステルダムのヘリット・リートフェルト・アカデミーでグラフィックデザインを学ぶ。実務経験を経て2018年よりフリー、22年REFLECTA,Inc.を設立。
俳優、モデル/玉城ティナ
『小さな徳』
ナタリア・ギンズブルグ/著 白崎容子/訳(河出書房新社)
女性の普遍的な悩みに寄り添う
「人間関係や仕事など日々追われることの多い現代に生きる私たちは、時代を超えて知らない街へエスケープする瞬間があってもいいはず。この本は1940年代から60年代にかけてのエッセイ集。戦時中のつらい体験の描写もあるのですが、文体のおかげか残酷すぎず、人間の本質的な悩みは変わらないんだなと思わされます(われわれは経験しないことを祈っています)。同世代の女友達と呼びたい人たちにほっとしてもらいたくて選びました」
(たましろ・てぃな) 14歳で『ViVi』(講談社)の最年少専属モデルに。人気モデルとしてトレンドを牽引するかたわら数々の映画、ドラマ、広告に出演。2025年1月には出演映画『366日』が公開予定。
フリーアナウンサー/吉田明世
『きみなんか だいきらいさ』
ジャニス・メイ・ユードリー/文
モーリス・センダック/絵 小玉知子/訳(冨山房)
少年たちから学ぶ仲直り
「二人の子どもを育てているのですが、子どもって本当によくけんかをする! だけどその分、信じられないスピードで仲直りもする。あの切り替えの速さ、引きずらない寛大な心は、子どもたちを最も尊敬することの一つ。夫婦げんかも仕事での意見の食い違いも、この絵本に出てくる少年たちのようにすぐにスイッチを切り替えて仲良く手を組んで歩けたら最高ですよね。誰かとけんかをしてしまった全ての方に読んでほしいです」
(よしだ・あきよ) 2011年、TBSにアナウンサーとして入社。19年からフリーアナウンサーとして活動。ラジオパーソナリティーをはじめ、テレビやイベント出演、モデルなど多彩に活躍。絵本専門士と保育士の資格を持つ。
歌人/瀬戸夏子
『ソフィアの災難』
クラリッセ・リスペクトル/著 福嶋伸洋
武田千香/編訳(河出書房新社)
生という謎を突き詰めた物語
「数年前に亡くなった妹に贈りたいです。彼女の死までに、私たちの間にあった数々の難問は解決されることはありませんでした。この本を渡しても彼女は読んでくれなかったような気もします。けれど、私たちの間に横たわるさまざまな困難の隣に、それぞれの生という謎を突き詰めた物語でぱんぱんのこの本を置いてみたかったです。人に惹かれるということへの嫌悪感そのものを共有することはできたのかもしれません」
(せと・なつこ) 1985年生まれ。著書に『かわいい海とかわいくない海 end.』(書肆侃侃房)、『白手紙紀行』(泥書房)、『はつなつみずうみ分光器 after 2000 現代短歌クロニクル』(左右社) などがある。
モデル、タレント/市川紗椰
『増補新版 にっぽんのかわいいタイル 昭和レトロ・モザイクタイル篇』
加藤郁美/著(国書刊行会)
散歩がもっと楽しくなる
「タイトルどおり、かわいいタイルがたくさん! 実際に見に行きたいです。タイルの種類について詳しくなれるのもうれしい。贈りたい相手は散歩仲間でもあるラジオの作家さんです。一緒に街歩きや建築巡り、散歩をすると二人ともいつも建物や家具などのタイルに反応するんです。この本は、旧朝香宮邸の東京都庭園美術館のミュージアムショップで見つけたんですが、相手の方もこの美術館が好きなので喜んでくれそうです」
(いちかわ・さや) アメリカ・デトロイト育ち。趣味は音楽、読書、アニメ鑑賞、鉄道、美術鑑賞、相撲、食べ歩きなど多岐にわたる。 J-WAVE「ORIENT STAR TIME AND TIDE」(毎週土曜 21:00〜21:54)ほか、ラジオでも活躍している。
ファッションデザイナー/村田晴信
『アキッレ・カスティリオーニ 自由の探求としてのデザイン』
多木陽介/著(アクシス)
思想の背景を共有したい
「照明や空間のデザインを通じて本質を捉えるカスティリオーニの哲学に触れることができる名著。私が一番影響を受けた本であり、HARUNOBUMURATAのデザインにおいて形のない感覚や気持ちのようなものをデザインしたいと思っていますが、その考え方に至るきっかけにもなりました。距離の近い友人と思考の背景を共有できることはHARUNOBUMURATAが考える“ラグジュアリー”の形の一つなので、ぜひ友人に贈りたいです」
(むらた・はるのぶ) イタリア・マランゴーニ学院マスターコース修了。2012AWミラノコレクションにてデビュー後、ジョンリッチモンド、ジル サンダーで経験を積み、18年に「HARUNONBUMURATA」を始動。
建築家/田根剛
『Humankind 希望の歴史 人類が善き未来をつくるための18章』
ルドガー・ブレグマン/著 野中香方子/訳(文藝春秋)
希望をつなぐ一冊
「人類に対する価値観が変わる一冊。戦争や凶悪犯罪など、人間の暴力性にスポットライトが当てられる歴史やニュースの裏側には、実は人間の本能に備わった“エンパシー(共感性)”が大きく影響することに衝撃を受けました。著者ブレグマンは、ホモサピエンスのエンパシーに着目し、さまざまな人間の物語を導き出します。この人類に希望を与える一冊は、友人が教えてくれ、今度は私から別の友人に贈りたい本です」
(たね・つよし) Atelier Tsuyoshi Tane Architectsを設立し、フランス・パリを拠点に活動。フランス国立建築・遺産博物館にて展覧会「Tsuyoshi Tane – Une Archéologie du Futur」を2025年11月3日まで開催中。
Photos:Koji Yamada Edit:Mariko Kimbara, Miyu Kadota