Gemmyo ポリーヌ・レニョー インタビュー「婚約指輪探しでの期待外れなエピソードから、私たちの挑戦は始まりました」
フランス・パリで創業したモダンジュエリーメゾン、Gemmyo(ジェミオ)が2024年11月、日本に本格上陸。表参道のアジア初の旗艦店オープンに併せて、創業者のひとり、ポリーヌ・レニョーが来日。ブランド立ち上げや画期的な販売方法など、ジェミオのストーリーを聞いた。
創業は2011年、まだ13年とスタートからまだ日が浅いが、在庫を持たずデジタルツールを駆使した先駆的なアプローチで成功を収めているジュエラーだ。
──ジェミオを設立されたきっかけは、とても興味深いものですね。
「共同創業者である夫のシャリフから、私がプロポーズを受けたときのラブストーリーを機に始まりました。婚約指輪を探すために、いくつかの有名なジュエラーに出かけたときのこと。リングを選ぶ体験も思い出に残るものにしたかったのですが、残念ながら期待とは少し違うものでした。セールスファーストな接客、排他的で少し威圧的な空気感……私たちは人生における特別な愛の証を選ぶにあたり、もう少し温かみのある対応を受けたかったと感じました」
──具体的にはどのような対応を求めていましたか。
「私はもともと宝石にとても魅了されていたので、一般的な売れ筋の画一的なおすすめではなく、ユニークな宝石の提案など、もっとパーソナルに寄り添ったアドバイスを望んでいました」
──その経験からジェミオを立ち上げたのですね。
「そうなんです。ならば、自分たちでハイクオリティな宝石を使った、モダンなジュエリーをつくろうと考えました。インバウンド向けにマーケティング重視したものではなく、ローカルな人々が本当に求めるものにしたいという思いもありました」
──ブランド名のジェミオは、どのような意味ですか?
「ブランド名には宝石を意味する『ジェム』というワードは必ず入れたいと思っていました。二人のラブストーリーから立ち上がったブランドですが、より長い先を見据え、あえてファミリーネームは使わず、響きが似ている私のラストネーム『レニョー』にもリンクさせています」
──奈良時代の日本の女性天皇、元明天皇にも由来しているとのこと。どこにインスパイアされたのでしょうか。
「実は夫の兄が日本に縁があり、彼の話から元明天皇の存在を知ったのです。平城京遷都など大胆な発想で行動を起こしたアバンギャルドな女性。当時はまだ閉鎖的だっただろう日本で、女性天皇が革新を起こし率いていくところに魅了されました。ジュエリー業界を切り拓いていきたいと考えていたので、どこか重なる部分があるとシンパシーを覚えました。そこで『ゲンミョウ』とも読めることが、ジェミオのネーミングへとつながったのです」
──もともとラグジュアリー業界でのキャリアに興味はありましたか。
「家族もラグジュアリーやジュエリー業界とは無縁。私は文学やアートを専攻し、教授を目指していたのです。興味を持っていましたが、私たちはラグジュアリー業界での経験がないからこそ、ゼロから学びながら、革新的なアイディアが思い浮かぶのかもしれません」
──フランスではすでに高い人気を誇るそうですね。その要因はどこにあると思いますか。
「3つの要因があると思います。ひとつはデザイン性。100%メイド・イン・フランスで、洗練されていながらも普段使いもしやすいデザイン。ふたつめは接客です。店の対応の温かさはもちろん、顧客のニーズに寄り添う意識を大切にしています。最後が価格ですね。『フェアプライス』とも呼んでいますが、ハイクオリティな素材を使いながら手に届きやすいを実現しています。それらが新しい価値として受け入れられ、広がっていくきっかけになったのではないかと思っています」
──提唱されている「スマート・ラグジュアリー」とはどういう価値観ですか。
「もっとも美しいジュエリーを徹底的に考え抜かれたデザインとフェアな価格で提供する、それが私たちが体現する『スマート・ラグジュアリー』です。いまは経済的成功や社会的地位を表立って見せるよりも、文化的な深みや世界への理解力など個性や知性を重んじる傾向にありますから」
──ラグジュアリー業界の現状をどうとらえていますか?
「13年前の私の体験の時点から徐々に始まっていたのだと思いますが、ブランドと受け手にすれ違いが起きていて、世界的にラグジュアリー業界は転換期にきています。さらに値上げラッシュが続き、手が届きにくい存在に。そういった現状を受け、実際とあるブランドは価格を戻し始めています。価格もですが、ブランド本来のルーツやクラフツマンシップにフォーカスした誠実なものづくりで、顧客の声を耳を傾ける必要性があるように感じています」
──100%のリサイクルゴールド、抑えた価格、受注販売、予約制サロン、フランス生産など、革新性の実現はどのようになされているのでしょう。
「何か革新的なことを狙ってやっているわけではなく、こうあるべきと信じる明確なビジョンをもとに進めてきたことが、実際に受けられている状況。ここに来るまでに13年かかっていると思うと、ジュエリー業界に風穴を開けていくことはそう簡単ではありません」
──ジュエリーのデザインは、どのように考えられているのでしょうか。
「経営だけでなく、デザイン統括も私が行っています。宝石そのものの場合もありますし、建築物という場合もありますが、常に何らかのインスピレーション源から発想しています。広く愛されるものにしたいので、実際の着け心地などローンチ前に顧客の声を参考にすることも。新作は毎年だいたい3、4コレクション発表していますが、時期は不定期です」
──例えば今日つけていらっしゃるジュエリーでは?
「この『エバーブルーム』のピアスは、コニャックダイヤモンドに惚れ込んだところから始まりました。この石を生かすデザインとして、バランスは均等にせず、自然の不完全さを表現したいと考え、そこに耳に沿うようなイヤーカフのアイデアが融合して生まれました。実はこれは自分の誕生日を祝してつくったものでもあるんですよ」
──日本のショップをオープンされて数週間経ちますが、どのような反応を耳にしていますか。
「おかげさまで好反応をいただいており、数字的にも既に目標には到達しています。日本とフランスには通じるものがあると感じています。洗練された上品な美しさ、さりげないデザインを理解するところ。日本にはおもてなしの文化がありますが、商品を押しつけるのではなく、ゲストに寄り添った接客の温かさに共感いただいているようで嬉しいです」
──ジェミオのショップ運営も独自ですね。
「満足いただける丁寧な接客のために、ショップは予約制のサロンとしています。他のジュエラーのようにショーケースに大量に陳列はしていません。基本となるデザインを直接タッチアンドトライしていただき、オンライン上でじっくり自分だけの宝石、地金を選ぶ仕組みです。これはフェアプライスで提供していくために必要なプロセスでもあります」
──ECでの売り上げも好調と伺いました。
「ECでの販売は50%ほど。ハイジュエリーのブランドでは、3%とも耳にしますのでとても好調です。男性がギフト用に購入する率も高く、それもニーズにマッチしていたとも思います」
──ECサイトには特別な仕掛けがあるのでしょうか。
「どのジュエリーも多彩なバリエーションでカスタマイズできるので、事前にイメージしやすい工夫をしています。サイトも私がスーパーバイザーとして監修していますが、センスのいいムードだけでなく、できる限り装着したときのイメージがしやすいよう、思い切って視覚に訴えかけるディレクションを心がけています」
──歴史あるジュエリー業界に風穴を開けていくなかで、特に難しかったことは?
「創業当初、名もないブランドがフランスの工房の熟練の職人を説得するのは、容易なことではありませんでした。受注生産なので、オーダーを受けてから各工程をエキスパートに発注しています。他社と違い、流れ作業で限られたパートのみの担うのではなく、もう少し広い範囲で担当できるので職人にも新しい発見があるのだと思います。託される仕事に対する満足度、人々を大切にする誠実なブランドという認知が広がったので、いまは皆、ジェミオのために働きたいと話してくれます」
──フランスでは、ビジネスにフォーカスしたポリーヌさんのポッドキャストが好評と伺いました。日本ではどのようなコミュニケーションで発信したいと考えていますか。
「お客様とつながることができるイベントは、随時企画していきたいですね。日本でも女性の社会進出は、これからさらに加速していくと思います。自分が貢献できる機会があれば、積極的に参加していきたいと思っています」
──最後にこれから目指す輝きとは?
「30回以上来日していますが、当初から日本にショップをオープンしたいと考えていました。それが大好きな表参道で実現するなんて! とても充実感や高揚感があります。アッパーなムードと自然の美しさが共存していて、パリのサンジェルマンのよう。さらにグローバルに展開して、私たちのアドベンチャーを未来へとつないでいくことです」
ジェミオ ジャパン
www.gemmyo.com
E-mail/hello@gemmyo.com
Edit & Text:Hiroko Koizumi