日英Wキャストで日本初演が決定! 一人芝居ミュージカル『ライオン』
ミュージカル『ライオン』は、音楽にのせた演劇、という意味で言えば確かにミュージカルなのだが、観劇する人間にはちょっとした違和感があるかもしれない。
出演するのは一本のギターを抱えた男性が一人。10歳のベンが数学者の父と数学嫌いの自分をつなぐギターの話を始めるところから自分の半生を弾き語っていく、というスタイルの一人芝居ミュージカルだからだ。
ロンドン・オフウエストエンドの最優秀ニューミュージカル賞を受賞したこの作品を、本作初のリバイバルでベン役に抜擢されたマックス・アレクサンダー・テイラーと日本版キャストの成河がWキャストで上演する。
まず、ギターを弾きながら演じられるキャストを二人揃えることは、難しいことだっただろうと推測できる。部分的に楽器を演奏するシーンがある、という演目はよくあるが、本作は全編の弾き語り。歌舞伎では琴・三味線・胡弓を弾きながら演じる『阿古屋』という演目もあるが、”超”のつく難しい演目として知られ、子どもの頃から和楽器の稽古を積んでいる歌舞伎役者でも演じられる人間は極めて少ない。
マックスと成河の二人は偶然にも俳優としてのキャリアの前にギターを始めていたことが、この作品へのチャレンジにつながっている。
マックスは、6歳からギターを始め、教会のバンドでの演奏などを経て演劇学校の卒業後にプロとしてギターの演奏を始め、俳優がミュージシャンを兼ねるアクターミュージシャン版の『ノートルダムの鐘』などに出演。そのほかに、セッションギタリストやコンサートギタリストなどとしての演奏も行っている。
成河も中学2年から大学までクラシックギターを習っていたという素地があり、オーディションに応募。出演が決まってから全部で20曲ほど弾かなければならないことに怯んだものの、丸1年かけて今作の為の練習を積んだという。10月の新国立劇場『ピローマン』でもユーモラスでありながら心の傷を持つ主人公を演じたばかりだが、その熱も冷めやらぬ中、ロンドンでのリハーサルに参加した。
ギターを弾きながら演じることについて、成河は「普段とは全く違う神経を使うので、例えば料理をしながらギターを弾けるようになるくらいのレベルまで達しないと演技的には自由になれないという難しさがある」と語っている。マックスも「課題は楽器を習得し、自分のものにすること。音を覚えたら、それをまるで自然に呼吸するように、何の無理もなく演奏することが必要。演奏に努力が感じられると、観客は物語から気が散ってしまうことがある」という。
しかし、既にイギリス、アメリカ、韓国での上演を経験しているマックスは、「ギターは歌や演技と同じくらい物語を語る手段の一部となる。場合によっては、ギターが唯一の表現手段になり、その経験はとてもエキサイティングだ」とも言っている。
アカデミー賞を受賞した映画『Coda コーダ あいのうた』での手話が、手話でしか成しえない表現を成功させたように、また、『阿古屋』での琴や胡弓の演奏が、阿古屋の言葉にできない苦しみを表すように、『ライオン』のギターもまた、ギターでしか語れないものを伝えてくれる。
マックスは、ロンドンで行われたリハーサルの初日に成河の読み合わせを観て、「日本語がまったくわからないのに、彼の演技からすべてのセリフが理解できた」という。成河の演技の素晴らしさと共に、この作品に流れる普遍的なテーマが、ギターを通じて届いたのだろう。
今回、日本版を演じる成河に、マックスとの違いをどう打ち出したいか尋ねると「違いを出そうとか、出さなければいけないとは全く思いません。言語が違うので全くの別物になると思いますし、その二つを並べた時に真ん中にこの作品の普遍性が立ち上がる、もしくはそれぞれの国の文化が立ち現れるのではないか」と答えてくれた。
マックスの演じる『ライオン』と、成河の演じる『ライオン』。その二つを観ることで、もう一つの普遍的な『ライオン』が観るものの中に立ち上がる。ぜひ、二つのバージョンを味わってみたい作品だ。
舞台 ミュージカル『ライオン』
出演/
来日版(日本語字幕付):マックス・アレクサンダー・テイラー
日本版:成河
脚本・作曲・作詞/ベンジャミン・ショイヤー
演出/アレックス・ステンハウス、ショーン・ダニエルズ
翻訳・訳詞/宮野つくり 成河
公演日程/2024年12月19日(木)~12月23日(月)
会場/ 品川プリンスホテル クラブeX
問合せ/梅田芸術劇場(10:00~18:00) 東京 0570-077-039
企画・制作・主催/梅田芸術劇場
公演HP/https://www.umegei.com/thelion2024/
X/@thelion_2024