直感的な服作りに共感し、纏う。いま語りたい、女性デザイナーたち
フィーリングがダイレクトに伝わり「こんな服を待っていた」と直感的に惹かれる。そんな女性デザイナーたちの感性、服作りについて、ライターの栗山愛以とバイヤーの柴田麻衣子が語る。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2024年11月号掲載)
圧巻!蘇ったクロエウーマン
柴田「今季の大きなトピックといえば、デザイナーがシェミナ・カマリに変わったクロエ。これまで新たなクロエ像を模索していたけど、ここでいわゆる“ザ・クロエ”に戻ってきた。ちょうどフェミニンなブランドの層が薄かったこともあり、タイミングも良く、フィービー・ファイロやクレア・ワイト・ケラーがデザイナーだったときに熱狂した世代、クロエファンの盛り上がりがすごいんです」
栗山「サスティナブルを前面に打ち出した前任のガブリエラ・ハーストとうって変わって、70年代のクラシックかつフレンチアイコン的なスタイルへの原点回帰が印象的。ヒッピー風の大ぶりなシフォンのフリルやフリンジを大胆に使っていました」
柴田「過去のアイコニックなブレスレッドバッグやカメラバッグなども登場し、デザインを再解釈してアップデート。洋服は、一時サンローランのアンソニー・バカレロの下で働いていた経験からなのか、これまでより官能的なエッセンスが程よく入っている。この奔放な感じの肌の見せ方が今っぽいのかなと。まさに直感的なさじ加減ですよね」
栗山「軽やかな素材が戻ってきた感じはありますね。ただ、ちょっと日本人にはハードルが高いのかなと思ったりもしましたが…」
柴田「ボーホーと謳いながら、ロゴが目立たない上品な仕上がりのアイテムも充実しています。シルクの涼やかなブラウスやスカートも仕立てが良く、着るだけでビシッと決まるので、日本ではファッションフリーク以外にもファンが広がりそうな予感。間近で見ると刺繍も凝っていて、ニットの編み目一つ一つにパールが編み込まれているという凝りよう。あえてTシャツと合わせて着たい気分です。プレのスコートも店頭では人気で、よく動いていますよ」
栗山「元クロエのデザイナーたちは各々大活躍。彼女たちと一緒に働いたシェミナだからこそなせる技」
柴田「イメージの打ち出しは正解だと思いますが、70年代のスタイルよりも、もっとシェミナのクロエが見たいという気持ちが高まっています」
自分の核となる女性デザイナーとは
栗山「気になっているのがフィービー・ファイロ。私の中に確固たる存在として川久保玲、ミウッチャ・プラダがいて、彼女たちと同じ系譜にいるという意味で好きなんです。3人の共通点は、圧倒的なカリスマ性と強さを追求しているところ」
柴田「自分が着る服としては今でこそテイストが違うのですが、ステラ・マッカートニーはキャリアの中で外せない人物。初めて見たショーが、彼女の2シーズン目で。今は珍しくないですが、当時はサビルロウ仕込みのテーラリングジャケットを女性に着せてもいいんだという衝撃がありました。あとは、本革を使わない動物愛護の姿勢と、いち早くハイブランドでサステナビリティを掲げた先駆者。時代を先取りしたステラの直感と手腕を尊敬します」
栗山「普段はデザイナーをあまり性別で判断しないのですが、やはり男女で身体やフィーリングに対するアプローチが違うと思います。よく言われることだけど、男性デザイナーは女性に自分の理想像を、女性デザイナーは自分のカラー、ライフスタイルや着心地を重視する。フィービーはセリーヌ時代から強いものを作っているし、自身の名を冠したブランドでもパワーが増していると思います。使いやすさより、とにかくかっこよさにこだわる。ただ実際に着てみると、女性がスタイリッシュに見えるよう計算しているとわかるんです。個人的に服選びは、ブランドとしての思想や物の強さが最も大事」
柴田「初期のセリーヌ時代のフィービーを振り返ると、シンプルなシャツでも着ると戦闘服っぽさがあった。それまではユニフォーム的なアイテムといえばプラダという感じだったけど、全く異なるアプローチでした」
栗山「今のフィービーが打ち出しているヴィジュアルのかっこよさにやられてしまって。年齢を重ねた人がモデルで、肌を見せても媚びる姿勢が1ミリもない、着る人の自分本位な態度の世界観なんです」
柴田「肩掛けできるバッグを手で持つ、『カバ』を担ぐのもフィービーならでは(笑)。“エフォートレス”といわれていた彼女の影響力は計り知れない。デザイナーが語らず、前に出ないスタンスですが、ザ・ロウの人気も続いている」
栗山「誇張したシルエット、アンバランスなサイズ感。どれもフィービーが始めたんじゃないかなと思っています」
柴田「セシリー・バンセンにも強さを感じます。ふんわりしたものを提案しているのに芯がある。ボリューム感に対して、ステッチなど細部の作り込みまで、ほぼ生地屋の域のテキスタイルへのこだわり。オートクチュール的なものを日常的に着ようというアプローチも新しい。ドレスにスニーカーで自転車に乗ろうというのだから、だいぶ感覚的。私の場合はポジティブで自由に、メンタル的な部分で解放してくれる女性デザイナーの服に心躍るのかもしれません」
クワイエットラグジュアリーのその先へ
栗山「あと今季注目されたのが、カルヴェン。ラコステやアパレルブランドでのキャリアが長いルイーズ・トロッターがデザイナーに就任して、初めての秋冬。ラコステ時代に一度ルイーズを取材したことがあるのですが、家族がいる地に足を着けた、シックでセンスのいい人という印象。彼女はラコステ時代から変わらず、バランス感覚がいいんだと思います。地道に仕事をしてきたことが評価されての抜擢だったんでしょうか。あとは、今回もヴィジュアル作りを一緒にしているスタイリストのスザンヌ・コラーの見せ方が上手ですよね。彼女の抜群のセンスが光っていると思います」
柴田「ルックがかわいい! トレンチコートとシアー素材のミックス、ニュアンスがある色使いなど。ちょうどいいさりげなさは、日本人や韓国人のファッション好きが好むムードかもしれない。このゾーンって今や、一番人口が多い気がしています」
栗山「エフォートレスからクワイエットラグジュアリーの流れですね。ただ、フィービーは決してクワイエットではないと思うんです。攻めてるデザインが多いので。ビジネス面でも、シーズンレスで、当初はオンラインでのみ販売し、徐々に店舗での取り扱いを増やしてきた。今のところ欧米のみの展開なのが残念ですが。新たな動向に目が離せません」
編集部注:フィービー・ファイロは、2024年11月よりオーストラリア、香港、日本、シンガポール、韓国への発送を開始。詳細はこちら。
柴田「確かに全然大人しくない(笑)。他の追随を許さない、ギリギリを攻めています。シェミナとルイーズも、まだ始まったばかり。今後どう展開していくか気になりますね」
Edit & Text: Aika Kawada