Aile The Shota インタビュー「準備はすべて整った。世界に自分を証明するための1stアルバム」
R&Bをベースにシティポップスなどジャンルを横断するシンガー、Aile The Shota(アイルザショウタ)。BE:FIRSTを輩出したオーディション番組『THE FIRST』で見い出されて2022年にデビュー。5枚のEP、10枚のシングルを経て、ついに1stアルバム『REAL POP』をリリースする。第1章の始まりだという彼が、このアルバムに込めた思いとは?
POP性を自覚して生まれた1stアルバム
──1stアルバムのタイトルに『REAL POP』という言葉を選んだ理由は?
「Aile The Shotaとして活動を始めて、もうすぐ3年になります。その時間の中で、『Aile The Shota』というアーティストは何を打ち出したいのか、自分とは何かを掘り下げながらEPの制作を続けてきたんですね。アーティストとしての本質が見えるまでは、アルバムのタイミングじゃないと思っていて。ようやく自分が絶対に譲れない部分や、嘘をつきたくない“リアル”が見えてきて、今回のアルバムをリリースすることになりました。『REAL POP』という言葉が浮かんだとき、これだと思ったんですよ。僕の音楽的なルーツには、J-POPの影響が大きいんですね。大学でヒップホップやR&Bに出会うまでは、ずっとJ-POPばかり聴いていて、そこは自分の軸のひとつになっているから、アルバムタイトルには“POP”という言葉を入れたいと思っていました。“本質的=リアル”であり“大衆的=ポップ”であることが、自分が追い求めるもの。これからのAile The Shotaのテーマです」
──ポップという言葉で連想するのは、4th EP『Epilogue』内の「J-POPSTAR feat. SKY-HI」ですが、今回のアルバムタイトルもその頃に?
「その少し前からなんとなく考えていて。『さよならシティライト』をレコーディングしているときに、プロデューサーのChaki Zuluさんと日髙さんに話したら、2人が『それじゃない?』と言ってくれて。Chakiさんはいつも客観的なアドバイスをくれるんですよ。『踊りませんか?』の制作中に、僕はもっと尖ったヒップホップをやるべきなんじゃないかと思っていたんですね。そうしたら『Aile The Shotaはポップだと思うよ』とはっきり言ってくれたんですね。僕は『THE FIRST』というメインストリームのオーディション番組出身だからこそ、もっとアンダーグラウンドなものを作ってしっかり尖ったアーティストから支持されたいという思いもあって。でも、Chakiさんが『とことんポップになって、上り詰めた先で好きなヤツらを呼べばいい』と言ってくれて、すごく納得しました」
──考えてみれば、地上波のオーディション番組から本格的なシンガーがデビューするという例は少ないですよね。
「前例が少ないから何もないところに道筋をつけなきゃいけないと気負っていたし、だからもっと尖らなきゃともがいていたんですけど、今、やっと道が見えてきました。これまでの時間は、自分がリアルでいるために必要だったんだと思います」
──原点であるPOPに戻ってきたんですね。
「僕はルーツのひとつがKAT-TUNさんというくらい、もともと日本のアイドル文化が大好きなんですよ。アンダーグラウンドカルチャーに傾倒していく中でも、やっぱりその影響は消えなかったです。それから、SKY-HIは自分にとって、まさに『REAL POP』を体現する人です。ずっと本質的な音楽を追求する人を近くで見ていて、影響を受けたところは少なくないと思います」
『REAL POP』セルフライナーノーツ
──今回のアルバムに収録された曲について、どのようなイメージで選定されたのかを教えてください。
「まず、既発曲の『Yumeiro』と『FANCITY』は、デジタル配信でCDに入っていない曲なんですね。Shin SakiuraとSoulflexは自分にとって大きな存在なので、CDの盤に残すという意味も含めてアルバムに入れました。5枚目のEP『omen』もデジタル配信だったので、そこから1曲は入れたいと思っていて。特に『NEBULA』の歌詞は、今の自分の“リアル”を表現した曲なので選びました。EP『omen』は原点回帰と次を見据える思いを込めたEPで、『REAL POP』を掲げる直前の1曲でもあります。それから今回は、『Eternity』『さよならシティライト』や、Dreams Come Trueのカバー曲『空を読む』という自分語りではない曲も入っています。back numberやwacciなど、J-POPには男性が女性目線だったり、他の誰かの視点で歌う曲がありますよね。僕もそういう曲が大好きなので、自分がポップに向かうために、そういう曲を入れたという経緯もあります」
──Dreams Come Trueの『空を読む』を選んだ理由は?
「誰かの視点という意味でも、今回はJ-POPのカバーを入れたいと思っていて、それなら尊敬するDreams Come Trueさんの曲だなと。『何度でも』は僕を救ってくれた曲なんですが、それと同じアルバム『THE LOVE ROCKS』に収録されている『空を読む』の歌詞は、まさに今の僕が求めてる言葉だったんです。YouTubeのライブ動画を見ていたら、概要欄に『同じひとつのことを両方から歌っているのかなと思う』と美和さんのコメントがあって、自分が考えていたことは間違いじゃなかったんだと思ったことを覚えています」
──BMSG MARINE名義で発表した、『Memoria』をセルフカバーしていますが、その理由は?
「元々、BMSG FESのために制作した曲だったんですけど、当初から企画で終わらない曲にしたいと思っていました。BE:FIRSTのLEOからもフレーズをもらったんですけど、全体的にメンバーに向けて書く手紙のような感じで作ったので、改めて僕の言葉で伝えたいと。でも、元々7人用に作った曲だったので、レコーディングが大変でした」
──歌い手としての力量が現れるセルフカバーでしたね。
「デビューして時間が経つほどに、歌が上手くなりたいし、曲に力が宿るような歌い方をしたいという思いが強くなって、改めて今、歌と向き合っています」
──アルバムリード曲『さよならシティライト』は、80〜90年代の日本の歌謡曲やAORを思わせる雰囲気があります。『踊りませんか?』も短編小説のようなストーリーですね。
「物語を作る意識で歌詞を書きました。『さよならシティライト』も『踊りませんか?』も共感を呼ぶような曲にしたくて、周囲のスタッフや友達にも聞いてもらったんですよ。『この気持ちわかる? 共感できる?』って。女性目線の曲ではあるけれど、恋愛はジェンダーを超えるものだし、どんな人でも理解できるところがあるのがいいポップスだと思うんですよ。僕だけど僕じゃないような、アーティスト“Aile The Shota”の曲になりましたね」
──先行配信の『愛のプラネット』は、ずっとテーマに掲げている「愛」と「命」を感じますが、視点がさらに広くなっているような気がします。
「昨年、初めてワンマンライブをやるときに、音楽をやる意義が必要だと思ったんです。ステージに立つということは、少なからず誰かに影響を与えることがあります。自分の音楽を広く聴いてもらう可能性があるのだから、例えば、戦争反対だったり、選挙に行こうという政治的なメッセージを発する人間でありたいという自覚が芽生えるようになって。最初はどう歌えばいいのか迷っていたんですよ。dawgssとこの曲を作っているときに、2人で飲みにいって、酔ってくると世界情勢の話になったりするじゃないですか。それで、世田谷の夜という身近なところから始まって地球全体に思いを馳せるような感覚を歌にしようと。これが僕にとっての、音楽活動をする意義なんじゃないかと思ったんです。『Yumeiro』『FANCITY』もそうですが、このアルバムには僕がずっと大切にしている価値観の曲も入れたいと思っていました」
──その一方で、『Foolish』はとてもパーソナルな世界観ですよね。
「昔から、すぐに考え込んでしまう性格なんです。変に勘繰ってしまって、気づかなかったら良かったのにということもあって。このセッションをする前日に、大学時代の友達と集まって飲んだんですね。自由気ままで目が離せない魅力のある人っているじゃないですか。今、僕は人から憧れてもらえるポジションになったかもしれないけど、考えすぎる癖を手放したらもっと楽になるのかなと思った気持ちを、二日酔い状態でTaka Perryとセッションしながら勢いで作りました」
──Taka Perryさんといえば、プロデュースしたKATSEYEの「Touch」がヒットしていますよね。
「先を越された感覚です(笑)。俺のほうが先にTakaと一緒にやってたのに。僕とTakaは年齢もひとつ違いで、フィーリングが合うんですね。曲作りも瞬発力でスッといける。しかも腕のいいプロデューサーなので、音の鳴り方もすごくいいんですよ。オーストラリアにルーツがあるので、ある意味、日本らしくない音がすごく楽しくて。元々、僕の憧れのSIRUPさんやJP THE WAVYさんが彼と組んでて、すごくいいトラックメーカーだなぁと思ってたんです。会えば会うほど気を使わずに、リラックスした状態で曲を作れるから、今、一番一緒にセッションしたい人です」
──今作も今、注目のプロデューサー陣が携わっていますが、『sweet』はセルフプロデュースなんですね。
「これはオーディションに参加する前に作った曲で、すでにファンクラブ先行で音源を出したり、すでにライブでも歌ったりしていて。BE:FIRSTのSHUNTOもオーディション中からこの曲が大好きだと言ってくれて、いつ音源化するんだと言われ続けてたんですね。この3年でいろんなプロデューサーと仕事してきて、この部分はもっと単純でいいんだとか、反対にここは複雑にするんだとか勉強させてもらって、歌えるレンジも、トラックのジャンルも幅が広がったので、これからは自分が作家としても曲を増やして行きたいなと思います」
Aile The Shotaの第1章がスタート
日本のR&Bシーン全体もブレイク前夜
──これまでのEPが序章、このアルバムから第1章がスタートするんですね。
「これが自分だと自信をもって言い切れるまで、勢いにまかせて進みたくなかったんです。今は、やっと下積みが終わったという気持ちです。自分のやりたい音楽性、将来像、この先のプランもクリアになったので、あとは売れるだけです」
──Aile The Shotaさんもそうですが今、日本のR&Bシーンには才能豊かなミュージシャンが次々と登場していて、目が離せない状態になっています。
「そうなんですよ。僕はSIRUPさんの『LOOP』のあたりでR&Bを知った世代なんですけど、尊敬するSIRUPさんやiriさんたちと肩を並べてシーンを盛り上げるために何かできるところまできたので、それがすごく嬉しいし、彼らと同じ場所に居続けるために頑張っていないとな、と思っています。SIRUPさんもそうですけど、eillやTAIL(a.k.a向井太一)くんなどの僕のひとつ上の世代がすごく優しくて、惜しみなく力を貸してくれるんですね。同世代のAyumu ImazuとかKenya Fujitaとか、すごいアーティストもたくさんいるので、これからシーン全体が盛り上がっていくのは確実です。ただ、日本だとJ-POPとR&Bシーンとの間に距離がありますよね。僕は日本でそれを近づけていきたいし、そういう役割を担うひとりでありたいと思っています」
──海外はどうですか。アジアの音楽シーンも盛り上がってますよね。
「アジアツアーは近々やりたいと計画しています。僕がR&Bを聴き始めた頃から、韓国のミュージシャン、特にジェイ・パークやDEANなどの曲もたくさん聴いていました。韓国は、プレイリストに毎週知らない人が登場するくらい分母が大きいので、コラボしたいアーティストもたくさんいます。以前、タイのSTAMPさんの訳詞をさせてもらったときに、タイでもJ-POPや日本のシティポップが大好きで、日本の楽曲にしかないものがあるという話をしたんです。J-POPはメロディがすごく動くんですよ。しかも、美メロを重視。アイドルの楽曲も美メロが多くて大好きなんですけど。そのJ-POPらしさは僕も大切にしているので、アジアで僕のメロディラインを支持してくれる人はいるんじゃないかなと思うんです。J-POPをレペゼンする形で、世界に挑戦してみたいと思っています」
──ちなみに今、注目しているアイドルの楽曲は?
「FRUITS ZIPPERの『フルーツバスケット』。サビのメロディが素晴らしい。=LOVEもメロディが美しいんですよ。ギターリフのようなメロディというか。以前のAKBもメロディがギターっぽいんですよ。高橋みなみさんの卒業シングル『唇にBe My Baby』は、永遠の傑作だと思っています」
──いつかRHYMESTERの宇多丸さんと対談してください。
「ラジオ番組に呼んでください! 男女ともにアイドルグループの素晴らしい楽曲はたくさんあるし、日本のバンドもそうだし。J-POPを語り始めたら止まらなくなります(笑)」
──話を戻します。来年3月に、東京ガーデンシアターでライブが予定されています。先日、ダンスクルー選抜のオーディションが開催されましたが、オーディションに参加する側から、オーディションで選抜する側になりました。
「オーディションに対するスタンスは、『THE FIRST』で学んだものが大きかったです。200人のダンサーさんと少しの時間でもちゃんと向き合ってお話しする時間を作りましたし、結成したクルーに対しては、将来的なプランも含めた話をしました」
──『THE FIRST』でフックアップされ、今後はフックアップする側に回っていくんですね。
「フックアップもヒップホップのカルチャーのひとつですよね。これからどんどんフックアップしていきたいし、『Aile The Shotaにフックアップされたい』と思われる存在になれるように自分自身も頑張ります。『Memoria』もそうですけど、プロデューサーとしてやりたいこともいっぱいあるんですよ。大学時代にライブハウスやクラブで活動しているときも感じたんですけど、日本に才能のある人はたくさんいるんです。そういう人たちに対して、手伝える立場に早くならなきゃと思っています」
──今回のライブの構想は?
「まだこれからなんですが、『REAL POP』が大きなテーマにはなると思います。最初のワンマンはまだ音楽の意義を探しているところだったので、MCを大切にしたい気持ちはありながらも、すごくプレッシャーでした。2回目のツアーでは純粋に音楽的にいいライブを追求したんですが、今回はその2つをミックスしたものになると思います。この人を追っていきたいと思えるような内容と最高の音楽、全部をお見せします。楽しみにしていてください」
Aile The Shota 1st Album『REAL POP』
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Blu-ray内容/PANDOA organized Aile The Shota March28. 2024 @Zepp Haneda/Aile The Shota Oneman Tour 2024 “odorimasenka” August 02.2024@Zepp Haneda/Making of “REAL POP”
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Photos : Satoshi Hata(courtesy of BMSG) Interview & Text:Miho Matsuda Edit:Naomi Sakai