教えて、DJ水月先生! 東南アジアの音楽シーン入門講座 〜アイドルを中心に〜
日本で引き続き大流行中のK-POP。もはやスタンダードになっている多国籍グループを応援するうちに推しの出身地のことに興味を持った人も少なくないのでは? そこで今回は、東南アジアを中心にどんなアイドルやミュージシャンが人気なのかを深掘り。講師に、アジア音楽研究家であり、日本に暮らす東南アジアの人たちが多く集まるクラブやバーでレジデントDJを務めるDJ水月さんをお迎えし、アイドルを中心に各国の音楽シーンについて伺った。
東南アジアの音楽シーンってざっくりどうなの?
ライター松田(以下松田)「今日は、東南アジアのポップミュージックを、アイドルを中心にいろいろと勉強していこうと思います。講師のDJ水月さん、よろしくお願いします!」
編集担当(以下編集)「よろしくお願いします!」
DJ水月(以下水月)「こちらこそ!」
松田「早速ですが、東南アジアの音楽シーンについて教えてください」
水月「まず、東南アジア全体のアイドルシーンについては、やっぱりK-POPの影響が強くて、K-POP風のグループがデビューしたり、PRODUCE101を参考にしたようなオーディション番組がいろんな国で開催されて、そこからまたK-POP風のアイドルが増えているという印象があります」
編集「アイドル以外ではどうですか?」
水月「タイとカンボジアでは、ヒップホップが盛り上がっています。タイではヒップホップのフェス『Rolling Loud』が開催されていますし、カンボジアではラッパーのVANNDA(ヴァンダ)が人気です。彼がAwichとコラボした曲があって、昨年、来日しました。日本でも知っている人が多いと思います」
松田「パリ五輪の閉会式にも出演してましたね」
水月「ベトナムでは、ラッパーのサバイバルオーディション番組『Rap Việt』が輩出したアーティストが人気を集めていますが、ヒップホップが盛り上がっているというより、番組が人気という感じもします」
松田「ロックはどうですか。日本のBig Romantic Recordsが招聘しているようなタイのインディーロックのバンドがすごく良くて」
水月「タイはバンドが人気で、特にインディーロックはタイと台湾が強いですね」
松田「DJ水月さんの本業であるクラブミュージックにはどんな傾向が?」
水月「タイにはサイヨー(Saiyor)というジャンルがあって、ポップミュージックをサイヨーのリズムにアレンジした曲が流行してます」
松田「ベトナムのヴィナハウス(Vina House)のような?」
水月「そうですね。しかも、今の曲というより20年前のヒット曲を使っていたりしてるんですよ」
松田「じゃあ中年も踊れますね」
水月「ベトナムはほぼヴィナハウス一択で、カンボジアはサイヨーとヴィナハウスが混ざっているような感じです。マレーシアにはフェンタウ(FENGTAU)というのがあります。インドネシアにはファンコット(Funkot)と言うジャンルがあって、日本人にも好きな人は多いです。中国や台湾ではマンヤオ(漫摇)です。これも日本でひそかに人気があります」
松田「ミャンマーのあたりはどうですか」
水月「ミャンマーのプロデューサーの曲を聴いてると、サイヨーに近い曲が多いですね」
編集「国ごとに独自のジャンルが流行しているっていうのが面白いですね」
アイドル王国タイは、サバ番、日本式など百花繚乱!
松田「では、国ごとに勉強していこうと思います。タイはどうでしょうか。K-POPでも、BLACKPINKのLISAやGOT7のBamBam、NCT/ WayVのTENなど、タイ出身のアイドルが活躍していますが」
水月「アイドルの数や種類で言ったら、タイは東南アジアで1番ホットなエリアです。昔からアイドルシーンがあって、完全に定着しています」
松田「そういえば、平成の頃は日本でもGOLF&MIKEが人気でした。山下智久さんたちとユニット組んだりして」
水月「今のタイで一番人気というと、4EVE(フォーイヴ)やPiXXiE(ピクシー)です。4EVEもサバイバル番組『Girls Group Star』の出身で、2020年にデビューしました」
編集「4EVEは、日本でも『QUICK JAPAN』の裏表紙に登場しているんですね!」
水月「最近、日本とタイでフォトブック『4EVE in TOKYO おもいでトリップ!』も発売しました。4EVEは昨年と今年に代々木公園で開催されたタイフェスティバルに出演していています。PiXXiEはガールズクラッシュのようなカッコいい曲もあって、4EVEは王道。今はこの2グループが人気です」
松田「タイにはBNK48もいますよね」
水月「2017年のタイ語版『恋するフォーチュンクッキー』で一気に有名になって、今は安定している印象です。他にも日本風のアイドルが何組かいて、日本のアイドルオタクのようなファンダムもあるんですね。例えば、ANGeVIL✟(エンジェビル)というグループは、タイのオタク層に人気です」
松田「ゴスロリ風味のアイドルコスチュームですね! 日本語歌詞も!」
水月「それから、PRETZELLE(プレッツェル)というガールズグループも以前、来日したことがあります」
松田「こちらはK-POPの雰囲気がありますね」
編集「タイのアイドルはどれくらいの規模の会場で公演を行うんですか」
水月「4EVEあたりは、タイ最大級のインパクト・アリーナで公演をしました。音楽フェスに出演することも多いです」
松田「ボーイズグループはどうですか」
水月「今、一番話題になっているのは、オーディション番組『789 SURVIVAL』出身の12人組グループBUS(バス)です。5人と7人のユニットに分かれて曲をリリースしたりしてます」
松田「セブチとかNCTみたいな形態なんですね」
水月「日本のタイ人バーで彼らの曲をかけると、すごく盛り上がりますね」
松田「昨年のタイフェスでLYKN(ライキャン)のパフォーマンスを見たんですが、彼らはどうですか。先日リリースされた『SUGOI』が、日本をフィーチャーしていました」
水月「ますます人気上昇中という感じです」
松田「それから、今年のサマソニにも出演したTHE TOYSが、ATLAS(アトラス)というグループをプロデュースしたというニュースをどこかで見たんですが」
水月「ATLASも人気のあるグループです。THE TOYSはすごく人気があるアーティストなので、プロデューサーに起用することでさらに注目を集めるということはあるかもしれません。もう解散してしまったんですが、FEVER(フィーバー)というガールズグループでも、GYM AND SWIMという人気バンドのメンバーが楽曲のプロデュースを担当したこともあります」
松田「タイというと、オーディション番組『Chuang Asia: Thailand』からデビューしたGen1es(ジニーズ)もあります。中国4人、タイ2人、日本1人、マレーシア1人、台湾1人という多国籍グループで、しかも事務所が中国のRYCEエンターテイメントなので、タイのグループというより中国のグループなのかもしれませんが、ガルプラに出ていた池間琉杏さんがいるのですごく楽しみです」
水月「タイと中国といえば、『創造営2020』からデビューした硬糖少女303(Bonbon Girls 303)のタイ人メンバー・NENEがタイに戻ってきて、タイですごく人気になっています」
松田「そういえば最近、俳優のブライトとの関係を公表して話題になってましたね」
水月「タイはアイドル文化が成熟しているので、1990〜2000年代に活躍していたアイドルが復活ライブをするのが流行しています。チャイナ・ドールという2人組のアイドルが復活して活動していたり、Kamikazeというレーベルが昔、歌手だった人を集めて『KAMIKAZE PARTY REUNION』というイベントをインパクト・アリーナで開催しています」
P-POPはBINI、SB19など歌ウマアイドルの宝庫
松田「最近、波が来ていると言われるフィリピンのP-POPはどうですか?」
水月「HORI7ON(ホライズン)が好調ですよね。『GENTO』が世界的にバズったSB19(エスビーナインティーン)は『THE FIRST TAKE』にも出演して、日本でもどんどん知名度を上げています。女性グループではBINI(ビニ)がフィリピンの1番人気で、YouTubeの再生回数も回っているイメージがありますね」
編集「韓国の『MUDoctor Academy』でもトレーニングしてますね! “ABS-CBNのSTAR HUNT ACADEMYを通して結成”ということは、公開練習生みたいな感じだったんですか」
水月「そうですね。フィリピンではこのBINIとSB19が国民的な人気グループなんですが、2021年デビューしたボーイズグループALAMAT(アラマット)もいい曲が多いんです。フィリピンには歌が上手い人が多いというイメージがありますが、彼らも聴かせる曲が多いんですよ」
編集「すごく爽やか! 聴きやすい!」
松田「そういえば、オリヴィア・ロドリゴやブルーノ・マーズもフィリピンにルーツがあるし、KATSEYEのSOPHIAも歌が上手い。今回、教えてもらったグループも歌がいいですね」
バラード強し! 東南アジアの音楽チャート事情ついて
松田「インドネシアはK-POPの市場が大きいというイメージがありますが」
水月「K-POPは強いですね。それから、88risingのNIKIやRICH BRIANは人気があります。インドネシアはアイドルよりも実力派シンガーの方が人気があって、現地のチャートを聴いているとバラードなどの落ち着いた曲ばかりなんです」
松田「88risingのアーティストは日本でもおなじみですね」
水月「現地ではバラードの曲が人気で、自分がDJをするタイ人向けのクラブでも、お客さんが少ない時間帯にはバラードをかけたりしています。DJの前にバンドが出演することもあるんですよ。タイの人たちはバンドが大好きで、そこで人気バラードを演奏していることもあります」
松田「インドネシアでもタイでも、チャートで人気なのは、歌い上げ系の歌手なんですね」
水月「それからインドネシアのチャートには、K-POPの曲がたくさんランクインしています。それが理由なのかはわからないけれど、インドネシアオリジナルのアイドルがチャートインすることは珍しくて。たまにUN1TY(ユニティ)とNEVEL(ネヴェル)をたまに見かけるくらいです」
松田「タイもそういう傾向はあるんですか」
水月「4EVE、PiXXiE、BUSあたりはチャートに入っています」
松田「そこはお茶の間レベルまで浸透しているんですね。フィリピンでは?」
水月「BINIとSB19あたりは、国民の誰もが知るグループだと思います」
松田「ベトナムのアイドルシーンはどうですか」
水月「ベトナムはグループよりもソロアーティストのほうが人気です。tlinh(トリン)はすごく人気があって、日本でも知ってる人がいるかも」
松田「Shurkn Papと『蜜蜂』という曲をリリースしてますね」
編集「彼女は、サバイバル番組の『Rap Việt』出身なんですね」
水月「ラップメインというよりR&Bなんですけど、シーズン1に出場して人気になりました。それから、PHƯƠNG LY(フォン・リー)も支持されています」
松田「チルな感じですね。JKT48は?」
水月「AKBグループの海外姉妹グループの中では今でも根強く人気がある印象です」
編集「マレーシアはどうでしょうか」
水月「マレーシアではDOLLAが不動の人気です。こちらもBLACKPINKのようなガールクラッシュ的なテイストのグループです」
ネクストブレイクは、カンボジア!?
水月「僕が今、東南アジアの中で一番気になっているのがカンボジアなんですが、ここもグループというよりはソロアーティストの方が人気なんですね。特に、RABEE(ラビー)というアーティストはすごくカンボジアらしい曲をリリースしていています」
編集「リズムがポクポクしてますね」
水月「これもサイヨー寄りの曲です。他にもカンボジアはラッパーのVANNDAが世界的にも注目されているので、ヒップホップシーンも熱いです」
松田「カンボジアはまだ行ったことがないんですが、ユースカルチャーはどんな感じなんですか」
水月「人口構成を見ても若い世代が多くて、昨年、カンボジアを訪れたときも、クラブがたくさんあって、ストリートカルチャーが盛り上がっていました。カルチャーに関しては他の国と同じような感じです」
松田「日本でカンボジアを体感できるところはありますか」
水月「カンボジア・フェスティバルなどのイベントがありますが、これから増えて来るんじゃないかと思います。今、日本に来るカンボジアの人が増えてるんですよ。技能実習制度での来日だと思いますが、神奈川、愛知、茨城、熊本あたりで増えています。それから、日本人でカンボジア式の音楽をやっているクマイルスというバンドもあります」
松田「日本からのアプローチもあるんですね!」
編集「そういえば、数年前にバービーさんもインドネシアの歌姫になるとインドネシア語の曲をリリースしてました」
水月「日本を含めた話だと、AKB48グローバルプロジェクトから、Quadlips(クアドリップス)がデビューしました。これはSKE48、JKT48、BNK48、MNL48から1人ずつ選抜されたチームで、バンコクを拠点に活動しています」
松田「K-POPというか、アメリカのティーンポップな曲調ですね。アイドルの世界戦略もどんどん多角化して面白いですね」
水月「XGもアジア全域で人気ですし、新しい学校のリーダーズも88rising経由でフェスや海外ツアーも行っています。日本からも世界を目指す傾向はどんどん強くなっています。僕もそろそろタイに移住するので、現地のフレッシュな話題をお届けできたらと思っています」
松・編「え、移住ですか! 現地の情報をお待ちしています!」