アートディレクター植原亮輔(KIGI)が見たアレクサンダー・カルダー展
麻布台ヒルズ ギャラリー(東京)では、アメリカのモダンアートを代表するアレクサンダー・カルダーの展覧会「カルダー:そよぐ、感じる、日本」を開催中。新しい彫刻“モビール”を生み出したカルダー。モビールから、スタビル、油彩画、ドローイングまで、1920年代から70年代までの幅広い作品、約100点が展示された本展をアートディレクターの植原亮輔(KIGI)がレビュー。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2024年9月号掲載)
限りなく動く視点
絵画とは違って台座に置かれた彫刻は鑑賞の視点を限定しない。それに加えモビールは空気の流れなどの外的要因により見る者の視点を動かす。
僕ははじめて目の前にする自然現象や生物に出会うかのような気分でカルダーのモビールを見ていた。フワフワ浮いて、ゆっくり動き、それは止まることなく…。はじめて象に出会った時、はじめて蟹の動きを目で追いかけた時、はじめて枝から落ちそうな葉っぱを心配そうに眺めていた時、そんな時の気持ちに近いものを感じた。もしかしたらそれはどんなカタチであれ良いのだ。
カルダーは理系の脳みそで美を追求してるようには見えなかった。なぜ、大きな留め具が露わに見えているのか? なぜ、切り貼りしたかのように脚があからさまに付け足されているのか? そのパーツはたまたまアトリエに落ちていたものじゃないのか? 彼は自由で、気ままで、アヴァンギャルドで、時に戦略的な作家だと僕の目には映り込んでいた。もしも、フワフワ浮く、ゆっくりと動く、といった自然に存在する“何か”に出会った時、それがどんなモノであれ、見入ってしまう人間の行動心理を知っているから、彼はモビールという発明を使って想いのまま自由に造形化しているのではないかと、疑ってしまう。もし、そうであればちょっとした確信犯なのかもしれないが、そんなナナメから見たらいけないと、頰っぺたを叩き、背筋を伸ばして一鑑賞者となった。
カルダーの作品群にホワイトキューブの中で出会った最初の機会だった。芸術は戦争や災害など人間が生きるか死ぬかの社会情勢のなかでは早い段階で切り捨てられる存在なのかもしれない。しかし、だからこそ、幸せの、欲望の象徴として存在し得る。その願いをこめたものが芸術であることを願いたい。そしてカルダーのゆっくりと動く彫刻を見ている時は有事ではない。これもまた、紛れもなく平和の姿であると、勝手ながら心の中で拍手をした。
※掲載情報は8月21日時点のものです。
開館日や時間など最新情報は公式サイトをチェックしてください。
アレクサンダー・カルダー「カルダー:そよぐ、感じる、日本」
会期/2024年5月30日(木)〜9月6日(金)
会場/麻布台ヒルズ ギャラリー
住所/東京都港区虎ノ門5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザA MB階
開館時間/月、火、水、木、日曜 10:00〜18:00(最終入館 17:30)
金、土、祝前日 10:00〜19:00(最終入館 18:30)
無休
URL/www.azabudai-hills.com/azabudaihillsgallery/sp/calder-ex/
All works by Alexander Calder
All photos courtesy of Calder Foundation, New York / Art Resource, New York
© 2024 Calder Foundation, New York / Artists Rights Society (ARS), New York
Text:Ryosuke Uehara Edit:Sayaka Ito