Numero TOKYOおすすめの2024年3月の本 | Numero TOKYO
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Numero TOKYOおすすめの2024年3月の本

あまたある新刊本の中からヌメロ・トウキョウがとっておきをご紹介。今月は、ハヤカワSFコンテスト特別賞を受賞した話題作と、山内マリコの人気連載をまとめた一冊をお届け。

『ここはすべての夜明けまえ』

著者/間宮改衣
価格/¥1,430
発行/早川書房

感情をゆさぶり、さまざまな問いを投げかける傑作SF

発売前から各所で話題となっていた第11回ハヤカワSFコンテスト特別賞受賞作である本作。編集部選考では全員が満点の評価をつけていたということもありSF作品としてはもちろん、純文学としても文句なしの傑作となっている。

2123年10月1日、九州の山奥の小さな家にひとりで暮らす、おしゃべりが大好きな〈わたし〉が、これまでの人生と家族について振り返るために自己流で書き始めた家族史という体裁で物語は幕をあける。しかし、話し言葉のやわらかな文体で紡ぎ出されるのは、約100年前に身体が永遠に老化しなくなる手術を受けたことを機に〈わたし〉がたどった受難と後悔の記だった──。

家にあるコンピューターや端末が動かないため手書きで綴られる家族史は、画数の多い漢字といった〈めんどくさいものはだいたいひらがなでかいてしまおうとおもっています〉という〈わたし〉により、どこか童話を思わす形式で綴られるのだが、その見た目と内容のギャップにまず困惑させられる。さらに物語が進むにつれて「人間を人間たらしめるものは何か?」「愛とは何か?」など、数々の問いを読み手である私たちは問いかけられていき、読み終える頃にはあらゆる感情がゆさぶられているはずだ。

ふだんSFを読まない人にはもちろん、読書をあまりしないという人にこそぜひ手に取ってもらいたい、この上ない読書体験をもたらしてくれる一冊。

『結婚とわたし』

著者/山内マリコ
価格/¥924
発行/筑摩書房

“家庭内”男女平等をめぐる、笑いあり涙ありのエッセイ

2013年から2017年にかけて女性誌にて連載されていた同棲生活・結婚生活について綴った日記エッセイに後日談を加筆して《完全版》とした本書。連載について〈愚痴っぽい日記という体裁をとりつつ、フェミニズムの入口になるような読み物を目指しました〉と著者本人があとがきで振り返っているように〈数年に及んだ家庭内でのフェミニズム教育&バトル〉の記録でもある本書は、この10年におけるジェンダー意識の移り変わりもわかる一冊となっている。

同棲して2年目、かつ作家デビューして1年目の時点で「そのうち結婚するつもり日記」としてスタートした連載は、第2回目にして同棲したことにより3倍近くに跳ね上がった家事負担の重さを訴え、続いていく回も「皿洗い戦争」「お料理問題」「家事労働ハラスメント」など、生活をともにする相手がいるうえで避けられないテーマを次々と取り上げていく。

しかし全編を通して殺伐とした雰囲気になっていないのは、著者とパートナーがケンカという名の確認作業を随時行い、対等な関係を築く様子もしっかりと描かれているからだろう。巻末で〈バカ正直に何度も衝突したことで、夫がこちらの考えを理解し、少しずつでも変わってくれたことは本当によかった。〉と語られているように、たとえ時間と労力はかかっても生活をよりよく変えることは可能だという希望も与えてくれる。

ルームシェア、同棲、結婚など、誰かと暮らしをともにする予定がある人すべてに、よりよい生活を送るために読むことをぜひおすすめしたい。

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Text & Photo:Miki Hayashi Edit:Sayaka Ito

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