【対談】パントビスコの不都合研究所 vol.16 安達祐実 | Numero TOKYO
Culture / Pantovisco's Column

パントビスコの不都合研究所 vol.16 安達祐実

世の中に渦巻くありとあらゆる“不都合”な出来事や日常の些細な気づき、気になることなどをテーマに、人気クリエイターのパントビスコがゲストを迎えてゆる〜くトークを繰り広げる連載「パントビスコの不都合研究所」。第16回目は、俳優の安達祐実が登場!


パントビスコ「散々言われていらっしゃると思いますが、私も大好きな『家なき子』をはじめ、たくさんの素晴らしい作品に出演されている安達さんに、まさかこうしてお会いできるなんて。今日まで仕事を頑張ってきてよかったって思います」

安達祐実「そう言っていただけると私もうれしいです。自分が幼い頃に出ていた作品を見ていた方が大人になって、仕事現場でご一緒すると、私もこの仕事が続けられていてよかったなって思います。ありがたいですね」

パントビスコ「芸能生活40年ですもんね」

安達祐実「始めたのが早すぎたもので(笑)」

パントビスコ「では、さっそくですが、この連載ではお互いの似顔絵を描くところからスタートしておりまして。描いていただいても良いでしょうか?」

安達祐実「私も描くんですか!? 描けるかな…」


パントビスコ「僕は仕事で絵を描くんですけど、似顔絵は苦手なんです。安達さんは絵を描くことありますか?」

安達祐実「いやぁ、描かないですね」

パントビスコ「僕は帽子とか髭とかメガネがあるので特徴が掴みやすいかな、と」


安達祐実「そうか。えーっと、あ、どうしよう。おじいちゃんみたいになってきちゃった」

パントビスコ「おじいちゃんですか(笑)」

安達祐実「はい…わぁ、どうしよう。あ、できました(笑)」

パントビスコ「じゃあ、緒に見せましょう。せーの」

似顔絵完成!

(左)パントビスコが描いた安達祐実
(右)安達祐実が描いたパントビスコ

「あの…パントビスコさんの30年後みたいになっちゃいました」

「かわいい。ジブリのキャラクターに出てきそうです。作風が確立されてますね」

「中学生くらいまでは絵が好きで描いてたんですけど、大人になってからはまったく。なので、今日すごく久しぶりに描きました」

癒す側が実は癒やされているのかもしれない

「安達さんが出演された映画『MY (K)NIGHT マイ・ナイト』を拝見して、その興奮が冷めないのでまずは映画の話をしてもいいでしょうか?」

「はい。どうぞ(笑)」

「正直にお伝えすると、最初は自分が積極的に見ようと思わないジャンルというか、甘いラブロマンスの映画かなと思っていたんです。でも、それがいい意味で裏切られました」

「そう言っていただけてうれしいです」

「まず、安達さんの演技に引き込まれまして。というのも、この映画はドキュメンタリーなのかな?と思う瞬間が多々あったんですね。台本にはない素の安達さんが垣間見られたようなシーンがあって『なんだこの映画は!』と」

「メガホンを取った中川龍太郎監督はリアルを追求される方で、相手役の刻を演じた吉野北人君に『本番でこれ言ってみて』と伝えて、その時にこちらのリアルなリアクションを狙うという場面がちょこちょこありました」

「やはり、そうでしたか。それがすごく伝わってきました。あと、ストーリーもすごくおもしろかったです。何不自由のない完璧なイケメンが女性を癒す話だという卑屈な先入観があったんですど、実は彼らもそれぞれ悩みを抱えていて、とても人間味があった」

「そうですね、男性が女性を癒す映画だと思われがちかも。私、友達に『どんな作品撮ってるの?』って聞かれた時、『若い男の子とデートする話』って言ってたんですけど、簡単に説明しすぎました(笑)」

「でも、観てもらう人にはそれでいいのかもしれません。気持ちよく裏切られるから。しかも、それぞれのキャラクターが抱えている悩みがとても普遍的で、自分の物語のように思ったんです」

「そうですね。この映画には3組6人の男女が出てきますが、誰もが私の話かなと思えるかも。共感もできるし、気づきもある。私自身演じながら、それぞれのキャラクターが背負っているものが見えてきて、奥行きが感じられました」

「完成した作品は試写で初めてご覧になるんですか?」

「はい。意外と3組の話が交錯しているんだなとか、編集大変だっただろうなとか(笑)、一人の観賞者として観て感じることも多い作品でした。私の役柄は割とデートセラピストの男性に癒やされている要素が多かったけれど、他の二組はデートセラピストが相手の女性に癒やされたりして、そういった部分も素敵だなと思って観ていました」

「僕も同じことを思っていました! 話が進んでいく中で、奉仕する側であるはずの男性セラピストの心がほぐれていましたよね。僕も時々同じことを思うことがあるんです」

「同じことですか?」

「はい。時々インスタのストーリーズで質問返しをするインフルエンサーの方がいますよね。あれって客観的に見るとファンサービスを頑張っていて偉いなと思うんですが、実際に自分が質問返しをした時、“質問を返すという役割が自分にあって、必要とされている!”という気になれて、純粋にうれしいんですね。それがデートセラピストもそれに似た構造を感じたんです」

「なるほど、たしかに。私もインスタでいただいたコメントに全部ではないですが、何人かに返信したりしています」

「それはなぜですか?」

「せっかくだから、お互いちゃんと繋がっているということを感じられたらいいなという気持ちがあるんです」

「安達さんもうれしいし、ファンもうれしい。素敵なSNSの使い方ですよね」

若い頃の自分から一番変わったもの

「それぞれのキャラクターが自分の中で押し込めているものがあるんだけど、デートを通じて互いの心をほぐした結果、いろんなことが前に進み出したと感じました。たとえば、幸せになりたい人は今の環境を否定して、新しいことを始めたり、別のものに目を向けがちだけど、意外と自分がすでに手にしているもので幸せになれる。そういう気づきがありました」

「そうですね。物事はどう捉えるかによって全然違いますよね。誰しもが少なからず、“自分はこういう人だからこの枠から出られない”とかそういったものを抱えて生きていると思うんです。でも、本当ははみ出したい自分もいる。デートを通じて、一歩を踏み出すきっかけができて、心が自由になる。明日に向かって歩き出せる、希望を感じられる作品だったかなと思います」

「よくわかります。しかも、そのテーマが押し付けがましくなく提示されるので、ストンと自分の中で腹落ちする感覚がありました。安達さん演じる沙都子はデートセラピーを通じて心が変化していきましたが、それは演技にどう込めたんでしょうか?」

「刻と出会った時とだんだん距離が近づいていくまで、自分の心が柔らかくなっていくことを表現できればと思っていました。でも、割と自然な感じでしたね。というのも、この時期北人君と別の作品も一緒に撮っていて、一緒にいる時間が長かったので、それが演技にも自然と現れたのかもしれないです」

「話が進むにつれて、沙都子さんの笑顔が増えていったのが印象的でした。個人的には、刻と出会ったときの他人行儀な沙都子さんが好きなのですが……(笑)」

「あはは」

「デートセラピストに会うことにちょっとした後ろめたさを感じているからか、最初はなかなか自分を解放できない感じもあって、それもすごくリアルだなと思いました」

「沙都子は刻と一夜を過ごしたからと言って、今の暮らしを変えたいとか大胆なことは考えていないんですよね。自分がどういう人間なのかということをこの夜に考えたんじゃないかなって思っていました」

「そうですね。個人的にはその後、どうなったんだろうって続きが気になります。続編を見たい気もするんだけど、でも作ってほしくないとも思う」

「これで終わり、だからいい。というのもありますよね」

「悪を倒して、ハッピーエンドというわけではなく、現実は日常が淡々と続く。そういうことに改めて気付かされる作品だなと思いました。その後の沙都子は幸せになっているかもしれないし、もしかしたらそうじゃないかもしれない。色々考えさせられました」

「沙都子の話はここで一旦終わったけれど、セラピストたちがいろんな女性を癒すという設定だったら、シリーズ化できそうですよね」

「いくらでも作れそうです」

「この映画ではデートセラピストに癒されてましたが、普段の安達さんはどんなものに癒されてますか?」

「植物かな。疲れると、緑がたくさんあるところに行きたくなります。あと、子どもです。一緒にいるとめちゃくちゃ楽しいから、すごく癒されます」

「幸せなことですね。俳優さんはなかなか役が抜けないと聞くことがあるんですが、同時進行で数本の作品をやったり役の切り替えも大変そうな気がしているんですが、オン・オフはどうやってつけられているんですか?」

「あまりオン・オフの切り替えを意識してないかもしれない」

「だから、演技も自然なんでしょうね」

「でも、台本を読むのが苦手で。何作も重なっているとちょっと憂鬱になりますね」

「そうですよね、人間ですから」

「でも、気持ちが重くなるのはそれぐらいで、あとはストレスなくやってます」

「作品選びはどうされていますか?」

「若い頃はやるからには称賛される作品に出たいという気持ちが強かった気がしますが、今は何でも楽しめそうだなっていうマインドがありますね。自分がやりたければやるっていう」

「何にでも興味を持てるってすごく強いですね。それが自然と演技にも現れているだなって思いました」

“もっとシンプルになったらいいのに”と思う

「この連載では、日常で感じるちょっとした不都合とか不便とか、解決したいものを披露し合うのをテーマにしているんですが、安達さんは解決したいことありますか?」

「解決したいことかぁ」

「全然重たいものじゃなくていいんです。先に、僕の不都合を伝えますね。最近ジムに通い始めてルームランナーで走っているんですが、あの走行面が狭いなと。4畳くらいあったらいいなって思ってるんです」

「4畳ですか(笑)」

「はい。その中を色々駆け回って、変化をつけたいんです」

「たしかに周りの景色が変わらないから飽きちゃいますよね」

「そうなんですよ」

「私の不都合は、魚焼きグリルを洗うのが面倒くさいことですね。なんであんなにパーツがあるんだろうって。自分で解体できて清潔に保てるのはありがたいんですけど、もう少しシンプルな作りだったらいいのにって思う。解体した後、組み立てる時も『えーっと、どっちだったっけ?』って毎回時間がかかってしまって(笑)」

「同じこと思っている人いっぱいいそうです」

「子どもが魚が好きなんで、使用頻度が高いんですけど、洗うたびに毎回、面倒だなって思ってます」

「どんな魚を焼くんですか?」

「鮭が多いですね。季節によってはブリを焼くこともあるんですけど、焼いたあとのトレーにしばらく匂いが取れなくて。とってもおいしいんですけど」

「そういう悩みをデートセラピストに言ったら、解決してくれるのかな?」

「してくれたらいいですよね。“一緒に洗ってあげるよ”って」

衣装(安達祐実): ストライプシャツ¥57,200、ジップシャツカーディガン¥78,100、ストライプドレス¥74,800、ストライプパンツ¥85,800/全てCFCL(シーエフエーエル Inc. support@cfcl.jp)イヤリング¥15,400/TOGA TOO(トーガ 原宿店 03-6419-8136)クローバーリング¥18,480/KNOWHOW(ノウハウ ジュエリー 03-6892-0178)

MY (K)NIGHT マイ・ナイト


夫の浮気を知って満たされない心を埋めようとする主婦、余命わずかの母親に婚約者を紹介したい高校教師、映える写真を撮り続けるフォロワー7万人のインスタグラマー。それぞれの事情を抱えた3人の女性たちが、一夜限りの恋人“デートセラピスト”と共に過ごす。夜の横浜を舞台に描く、3組の男女の物語。

出演/川村壱馬、RIKU、吉野北人、安達祐実、穂志もえか、夏子、坂井真紀、村上淳
脚本・監督/中川龍太郎
https://movies.shochiku.co.jp/my-knight/

Photos: Ayako Masunaga Hair & Makeup: NAYA Styling: Shota Funabashi Interview & Text: Mariko Uramoto Edit: Yukiko Shinto

Profile

安達祐実Yumi Adachi 1981年東京都出身。2歳から芸能活動を始め、1994年の日本テレビ系ドラマ『家なき子』で本格的にブレイク。以降も幅広い役をこなす実力派俳優として活躍する傍ら、ファッションブランド『虜 Torico』やコスメブランド『Upt』のプロデュース等、多岐にわたって活動。最新出演作『MY (K)NIGHT マイ・ナイト』が劇場公開中。
パントビスコPantovisco Instagramで日々作品を発表する話題のマルチクリエイター。これまでに5冊の著書を出版し、現在は「パントビスコの不都合研究所」(Numero.jp)をはじめ雑誌やWebで連載を行うほか、三越伊勢丹、花王、ソニーなどとの企業コラボやTV出演など、業種や媒体を問わず活躍の場を広げている。近著に『やさ村やさしの悩みを手放す108の言葉』(主婦の友社)。Instagram: @pantovisco

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