デザイナーのこだわりが凝縮した逸品。注目ブランドの偏愛シグネチャー標本
一つのものごとを徹底的に掘り下げ、探究した先にしか生まれないクリエイションがある。注目ブランドの象徴的なアイテムをデザイナーのコメントとともに採集すると、私たちを魅了するその個性がくっきりと浮かび上がってきた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年12月号掲載)
CHIKA KISADA|Tulle Material
バレエルーツを体現するチュール
バレエとパンク、儚さと強さ、相反するイメージの融合から生まれる「強いエレガンス」がコンセプトの「Chika Kisada(チカ キサダ)」。ブランドのシグネチャーといえるチュールアイテムは、これまで歩んできたルーツに寄り添ったバレエを表現するのに欠かせないツールであり、高揚感や繊細な感情を映し出すものでもある。
「バレエのエレガンスとパンクの生命力を吹き込むこと、非日常のファンタジーの要素をイメージしながら、シンプルさや実用性、複雑さのバランスをパターンで探り、ブランドの表現に落とし込みます。チュールは毎シーズン描いているテーマや女性像のメッセージでもあります」(デザイナー幾左田千佳)
TELMA|Flower Motif
花はシーズンテーマを語るツールの一つ
シーズンテーマに沿ったアプローチや解釈で毎シーズン、フラワープリントを展開している「Telma(テルマ)」。
「その理由は、純粋に花に心惹かれるということ。そして、花は生命と豊かな無秩序に満ちた自然の美しさや恵みを提示してくれる身近な存在であり、ブランドにとってのコアな部分を既に持ち合わせ、シーズンテーマを反映する最適なモチーフだから」(デザイナー中島輝道)
今季は「夜の肖像」をテーマに、夜にまつわるストーリーを展開。夜景、舞踏会や社交ダンス、装飾性のある煌びやかなイブニングドレスを纏って踊る様子を切り取ったコレクションの中で、フラワープリントは、花にあふれ躍動的に踊る情景を表現している。
ENTWURFEIN|Hat with Ribbon
エレガンスを表現するハットと風になびくリボン
ハットは顔に翳をつくることでエレガンスを演出するのに欠かせない存在。「Entwurfein(エントワフェイン)」の特徴でもある、顎紐から派生したリボンやコードは、長く伸びやかにすることでモードな空気を纏っている。
「シグネチャーであるアーミッシュハットの原型は、アーミッシュの男性がかぶっているハット。風で飛ばないように付いている顎紐と直線的なシルエットにミニマルなモードさを感じ、実用性をアレンジしました。顎紐を美しい上質なリボンにすることでラグジュアリーさを加えています。このハットから、日常的なものとラグジュアリーやエレガンスの融合というコンセプトが生まれました」(デザイナー南雲詩乃)
LOVE IT ONCE MORE|Upcycle knitting
ラブを循環するアップサイクル・ニット
企業ブランドのニットデザイナーをしていたとき、ニット工場の余剰糸廃棄問題を知り、余剰糸を使ったエゴのない物作りをしたいという思いからアップサイクル・ニットに特化。
「家庭用編み機で一つ一つ手作業で作っているオンリーワンが強み。編み段数や柄にこだわり、ブランド名『Love It Once More(ラヴィットワンスモア)』の通り、もう一度愛せるようにをテーマに、月と太陽、植物など自然界のモチーフ、ハート、蝶々といった愛や幸せのシンボル的なマークを取り入れています。糸の色も種類も太さも違うので、自分がしないような組み合わせになり、想像できない“可愛い”を作れたり、自分の限界を超えることができたと思います」(デザイナーMaro Kuratani)
LASTFRAME|Knitted Bag
ニットバッグというフレームで伝統技術を守る
普遍的でボーダレスなデザインと日本の職人技を融合させたブランドを象徴する「Lastframe(ラストフレーム)」のニットバッグは、日本国内に数台しかない特殊な編み機を使用して細かな柄を表現。そこには減少傾向にある日本の伝統技術の存続に貢献したいという思いがある。
「シーズンごとに消費されてしまうことなく、トートバッグのようにデイリーに使え、シンプルな洋服に一点プラスするだけでスタイリングが決まるデザインを心がけています。バッグというカテゴリーを超えて、ファッションの一部として提案したい」(デザイナー奥出貴ノ洋)
TENDER PERSON|Fire Motif
ファイヤーモチーフはラッキーチャーム
東京の今を伝える時代感や空気感を独自に捉え表現する「Tender Person(テンダーパーソン)」。インパクトのあるアイコニックなファイヤーモチーフは、プリント、刺繍、カットワーク、グラフィティなどさまざまな手法で毎シーズン登場する。
「もとは古着からインスパイアされ、ファイヤーモチーフをデニムやTシャツのグラフィックにしていました。このアイテムで初めて取引先が決まったり、アーティストに着用してもらったり、幸運のお守りのような存在です。以来、表現を変えながら続けています。派手でテンションの高い服を作り続けるのは、シンプル主流の時代と逆行しているけど、ファイヤーアイテムを身に着けると強くなれる気がするし、自分たちの意志ややりたいことを貫くことの大切さに気づかせてくれます」(デザイナー ビアンカ)
TANAKADAISUKE|Bijoux Embroidery
心ときめくビジュー刺繍の装飾
“おまじないをかけたようなお洋服で、⾃分の中のまだ⾒ぬ⾃分と出会えますように”をコンセプトに、得意のビジュー刺繍をあしらった装飾的なコレクションで、ロマンティックで幻想的な世界観を作り出す「Tanakadaisuke(タナカダイスケ)」。
「アレキサンダー・マックイーンのコレクションを雑誌で見つけて以来、刺繍、手仕事に惚れ込みました。昔から工芸品と呼ばれるもの、なかでも特に装飾美に興味があり、美しいバランス感覚に心奪われ、創作意欲が掻き立てられます。甘ったるさと薄暗い緊張感がブランドの大切な要素です」(デザイナー田中大資)
Photos:Ayumu Yoshida Prop Styling:Mamoru Hinata Edit:Masumi Sasaki, Chiho Inoue