アーティストEd TSUWAKIが見た「イヴ・サンローラン展」
イヴ・サンローラン美術館パリの全面協力を得て、没後日本で初めて開催されるイヴ・サンローランの大回顧展が開催中。クリスチャン・ディオールの急死を受けて1958年にディオールのデザイナーとして鮮烈なデビューを飾り、1962年からは自身のブランド「イヴ・サンローラン」を発表。2002年の引退まで約半世紀にわたってモードの帝王として君臨したイヴ・サンローランの40年を振り返る本展をアーティストのEd TSUWAKIがレビュー。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年12月号掲載)
彼は先駆者だった。
モンドリアンの絵から着想を得たワンピースがキーヴィジュアルとなっている本展覧会。確かにアイコニックなピースだが、これはサンローランをインスパイアしたモンドリアンがすごいってことになりませんか?と一瞬思ったものの、アンダーカバーとミヒャエル・ボレマンスしかり、サカイとKAWSしかり、アートとメゾンのマリアージュは現代でも行われている。ファッションデザイナーがインスパイアされ、美術館の壁から社交界やストリートに連れ出す。だからサンローランは先駆者だったのだ。
1980年代の終わり頃から、西洋のポップスやロックに食傷気味だったリスナーやプレイヤーが、アフリカ、南米、東欧、アジアなど未知の民族音楽や宗教音楽に飛びつき、ワールドミュージックがブームとなった。それらの一部はサンプリングされ、再利用されたが、後年コロニアリズム(植民地主義)、搾取だと批判された。引用と盗用の境界線は危うく、そこに美意識が問われる。サンローランもまた世界中の民族衣裳から着想を得てクチュールに昇華させていたが、注意深くディテールを見ると、見事に咀嚼され、オリジンへの敬意と愛を感じる。彼はまたハイブリッドの先駆者でもあったのだ。
鉛筆で一気に描き上げられたデザイン画のドローイングの線に迷いがない。女性の身体を知り尽くした筆致にシビれた。彼は生物学的に男性に生まれた「イヴ」なのだ。ワイエスエルの3文字の配列は永遠に。
※掲載情報は11月24日時点のものです。開館日や時間など最新情報は公式サイトをチェックしてください。
「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」
会期/2023年9月20日(水)~ 12月11日(月)
会場/国立新美術館
住所/東京都港区六本木7-22-2
開館時間/10:00~18:00 ※金・土曜、11月26日(日)、12月3日(日)、12月10日(日)は20:00まで ※入場は閉館の30分前まで
休館日/火曜
問い合わせ/050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://ysl2023.jp
Text:Ed TSUWAKI Edit:Sayaka Ito