パントビスコの不都合研究所 vol.15 近藤春菜
世の中に渦巻くありとあらゆる“不都合”な出来事や日常の些細な気づき、気になることなどをテーマに、人気クリエイターのパントビスコがゲストを迎えてゆる〜くトークを繰り広げる連載「パントビスコの不都合研究所」。第15回目は、ハリセンボンの近藤春菜が登場!
パントビスコ「今日は念願叶って、近藤春菜さんにお越しいただきました。これまでにも何度かお会いする機会はあったのですが、お話しできる機会をいただけてうれしいです」
近藤春菜「こちらこそお声掛けいただき、ありがとうございます!」
パントビスコ「お話ししたいことはたくさんありますが、まず最初に似顔絵を描いていただけますか」
近藤春菜「いきなりマジックで描くんですね。もう下書きもさせないぞっていう(笑)」
パントビスコ「絵を描くことってあまりないですよね」
近藤春菜「小学生のときに絵画教室に通っていたんですよ。絵を描くことは慣れているかもしれないんですが、何十年も前の話なので……」
パントビスコ「そうなんですね! 僕はもうシンプルにいきます。はい、できました」
(左)パントビスコが描いた近藤春菜 (右)近藤春菜が描いたパントビスコ
(近藤春菜)「パントさんの気遣いがわかりました。私、だいたい似顔絵のとき、ほうれい線をしっかり描かれるんですよ。描かないという優しさを感じました(笑)」
(パントビスコ)「いろいろと省略して、可愛らしいお鼻を特徴にしてみました。僕の方はスウェットのクマまでしっかり描いていただいて」
「そっちの方を描きたくなってしまいました(笑)」
「かっこいいです。おしゃれコーヒーショップのカップにありそう。着て来てよかったです」
“朝の顔”を務めた5年間。つらかったことといえば?
「僕がこの活動を始めた初期の頃に、ハッシュタグから春菜さんに見つけていただいて、トークショーに呼んでいただいたんですよね」
「そうです、そうです。それと『スッキリ』にもご出演いただいて」
「本当にそれが感謝しきれないです。だから、取材のときに『パントビスコさんのターニングポイントは?』と聞かれると、必ず春菜さんの話をするんです」
「えぇ〜! そんな、うれしいです。お笑い界でいうところの、鶴瓶さんやさんまさん並みのエピソードですよね(笑)」
「本当にそういう感じです。当時インスタグラムがまだ浸透していなかったときで、何者かもわからない僕をスタジオに呼んでくださって、春菜さんと『スッキリ』さんの懐はなんて深いんだろうと」
「番組側が、私が気になる人でいいので、と言ってくださって。熱量を持ってお話ができましたし、自分が見つけたみたいな感覚があって、なんかうれしいじゃないですか」
「ありがとうございます。春菜さんもそれからずっと『スッキリ』に出演されていましたけど、やっぱり見ている側からすると毎朝大変だなっていう印象だったのですが、入り時間って何時ぐらいだったんですか」
「8時から放送だったので、6時過ぎくらいにはもうテレビ局に入っていましたね。『スッキリ』は5年やらせていただました。もちろん、すごく大変なこともあったんですけど、こういう出会いやいろいろなご縁をいただいたり、めちゃくちゃ濃厚ないい期間だったなって思いますね。人生を変えるほどの。まぁ、やっているときは、修行って感じだったんですけど(笑)」
「視聴者側から見えているところだけじゃないですからね。『スッキリ』にご出演されている間は、やっぱり節制されてたんですか。早めに帰る、とか」
「私、28歳でお酒を覚えたので、もう遅咲きの狂い咲きで(笑)。30歳過ぎてから、もう本当に毎晩のように友達と飲んでたんですね。バラエティ番組の収録だと午後から始まることが多かったので、割と朝まで飲んでもよかったというか。でも、『スッキリ』に出演することになってから、友達の方が気を遣ってくるようになって」
「そうだろうなと思いました。友達の方が気を遣ってくる(笑)」
「そうなんですよ。誘われなかったり、めちゃくちゃ早い時間に私だけ帰されたりして、悲しかったんですよ。だから、それに耐える期間でもあったので、それもちょっとつらいところではあったんですけど。SNSでも、友達がすごく楽しそうな動画を上げるじゃないですか。それを見るのが結構つらい時期があって。今までの酔い方が、お酒を飲んだら楽しくわーって上がる一方だったんですけど、その頃の酔い方がひどくて、酔うともう泣いちゃうみたいな。自分の寂しい思いとか、そういうのが溢れ出ちゃって、友達にぶつけちゃって」
「友達と一緒にいるのに、ですか?」
「一緒にいるのに。自分はこれだけ寂しいんだ、みたいな一番嫌な酔い方になっちゃって。ネガティブ期だったんですよね」
「春菜さんにもそんな時期があったんですね」
「ありますあります。その頃が一番ひどかったですね。『スッキリ』が始まって1〜2年ですかね」
「ちょうど慣れながらやっているときですね」
「悩みながらやってるし、友達との楽しいことも、なんか我慢しなきゃいけないみたいな。で、友達が気を遣ってよかれと思ってしてくれてることも、つらかったりとかして」
「気の遣い合いですね。それも信頼関係がないとできないことだと思いますが」
SNSを離れて、見えてきたもの
「そういう飲み方になっちゃったから、友達から、今ちょっとおかしいからSNSを1回辞めなってアドバイスをもらって。友達との繋がりをSNSでは一回解消したら、仕事や友達や自分について考える時間ができて、友達は自分のためにいろいろしてくれてたんだっていうことも改めてわかったし、見ないっていう時間がすごく良かったっていうか。それで、自分のモチベーションとかも戻って、切り替えられるようになったんですよね」
「オンとオフというか」
「はい。平日は頑張って、金・土は弾けるぞ、みたいな。友達のありがたさをより感じましたね。プライベートでの成長もさせてもらいました」
「それは素晴らしいですね」
「番組をやっていたときは、休日でも朝5時ぐらいにパッて1回目が覚めるんですよ。起きなきゃって」
「ちょっと緊張感があるんですね」
「卒業して、しばらくはそのリズムが続くだろうなって思った次の日、めちゃくちゃぐっすり寝て(笑)。全然起きなくて、5年前にすぐ戻りましたね」
「(笑)。それはよかったです」
「今はもう友達と、コロナも落ち着いたので、朝まで飲めるような状況になったりとかして。それが、今も楽しくて」
「それは何よりですね。僕含めファンの方は、きっと番組が終わった後の生活習慣も気にされてる人が多いんじゃないかなと思います。だから、春菜さんのインスタを見ていても、ライブを楽しんでる様子だったりとか、人と会ったりっていうの見てると、やっぱりなんか微笑ましいと言いますか。好きなことを追ってるっていうのはいいなって思います」
「ありがとうございます。そうですね、楽しくやらせてもらっていますね」
常に気を遣って、自分で不都合を起こしてしまう!?
「そんななかで、今回の連載のタイトルが、不都合研究所というテーマになっているんですが、生きていくなかで、ちょっと不都合だなとか、ちょっとこれどうなんだろうな、悩ましいなっていうことがもしありましたら教えてください」
「私生きるの下手くそなんですよ。人によく『気遣うよね』って言われるんですけど」
「あの、とっても思います。はい」
「でも私、自分のなかでそれが当たり前なので、気を遣ってるって、あんまり思っていなかったんです。そういう生き方をしてきたから。でも、周りの人からしたら『いや、それすごい気遣ってるよ』とか言われて。逆の立場で考えたときに、『あ、確かにこういうメール打たれたりしたら、逆にその人も気遣うな』とか」
「萎縮してしまうだろうなって」
「人に対してきちっとしていたいというか、連絡事項もしっかり伝えておきたいと思うタイプなので、焦りがちなんですよね。相手がそこまでそんな風に思っていないのに、先回りしちゃって、こんな風に思ってたらどうしようとか。実は全然そんなことないのに、みたいな。だから、悩まなくていいことで悩んじゃうみたいなこともあって」
「なるほど。将棋の棋士みたいですね。こう来たらこう言われるから、ちょっとこうやっておこう」
「先の先を読みすぎて、悩みすぎてしまって」
「結局、それやらなくてよかったんだよっていう」
「そうなんですよ。40年間ずっとそんな感じな気がしてて。本当に生きるの下手だなと。結構不都合なことを自分で起こしちゃってる感じはありますね」
「なんか不思議ですよね。自分が勝手に渡した思いやりで、勝手に自己嫌悪に陥るというか」
「気を遣わなきゃって思う前に、もう側から見たら気遣っちゃってて。例えば人にお願いごとをするときとかも、さらっと言ったら『オッケー』ってポップにやり取りできる間柄なのに、こっちからお願いするってなったら、様子を伺って、『いい…?』みたいな感じで」
「それはすごくわかります!」
「パントさんもなんか似てる雰囲気ありますよね」
「そうなんですよ。僕も相手が一番傷つかない方法でやろう、迷惑をかけない方法でやろう、とか。今日のオファーもそうなんですよ。今お忙しいだろうなあ。ちょっとやめとこう。今じゃないって」
「さっきそれを聞いて、全然そんなことないのにって。いつでも言ってくだされば嬉しいのに」
「そういうことをテーマにしたような漫画も書いたことがあるんですね。どういうことかっていうと、まあ、ちょっとグダグダしてる友達がいて、そこにちょっと強引な男の子がいて。とりあえず、どこか行こうって言って、もう強引に連れて行く。『仕事?関係ないよ、後で考えよう』って。僕は絶対にできないんですよ、そういうこと。ちょっと憧れるんです」
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「あ〜わかります!!」
「ちょっと厚かましい人っていうんですかね」
「私たちもそういう人にこう、グイって来てほしいところありますよね」
「あります。もう今は近くにいるんだけど、30分後飲み行こうよとか。そう言われたら、ちょっとうれしいかも」
「うん、うれしい! でも、自分たちはできないですよね」
「誰かといるかな、とか明日早そうだしな、とか」
「勝手にそう思っちゃうんですよね。でもパントビスコさんが気遣いの人っていうのは、漫画を読んでみてもわかるというか。私も共感したんですけど、宅配の方が来て、去るのを待ってから鍵を閉めるエピソードがすごくよくわかるなって」
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「カシャッて鍵を閉める音が傷つくかなって。まあ向こうからしたらもう多分慣れてると思うんですよね。ただ、一対一の人間だしなって思ったりしますね」
大人になってわかった、人との理想的な距離感
「僕もSNSを扱うような仕事をしているので、デジタルデトックスについてはよく聞くんですけど、春菜さんのようにちょっと違う形でリセットするっていうのは、今日なんか初めて聞いた気がしますね。一度無くして、フラットにするっていう。目的が違うやり方っていうのかな」
「あえて、自分から見に行かなくてもいいかなって。人付き合いもそうですけど、その時にすごく会う人と、めっちゃ仲良くても、今はお互い違うタイミングだなってときが絶対あるので。でも、別にそれで離れたとしても完全に切れるわけじゃないし、また一緒にいたいっていうときに一緒にいられるし、ありますよね」
「確かに、仲いい友達ほどそんな感じがします。もう2年ぐらい連絡を取っていないときもあれば、毎週ご飯に行くこともあるし。で、お互いがその周期でもなんとも思わない」
「はいはい、なんとも思わないですね」
「中高生の方からたまにお悩みをいただくのですが、最近3人グループなのに、他の2人がずっと仲良くしてて、離れるか文句言うか迷ってますとか。それも気持ちはわかるけど、ちょっと考え方を変えたら、気にしなくていいよって言えるんですけどね」
「特に学生さんって、学校っていう場所があって、ほぼ毎日顔を合わせなきゃいけないのがつらかったりしますよね」
「確かに、そうですね」
「大人だと、会社だったとしてもクラスとかじゃないし、お互い今違うと思ったら、距離を置けるので」
「そうですね」
「学校が社会だから、狭い世界で大人より悩んじゃうっていうのがあると思うんですけど、そんなことないときが絶対来るから」
「その通りですね。SNSの登場で、余計気を遣うようになったかもしれませんね。誰かをご飯に誘うのにしても、今何してるかなってストーリーズをチェックして、1人のタイミングを狙って友達を誘ったりとか、そういうのがあったりするので、気にしすぎだなと思う自分もいます」
「さっきおっしゃってた、学生の3人グループで、ちょっと今はちょっと違うかなって思ってる子も、SNSで同じ趣味の人を見つけて、その人の投稿を見てるだけで、1人じゃないって思えるかもしれないし」
「そうですね。SNSとどう付き合っていくかって大事ですよね」
「我々は、ここまで来てしまったので、あまり変われないかもしれないですけど、もっとグイって行ったら、自分の世界が広がるかもしれないですね(笑)」
「そうですね。もうちょっとだけ厚かましくなれたらいいのかもですね。なんかまた誘ってきたよ、くらいの思われ方」
「誘われ待ちみたいのはあんまりしたくないですよね」
「なんだか予想せずハートフルな回になりました。うれしいです」
「私は人生に不都合があるので(笑)」
「きっと同じ悩みを持ってる方もたくさんいると思います。だから、春菜さんもそう思ってるんだって勇気付けられてほしいですね」
「ありがとうございます! そうありたいですね」
Photos: Ryo Kawanishi Edit & Text: Yukiko Shinto