グラフィックデザイナー石川将也が見た「ガウディとサグラダ・ファミリア展」
独創的な建築で世界中の人々を魅了し続けている建築家アントニ・ガウディ。「未完の聖堂」と言われながら、いよいよ完成の時期が視野に収まってきたサグラダ・ファミリア聖堂に焦点を当てた「ガウディとサグラダ・ファミリア展」が東京国立近代美術館にて開催中(9月10日まで。その後、滋賀と愛知に巡回予定)。クリエイティブグループ「ユーフラテス」より2020年に独立、さまざまな作品に携わってきたグラフィックデザイナーの石川将也がレポートする。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年9月号掲載)
未来に届く方法
鏡の使い方が印象的な展示である。展示序盤《クメーリャ革手袋店ショーケース、パリ万国博覧会のためのスケッチ》では、鏡と透明アクリル台を用いて、紙片の裏表両方を見せてくれる。このうれしい工夫が、小さな伏線。
ガウディはシンプルな数理概念を組み合わせることで生まれる幾何学的形状を、制作の出発点とした。一見有機的で複雑に見えるガウディ建築からは想像しづらいこの制作手法が、本展覧会の重要なテーマの一つとなっている。その代表例が「逆さ吊り実験」によって生み出されたコローニア・グエル教会堂の建築模型だ。錘をつけて垂らした紐は、合理的かつ強度のある曲線を自然に描く。ガウディはこの「重力に計算させた」さまざまな曲線だけで教会堂を設計した。つまりこの模型はひっくり返すと本来の姿になるのだが、垂れ下がった紐を頭の中で反転するのはかなり難しい。そこで本展では模型の下に、巨大な鏡が敷いてある。覗き込むと、ガウディが思い描いたであろう曲線群が力強く直立している様が目に飛び込んでくる。それはまるで3DCGのように理想的でありながら、紐の現実的な質感とあいまって、不思議なリアリティを伴う光景だ。
300年かかるといわれたサグラダ・ファミリアの完成予定は、CADや3Dプリンタといったコンピュータ技術の発展によって劇的に早まった。本展ではその理由が実感できると同時に、どんなに複雑に見える大きなものごとでも、基盤となる研究や、そもそもの動機、構想、倫理観や良心、つまり基礎が重要なのであり、それこそがプロジェクトの継承を可能とするのだということを、丁寧に伝えてくれる。
「ガウディとサグラダ・ファミリア展」
期間/2023年6月13日(火)〜9月10日(日)※日時予約推奨
※滋賀会場(日時予約制)、愛知会場に巡回
会場/東京国立近代美術館
開館時間/10:00〜20:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日/月曜日(ただし9月4日は開館)
URL/https://gaudi2023-24.jp/
Text:Masaya Ishikawa Edit:Sayaka Ito