【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.46 ホンダがアストンマーティンと組みF1復帰へ
Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。
vol.46 ホンダがアストンマーティンと組み、2026年からF1に復帰
先日、2021年限りでF1から撤退していたホンダが2026年からアストンマーティンと組んでF1に再参戦することが発表になりました。チーム名は「アストンマーティン・アラムコ・ホンダ」となります。
ホンダ 自動車レース「F1」復帰へ 2026年のシーズンから
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230524/k10014076571000.html
ホンダとF1の関係は古く、一番最初にF1に参入したのは今から約60年前の1964年のことでした。そのときはそこから5シーズン、1968年に撤退しています。そこから参戦しては撤退しての繰り返しになるのですが、その次の復帰は15年のブランクを経ての1983年でした。再参戦は10シーズン継続され1992年に撤退。8年を経て、2000年に再々参戦し2009年に撤退。7年後の2015年に4回めの復帰を果たすも、まだ記憶に新しいですが、一昨年の2021年限りでサーキットから去っていました。
そこから約2年経たないうちに復帰が発表されたのが今回のニュースなのですが、昨秋にFIA(国際自動車連盟)から発表となった2026年からのF1の新たなレギュレーションのアップデートがその大きなきっかけになったようです。2026年からのルールとしてカーボンニュートラル燃料を全面使用すること、電気エネルギーの比率を高めエンジンとモーターの出力を50%ずつというハイブリッドスタイルの推進などが掲げられたことで、環境問題と対峙し脱炭素を急ピッチで進めなければならないホンダにとって必要となってくる技術がF1参戦で培われるものと大きく重なってくるということがありました。
当然FIAもそこを狙って自動車メーカーが企業として目指すべき方向性と重なる要素をレギュレーションにも盛り込んでくるわけですが、モータースポーツとしての魅力も当然守らないといけないところなので、ただエコに振ればよしというようななかなか簡単なものではありません。またホンダのケースだと、参入中にF1にかけていたコストは年間1000億円程度ともいわれていて、この規模の会社でも気安く参入できるレベルのプロジェクトでは決してないのです。今回はそこがうまくはまったということなのでしょう。
ホンダが2021年までパワーユニットを提供していたレッドブルのチームは、ホンダの撤退に伴い、自社の開発部門レッドブル・パワートレインズを立ち上げて、フォードとの提携を発表しました。ホンダは2021年に撤退の判断はしたものの、2022〜25年はパワーユニットの開発は凍結というというレギュレーションがFIAから発表され、それまでの仕様のものを2025年まではレッドブルに提供のみを継続するという契約になっており、社内の開発チームは予算をかけた新規開発はできないものの残っていた状態でした。
2026年以降のアストンマーティンとの契約が成立していなければ、ホンダ社内のF1関連のチームはおそらく解散となってしまっていて、F1参戦へのブランクはさらに長くなっていた可能性が高かったのだと思われます。社内のエンジニアとしてはF1に関わりたい気持ちも強く、なんとか継続することはできないかと続けたアプローチは「蜘蛛の糸作戦」と呼ばれていたとのこと。
アストンマーティンは今季からフェルナンド・アロンソをドライバーに据えています。アロンソはマクラーレン時代に当時チームに供給されていたホンダのエンジンを痛烈に批判したことがありましたが、ホンダは過去の話、とコメントしています。また現在はアルファタウリに所属しているホンダの育成プログラム出身の角田裕毅もアストンマーティンはドライバー候補のひとりとも述べており、エンジンとドライバーのチームジャパンが見られる可能性もあります。2026年からのシーズン、今から楽しみですね。
Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue