運命的な出会いに導かれた女性醸造家 アキコ・フリーマンに聞く、ワイン人生
みなさんこんにちは! ワインブロガーのヒマワインです。今回は、運命的な出会いに導かれてワインメーカーとなり、そのワインが大統領の晩餐会で供されるまでに至った日本人女性の話を聞いてきました!
お会いしたのはアキコ・フリーマンさん。アキコさんはアメリカの著名ワイナリー「フリーマン」のワインメーカーです。交換留学生として向かったニューヨークで現在の夫であるケン・フリーマンさんと出会い、ワインメーカーとしての天賦の才を見出されると、ついには日米両国の架け橋として振る舞われることになるというリアルシンデレラストーリーの主人公。
そんなアキコさんに、ワインとご自身の話をたっぷりと伺いました。以下、インタビュー形式でお送りします!
縁結びのワイン「グロリア」が生まれるまで
ヒマ「アキコさんがアメリカでワインを造ることになる、その経緯をうかがってもいいですか?」
アキコ「大学生だった19歳のころ、1年間の交換留学生としてニューヨークに行ったんです。留学から3週間が経ったある日、ハリケーンがやってきたんですね。その夜に、友達が『パーティがあるから来ない?』って誘ってくれたんです」
ヒマ「いいですね」
アキコ「どんな格好をしていいかわからなくて、カクテルドレスを着て、髪の毛をアップにしてハイヒールを履いて向かったんです。そうしたらみんなデニムにTシャツ(笑)。その日に主人と出会ったんです」
ヒマ「シャネルのドレスを身に纏ったアキコさんに、ケンさんが一目惚れされたとか。まさに運命的な出会いですね……!」
アキコ「その日にやってきたハリケーンの名前が『グロリア』。ですので、ウチの畑にもグロリアという名前をつけたんです。その畑から生まれる『グロリア・エステート 輝 ピノ・ノワール グリーン・ヴァレー・オブ・ロシアン・リヴァー・ヴァレー』はアメリカで縁結びのワインとして人気なんです」
ヒマ「その後スタンフォード大学に進まれ、世界を飛び回るケン・フリーマンさんと大恋愛の末に結婚、そのままアメリカに残られたんですね」
アキコ「一年の交換留学のはずだったんですけれどね。私の後輩たちは「必ず一年で交換留学から帰ってくる」と一筆書かされるようになったそうです(笑)」
ヒマ「そしてワインの道に進まれる」
アキコ「主人は今でも銀行員として働いているのですが、食べるのが大好きな人で、それが高じてワイン造りをはじめると言い出しまして、なぜか私がワイン造りをすることになりました」
ヒマ「もともとワインがお好きだったんですか?」
アキコ「私の祖父は1900年生まれなのですが、27歳で東大の教授になったという人で、政府の派遣でイギリスに住んでいたときにフランスワインを飲む習慣を覚えて帰ってきたんです。それで「あの先生はフランスワイン好きらしいぞ」ということで、祖父の元にワインが集まるようになったんです」
ヒマ「すごい、おじいさまの代からワインに縁があったんですね!」
アキコ「祖父はボルドーが好き。父はブルゴーニュが好き。そして母はお酒が飲めない。ですので、父は「この子を“飲み友達”として育てよう」と私を育てたそうです」
ヒマ「うーん、すごい。小さい頃からの英才教育があったんですね」
アキコ「小学校5年生の頃の話ですが、テレビのお料理番組で『コック・オ・ヴァン』という鶏の赤ワイン煮が紹介されていたんです。『作ってみたい』というと母も『やってごらん』と。そこでスーパーで『クックワイン』というのを買ってきて、作ったんです。すると父が『これはちょっと食べられないな』と」
ヒマ「うわ、悲しいですね」
アキコ「深く傷つきました(笑)。ただ、父いわくワインがよくないから料理の味がよくないのだから、今度はおじいちゃまのワインでやろうとなったんです。そこで祖父がワインを保存していたお蔵に入り、これは良さそうだわと選んだワインでコック・オ・ヴァンをつくったところ、それが大変好評だったんです」
ヒマ「ちなみに、そのワインはなんだったんですか?」
アキコ「ロマネ・コンティだったんですね(笑)。祖父には『残りはどうした?』と聞かれましたが、1本全部使ってしまっていました」
ヒマ「世界で一番高いと言われるワインを1本まるまる……! なんとも豪快なエピソードですね(笑)。でも、その甲斐あって2015年のオバマ大統領と安倍晋三首相のホワイトハウスでの公式晩餐会でアキコさんの造ったワインが使われるまでになるんだから、ロマネ・コンティも無駄ではなかったですね」
アキコ「それについても面白い話があるのですが、最初『「涼風 シャルドネ ロシアン・リヴァー・ヴァレー」を10ケース、ワシントンに送ってほしい』という電話を受けたのは私だったんです。『ワシントンのどちらに送ればよろしいですか?』とうかがったら『ホワイトハウス』と。『ホワイトハウスというレストランがあるんですか?』と重ねてうかがったら「いや、ホワイトハウスだ」と。イタズラだわと思って、電話を切ってしまったんです」
ヒマ「いやでもそれはアキコさんは悪くないです(笑)。ホワイトハウスから電話がかかってくると思わないですもん、普通」
アキコ「ホワイトハウスのワインディレクターの方が、オバマ大統領と安倍首相の晩餐会に出すワインを探していた際に、たまたまレストランで『涼風シャルドネ』を飲んだそうで、『ラベルに漢字も書いてあるし、ふたつの国に橋をかけられるワインだ』と選んでくださったそうです」
ヒマ「アキコさんのお話は、運命的な出会いに満ちていますね…! そして『涼風シャルドネ』を飲ませていただきましたが、驚くほどおいしくて、これは公式晩餐会にふさわしいワインだと感じました」
アキコ「私たちのワイナリーはソノマコーストでもとくに冷涼な海岸沿いの『ウエスト・ソノマコースト』と呼ばれるエリアにあります。カリフォルニアというと暖かい印象があるかと思いますが、アラスカからの寒流の影響で、ウエストソノマコースとは夏でも夜中は気温が10度を下回ります。ブドウがゆっくりと成熟していくので、酸がしっかりと残ってくれるんです」
ヒマ「近年のカリフォルニアでは山火事の影響も取り沙汰されますが、そのあたりはいかがですか?」
アキコ「影響はやはりあります。この『ユーキエステート ヴィンヤード ロゼ ブリュット』は、山火事の影響で生まれたワインです」
ヒマ「2020年ヴィンテージ。カリフォルニアですごく大きな山火事があった年ですね」
アキコ「その年の8月17日、雨が降っていないのに、1万2000発の雷が落ちたんです。それで大規模な山火事が起き、私たちのエリアにも煙が迫ってきました。仕方なく熟し切る前のブドウを収穫し、通常の赤ワインにはできないのでスパークリングワインにしたのがこのワインです」
ヒマ「いやでも、『やむをえず造った』とは思えない素晴らしい味わいです」
アキコ「おかげさまで現地でも大変好評で、1回限りのはずが毎年造ることになりそうなんです」
ヒマ「いやはや、面白いお話においしいワインをありがとうございました!」
アキコ「アメリカにお越しの際は、ぜひ私たちのワイナリーにお越しくださいね」
パワフルで上品でチャーミングなアキコさんの素敵な人柄は、アキコさんが造るワインにそのまま反映されていました。「ブドウが語る物語を、私は通訳しているだけです」というアキコさんのワイン、ぜひ一度手に取ってみてはいかがでしょうか?
Photos & Text:Hima_Wine
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