【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.41 東京五輪を巡る談合事件
Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。
vol.41 東京五輪・パラリンピックを巡る談合事件
昨年から捜査の続いていた東京五輪・パラリンピックを巡る談合事件で、主要広告代理店、組織委員会の元次長らが談合の疑いで公正取引委員会に告発され起訴されました。
電通や博報堂など6社告発 組織委元次長ら7人も 五輪談合で公取委
https://digital.asahi.com/articles/ASR2X1PWNR2QUTIL05K.html
今回の談合に係る受注総額は約439億円で、追徴金は受注額の10%程度(主導したとされる電通グループは5割増の15%)とされているとのことですが、談合が行われたことで通常より10%以上高い発注額になっている(≒受注者の利益が10%以上増えている)可能性も大いにあるでしょうし、本来の受注額としていくらが妥当だったかの調査からまずしっかりやってほしいという気持ちになります。
今の時代においてさすがにちょっとそこまでではないのではと思いますが、僕が電通に在籍していた20年ほど前だと、渋谷の駅前でゲリライベントを行い書類送検されたことが社内で武勇伝として語られるといったような、クライアントが喜び会社に利益をもたらしていれば、そのレベルでもよくやったと言われるような風潮が若干あったようにも思います。
そういった風潮は一旦おいておいたとしても、ゲーム理論的な考えで考察すると、談合をすることで追徴金以上の収益があがるのであれば、したほうが戦略としては合理的なのではと考える人がいてもおかしくないです。
指名停止の期間や、今日の世間におけるコンプライアンスの感覚でのレピュテーションリスクを思うと、起訴された各社が談合が発覚した状況でにおいてそれでもやってよかったと感じているとは到底思えませんが、仮に金銭的にはハッピーだったという状況があったとすればそれはそれで国民として許容できるものでは決してなく、そもそものペナルティとしてもっと重い追徴金ルールが必要なのではないかと個人的には感じました。
また、指名停止期間に関して、すでに大規模なスポーツ大会やイベントに携わる事業者ががこぞって起訴されてしまって、運営においての懸念があがっている状況と報道されています。
この状況において果たして指名停止という判断が国民の利益になるのかどうかというと、そこもクエスチョンマークが出てくるところです。むしろ受注してもらい利益を返納してもらう、追徴金とうまくかけあわして「タダ働き」をしてもらうという形のほうが皆がハッピーになる可能性も大いにあるのではないかと。
このモデルが仮に実現できたとしても、(適切な)利益の返納を追徴金にあてるという設計が肝で、タダ働きだからといって手を抜いた成果しか出さないと追徴金にカウントされない、というモデルの設計が必要です。
今回の件は、オープンでクリアとは真逆の意思決定のプロセス、ブラックボックスの話し合いにうまく入り込み会社に利益がもたらしていれば、そこに潜り込んだこと自体が評価されるという旧来型の広告代理店でよしとされた属人的な働き方の限界を感じさせる象徴的な事件になりました。
オリンピック自体の商業主義が行き過ぎた結果の事象とも捉えられ、官民共同プロジェクトがオープンに、クリアに、効率的に運用できないこと自体、近年の日本のポジションが国際的に没落していっていることとと深い相関があるのでは、という気もします。他国がどの程度うまくやっているかもなかなか肌感ではわかりませんが、税金を効率的に投下、投資していけない国家は、国際競争においても負けていくのが当然の結果なのでしょうね。
コロナの補助金で病院がボロ儲けしたとか、不正で逮捕者が出たといったニュースを見ていてもいや気分にしかならないですが、ようやくマスクの義務から解放されそうな今月、すぐそこまで来ている春になんとか心を躍らせて前に進んでいくしかないですねぇ。
Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue