【Editor’s Letter】自分自身が輝くと、輝いた出来事がやってきて、輝く人生になるんだね
2023年2月28日(火)発売の『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2023年4月号に寄せて。編集長・田中杏子からのエディターズレター。
ようやく世界が元気な日常を取り戻そうとしています。それは昨年の秋に開催されたコレクションからもうかがえます。ゴールド、シルバー、キラキラ、ピカピカ。とにかく光り輝くものがあちらこちらで使われていて、見ているだけで気分が高揚しました。ファッションはこうでなくちゃね!とあらためて実感。元気な流れを汲んで「きらめく、ときめく」特集を送ります。
学生の頃って何かと気持ちがきらめいたり、ときめいたりしていたのに、大人になるとそんな気分が減っていくのは一体なぜでしょう。そんなことを思うようになったのは最近、娘の日々の出来事を聞きながら、ドキドキワクワクの疑似体験を楽しむ私がいることに気づいたからです。「今日はあの子とこんな話で盛り上がった」とか「あの男子にこんなこと言われた」などを聞いているうちに毎日の楽しみと化していて、一日の終わりには「今日がどんな日だったのか」の詳細を聞きたくてうずうずしているのです。話が始まると「え〜、それひどくな〜い? マジやばくな〜い」などとお恥ずかしながら話し言葉までJK状態で、学生時代に戻ったようなキラキラな時間を過ごしております。女子トークってすごいですね。あの頃、何の利害関係も忖度もない女友達と過ごしたオシャベリの時間が、大人になった今はもうないのだと思い知らされます。
そうそう。先日、東京ガーデンシアターにて開催されたYOSHIKI、HYDE、SUGIZO、MIYAVIの4人で結成された「THE LAST ROCKSTARS」のライブを見てきました。とにかく年齢など微塵も感じさせないエネルギッシュなパフォーマンスで、さすが“ロックスター”と名付けるだけあってキラキラ光り輝いていました。ちなみに今までノーマークだった「L'Arc~en~Ciel」ですが、HYDEの歌声とパフォーマンスに完全にノックアウトされました。今更ですが、音楽配信アプリに「ラルク」と検索をかけては、あの独特の歌声に聴き入っております。当時のHYDEの声は高くて美しく、うっとりするようなハイトーンボイスですが、個人的には1月29日に54歳を迎えたHYDEの歌声がダントツ大人の色香が漂い萌えます。THE LAST ROCKSTARSはアメリカでもパフォーマンスを披露し挑戦を続けています。夢を見続けるエネルギーこそ輝きの必須条件なのですね。
さて、今号は二人の若手女性作家にそれぞれの「一瞬のきらめき」について寄稿いただきました(本誌p.92〜)。短歌を寄稿してくださったのは、28歳の工藤玲音さん。高校生の頃から文芸部に所属し、全国高等学校文芸コンクール小説・詩・短歌部門で優秀賞を受賞したり、全国高校生短歌大会の団体優勝を経験するなど生粋の文学女子さんです。2021年「群像」に発表した小説『氷柱の声』が、受賞には至らなかったものの第165回芥川賞の候補に選ばれるほどの力量の持ち主です。短歌で繰り広げた工藤ワールドの「一瞬のきらめき」を覗くことができます。もう一人は現役大学生の若手作家、日比野コレコさん。自己肯定感を抱けずに絶望の淵にいる高校生3人の交流をそれぞれの視点から描いた『ビューティフルからビューティフルへ』で新人の登竜門ともいわれる第59回文藝賞を受賞した気鋭の作家です。独自の世界観を個性的に表現したエッセイは今時の新しさを漂わせています。そしてこの二方を選抜したのが、若手編集者M.K。彼女から「工藤玲音さんは日常の些細な瞬間を捉えるのがとても上手な方ですが、今回も映像が目に浮かぶような、思わず自分のことかと思ってしまうような、共感性が高くいつまでも胸に残るような短歌を書き下ろしてくださいました。日比野コレコさんは、デビュー作で高校生の鬱屈とした感情を疾走感のある文章で書き上げていて、かつその独特な言葉選び、ヒップホップのようにサンプリングの技法を取り入れる文体が面白かったです。今回は日比野さんだけのきらめきを追い求める様子をモノローグのように綴ってくださったのですが、やはり独特の言葉センスにワクワクしてしまいました」と、非の打ちどころのない説得力あふれる力強い感想とともに、二人の寄稿文の素晴らしさを届けてくれました。個性輝く作家二人とほとばしる熱量をサラリと言語化する編集者。彼女たちのキラキラに触れられたまぶしい時間でした。
幾つになってもきらめきは必要ですね。あらためて痛感させられた特集でした。
Profile
Twitter: @akotanaka Instagram: @akoakotanaka