世界一若い、奇跡の56歳。チュアンド・タンにインタビュー「今というこの瞬間にある人生を楽しみたい」
シンガポール在住のチュアンド・タン(Chuando Tan)が世界中で人気を集めるきっかけとなったのは、2015年にスタートさせた彼のInstagram。フォトグラファーとしての作品に交えて投稿した自身のトレーニング姿や、美しく6つの割れた腹筋が拡散され、“奇跡の50代”として世界中の人々が注目する存在となった。15歳でモデルとしてキャリアをスタートさせ、現在はモデルエージェンシーを営む実業家であり、Numero CHINAでも活躍するフォトグラファー、俳優、映画監督…と様々な顔を持つ彼。ミステリアスなヴェールに包まれた、チュアンド・タンとは一体誰なのか? 彼が住むシンガポールでインタビューを行った。
──チュアンドさんはいま日本で、“奇跡の56歳”だととても話題になっているんですよ。
そうみたいですね。なぜ話題となっているのか……僕にもわからないんですけれども(笑)。11月に東京へ遊びに行った後、たくさんの日本のフォロワーからメッセージをいただきました。ネットメディアでも僕の来日が話題になっていたみたいですね。
──ではまずはじめに、キャリアについてお伺いしたいです。モデルとして活動をスタートしたのが1982年。その後、シンガー、フォトグラファーへ転身。
15歳の時、自宅の近くでスカウトされたことがきっかけで、モデルになりました。エージェントに入り、学校に行きながらモデルとして働き始めました。18歳ぐらいなって、ヨーロッパを中心にランウェイの仕事にも呼ばれるようになり、様々な国籍のモデルたちと一緒に働くなかで「ファッションとはなにか」を学びました。
──そして、シンガーへ転身。
シンガポールはエンターテインメントのマーケットが小さいので、モデルとして有名になった後、テレビ番組にも呼ばれるようになったんです。でも、僕自身はとてもシャイなので……そこから距離をとりたいと思っていたのだけれども、当時、母親が体調を崩して家族を助けるためにシンガーとしてのキャリアもスタートさせました。
──それからフォトグラファーへ?
歌手になる前にアートスクールへ通い、グラフィックデザインを勉強していたんです。学校を卒業した後、レコーディングアーティストとして契約をしたのだけれども、自分の性格がとても内気なため、MRT(シンガポールの地下鉄)やバスに乗っているときだったり、道端で声をかけられたりすると戸惑ってしまって……。
「待って、これは僕が望んでいた人生ではない」「こういうことを望んでいたのではない」と実感したので、テレビ局から俳優の仕事のオファーなどもあったのですが、すべて断って、荷物をまとめてアメリカへ旅立った。兄がそのとき、アメリカに住んでいたんです。それで、アメリカでモデルとしてのキャリアを再スタートさせ、2年ぐらいモデルをしていました。その後、自分の心の中に「クリエイティブなことをしたい」という気持ちが大きくなってきたことに気が付き、シンガポールへ戻ってフォトグラファーとしてのキャリアをスタートさせたんです。
──チュアンドさんがNumero CHINAでも撮影をされていたフォトグラファーだと知って、とても驚きました。
Numero CHINAとは何年も前に仕事をしました。今はもう、そんなに写真は撮っていないんです。セミリタイアしている感じでもあるんです(笑)。僕はデュオフォトグラファーとして仕事をしていましたが、フォトグラファーとして活動し始めた当初は、誰のアシスタントもせずに自分のロジックを使って一人で写真を撮った。その作品が多くの人の目に留まり、広告の仕事をはじめたくさんの撮影のオファーをいただき、本当に僕はラッキーだと思いました。それで、「フォトグラファーとしてやっていけるな」という確信が持てるようになったんです。
でも、当時のシンガポールのファッションの表現は、海外とは異なっていた。ヨーロッパで“ウェイフモデル”が台頭してきたとき、シンガポールでは依然としてグラマラスなセクシーさを求められたり、アジアンテイストを強調していて……。僕はミラノやアメリカにいて、海外のモデルやファッションのトレンドを理解していたから、シンガポールに戻った後、できるだけヨーロッパのモデルと仕事をしたいなと感じたんです。そして、こちらのインターナショナルスクールに通っている生徒たちをモデルとしてスカウトするようになりました。
──それで、モデルエージェントも始められたのですね。そのとき、チュアンドさんは何歳でしたか?
ニューヨークでモデルとして働いた後、シンガポールに戻ったのは29、30歳の頃です。自分の作品撮りのために、これから芽が出そうな若い人たちをスカウトし始めたんです。スカウトした子たちのなかでインターナショナルでも通用するポテンシャルがあることがわかり、IMGやDNA、エリートモデルなどのニューヨークのモデルエージェントに彼らを紹介しました。それから数年後、僕が38歳のときに自分のスタジオにたくさんのモデルたちを集めて、本格的にモデルエージェンシーを経営することにしたんです。
──今、チュアンドさんの心をいちばんインスパイアすることはなんですか?
僕の人生は仕事がメインだったけれども、この年齢になって、自分の“心の中”に興味が出てきたんです。ちょっとスピリチュアルなことにね。インナービューティやメンタルヘルスに関してなども。いまは、自然に存在する「美しいもの」にいちばん感動するかな。僕の父親は有名な画家でした。幼い頃から父が描く絵を見て育つ、アートが身近に存在する家庭環境だったんです。姉や兄の芸術的なセンスも影響して、僕自身も自然とアートに興味を持つようになった──それはきっと、遺伝子なのかもしれません。
幼い頃から美しいものに感動したり、美しいものに惹かれるようになっていった。絵画の中にある美にとても敏感だったり、自然が大好きだったり……。どこにでもあるような1本の木を見ても、木の中に宿る美しさを僕は見つけられる。空を見れば「なんてキレイなんだ」と感じます。時にはそういうことを当たり前だと見過ごしてしまう人たちもいるけれど、光だったり、雨だったり……自然のなかのすべての要素に美しさを感じて、感動するんです。子どもの頃は、他の同級生とは全く違った変わった子どもだったんですよ(笑)。普通は、みんなで一緒にボール遊びなどをするけれど、僕は放課後、一人で川辺に行ってかえるを捕まえたり、森に行って昆虫や花を観察したり。いつも一人で遊んでいたんです。こういうことも、今の自分に影響を与えていると思います。
──昨年11月に日本を訪れたとき、日本でなにを想いましたか。
日本はとても美しかったです。すべての世界が、日本から学ぶことがたくさんあると感じました。日本人のアティチュードだったり、自分たちがしていることへの愛や情熱だったり……他の国ではあまり感じられないことにインスパイアされました。日本を訪れた外国人はみんな、日本からなにかを学びとっていると思います。例えば、お店に入る時だって自分のしていることに日本人は情熱を持って接していると感じられるし……それはとっても大切なことだと思ったんです。
──日本人女性に対して、どう思いましたか?
すごく可愛い、素敵だなと思いました。みんな、僕にとっての“理想の妻”になれるような!(笑)。
──今、チュアンドさんは日本でとても有名な50代です。“奇跡の50代”と呼ばれてしまうほどの若さを保つためのビューティシークレットを教えてください。
わからないですね……。僕にはシワだってあるし、シミだってほらここにも(と、笑いながら、小さなシミを見せてくれる)。僕はモデル、レコーディングアーティストだったので、若い時からの写真が残っているから嘘はつけない立場にある。だから、整形にはまったく興味がないんです。日々の積み重ねで今につながっていることがあるとすれば……食べものだと思います。
20代の若いときの自分は、今よりもっと厳しかったんです。現在はもっとリラックスしているんですけれども(笑)。シンガポールの食事はたいていオイリー。友人とご飯を食べに行ったとき、僕はそれをお湯で茹でるようにお店の方にお願いしたりして(笑)。だから友達全員から、「チュアンドとはご飯に行きたくない!」って(笑)。当時はちょっと入れ込みすぎていたけれど、ヘルシーな食べものが昔から大好きでした。今もヘルシーな食事をして、週に5回はエクササイズしています。週に5回のトレーニングは、健康的に年齢を重ねたい人にとってはノーマルなことなんです。僕はお酒を飲まないし、たばこも吸わない。僕にとって「こうなりたい」と思い描く理想的な人間は、とてもポジティブでヘルシーな人。20代の頃、モデル仲間でカッコよくクールに見られたいからとドラッグやお酒に走ったりする人がいたけれど、そういうことに昔から全く興味がなかったんです。
──好物はチキンライスとお水という記事を日本で見ました。チュアンドさんに憧れる私の友人は毎日、その体になれるように日本でチキンライスを食べています(笑)。
でもライスは炭水化物で糖質も多いから、食べ過ぎはよくないですよ(笑)。茹でたチキンとほんの少しのライスが理想的。よく、「何を食べたら、あなたみたいになれますか?」と聞かれますが、好きなものであれば何でも食べていいと思うんです。たとえ、脂たっぷりのフライドチキンだとしても! 大切なことは、毎日きちんとカロリーをコントロールすること。消費するカロリー以上のものを体に溜め込んでしまうと、肥満につながってしまうから。とってもシンプルなことです。
──今朝は何時に起きて、何を食べましたか?
正直に言うと……クリエイティブなことをしていると、夜ふかしをしてしまうことは多くて。それで、起きる時間も自然に遅くなることだってあります。僕だって、人間ですから(笑)。
──朝の4時、5時に起きて、瞑想をして1日を始める人だと思っていました(笑)。
よくみんなにそう思われているみたいです(笑)。でも実際は、夜遅くまでも起きていますが、毎日8時間の睡眠をとることを心がけています。何時に寝たとしても、8時間の睡眠をとると、体がしっかり回復されている気がするんです。
──今日の朝は何を食べましたか?
ブルーベリーを入れたプロテインシェイク。体の若さを保つためにおすすめなのは、運動をすること。太ってしまうと中性脂肪が増えて、コレステロールが高くなるので、あまり太らないほうが健康的でいられると思います。僕はウエイトトレーニングを中心にしています。僕の年齢は、筋肉や骨密度が減ってくる年頃なので、コンパウンドエクササイズ(多関節運動)が必要になってくる。年齢を重ねると、筋肉を減らさないことが本当に大切になってくるんですよ。楽しいことではないけれど、やらないとね。
──肌のお手入れはなにをしていますか?
洗顔も保湿も使えないほどの敏感肌なので、子どもの頃から肌にはなにもつけないようにしているんです。今は時々、外出する際に日焼け止めを塗るようにしているぐらい。日焼け止めを使い始めたのも、1〜2年前なんです。もし僕の肌が若く見えるのなら、遺伝的な要素も大きいかもしれないね。
──何をしている時間が楽しいですか?
何をしている時間が楽しいか? 僕の年齢で?(笑) いまは、自宅にいる時間が好きです。ジムに行った後、シャワーを浴びて、ご飯を食べて、テレビの前に座っているときが幸せですね。あと、旅をするのがとても好きです。
──座右の銘はなんですか?
16歳という年齢でモデルとしてのキャリアをスタートさせてから、いろんな経験をして感じるのは「人生は簡単ではない」ということ。人を信用できなくなる時もあるし、生きていれば本当にいろんな時がある。だから思うのは、「いつも勝つ必要なない(I don’t have to win all the time)」ということ。もっと落ち着いて、リラックスして、物事をあるがままに受け止めよう。そして、時には受け流そうと自分に言い聞かせてみたら、とても楽になれたんです。
もし、道で誰かと喧嘩をして、たとえ自分が勝ったとしてもあまり意味がないと思いませんか。人生はとても短いから、喧嘩をする必要も闘う必要もないんです。「もし、明日死んだらどうする?」──きっとみんな僕のことを忘れるだろうし、たとえすぐに忘れなくてもいつかは忘れられる……それだったら「今というこの瞬間にある人生を楽しみたい」というのが、自分のモットーになっています。
──これから、どんな挑戦をしていきたいですか?
わからないな……。だって、僕はとても退屈な男だから(笑)。この年齢だから正直に言うと、そんなに意欲的ではないかもしれません。健康で、幸せであることを望んでいます。また、SNSで注目を浴びた後は特に、人々に“良い影響を与えられる人間”でありたいと思うようになりました。シンプルにそう思うようになったんです。
──もしチュアンドさんが女性に生まれていたら、どんな女性になりたかった?
どんなジャッジをされても気にしない、どんなふうに見られているかも気にしない。もし可能であれば、自分らしく輝いている年齢の重ね方を楽しめる女性に生まれたいなと感じます。SNSなどで整形をしている人々をたくさん見るけれども、僕にとってそれは本当の美しさだとはなぜか感じられないんです。みんな同じに見えてしまうから……。自分らしいオリジナリティを大切にして、ナチュラルビューティを楽しめる女性でいたいなと感じます。
──では、生まれ変わってもチュアンド・タンになりたい?
チュアンド・タンにまた生まれ変わったら、おじいさんの僕が20歳のチュアンドに「こんな経験をしてきたから、今はこうしたほうがいいよ」って、将来苦労しないようにアドバイスができるかもしれませんね(笑)。でもそれと同時に、チュアンドン・タンではない人生も経験してみたいと思います。新しいチャレンジが好きだし、困難だったり、難しい局面に自分の身を置くのも好きなんです。そこを乗り越えたときに得られるものが、とても大きいことを知っていますから。チャレンジができるなら、常に挑戦していきたいなと感じています。
──最後にNumero TOKYOの読者にメッセージをお願いします。
リラックスして、気楽に行きましょう。そして、自分自身の人生を楽しみましょう!
Photo:Frey Ow(@frey_chuandoandfrey) Styling:Joshua Cheung(@joshuacheung) Grooming:Rick Yang (@yangrick) Wardrobe:Louis Vuitton Interview & Text:Hisako Yamazaki