「Patou」ギョーム・アンリ来日インタビュー「大切にしているのは less but betterであること」
1914年創業の歴史あるクチュールメゾン「ジャン パトゥ」がブランド名をPatou(パトゥ)とし、アーティスティック・ディレクターにギョーム・アンリが就任。LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン グループのもと、2018年に新たなスタートを切った。ギョーム・アンリといえば、カルヴェンやニナリッチ時代のパリシックな繊細な甘さのあるクリエイションで、ファッション好きな女性たちの心を掴んだデザイナー。その美意識はパトゥでも健在。2022年にはブランド初のフラッグシップショップを表参道ヒルズにオープン。2023年春夏コレクションとともにあらためて披露されたショップで、6年振りに来日したギョーム・アンリに思いを伺った。
──今回の来日の目的を教えてください。
いちばんの目的は、今年オープンしたパトゥ表参道の完成を目にすること。どれだけ日本に来ることを楽しみにしていたことか! 僕にとっても、ブランドにとっても、待ち焦がれていた機会でした。コロナ禍につくり上げたお店だったので、ようやく訪れることができてうれしいです。日本は熱心なお客様が多く、パトゥは好評なんです。今回は実際に皆さんにお会いして、この街や人々のことをもっと知りたいと思っています。
──東京の街の印象は変わりましたか?
これまで7回くらい来日していますが、街のエネルギーは変わらないですね。とても刺激的で、街の人々を見ているのが大好きです。今日は早く起きて、朝7時からスタッフと渋谷の街を散歩して、街の活気を感じてきました。道が見えるカフェの席に座れば、通り過ぎる人々を眺めて何時間でも楽しめます。刺激を得ることができますし、映画を見ている感覚なのです。日本の人たちからは礼儀正しく、真面目に自分の仕事に向き合っていますね。私はフランス人でフランスもパリも大好きですが、いつも文句ばっかり言っているんですよ(笑)。
──実際に完成したショップを目にして、出来映えはいかがですか?
とても気に入っています。建築家の小野寺匠吾さんとはコロナ禍でしたから直接会って話し合うことは叶いませんでしたが、オンラインでの対話を重ねてスムーズに進めることができました。もちろん挑戦的なことでしたが、難しくはありませんでした。なぜなら逆にしっかりと集中して対話を重ねることができたからです。私にとってクリエイションに大切なことはカンバセーション。同じ部屋にいなくても一緒にものをつくり上げることはできるのです。ファッションも同じですが、僕は直感や感情で物事を決めるタイプなので、決断も早いのです。YESかNOか。または「それについてはもう一度待って考えましょう」という感じで、いつもできるだけ明快な回答を出せるようにしていました。
──理想的な仕事相手ですね(笑)。具体的にはどんなリクエストを?
洋服作りと一緒で、最初に素材やディテールについては細かく話をしないんです。まずは気持ちや感情について共有することを大切しました。小野寺さんに最初に伝えたのは、僕がお客様にお店で体感してもらいたい世界観についてです。温かい照明、優しい壁色で、フレンドリーな空間でありつつフレッシュな雰囲気があることをリクエストしました。
たまにファッションストアでは、強い照明があり、緊張感のある空間であることがあり、個人的にも客として訪れるときにはあまり心地よさを感じられないことがあります。僕が好むのは、居心地の良い空間で洋服を楽しむことができるお店。例えばラックといえば直線的なものが扱われることが多いですが、パトゥのお店では曲線的なものを採用しています。パトゥのコレクション規模は大きくありませんが、組み合わせによって多様のコーディネートを楽しむことができるので、お客様がアイテムを選びやすいよう回遊のしやすさにも気を配っています。
──什器などもサステナブルな素材を使われているのだとか?
そうなんです。とても重視した点でした。このお店を魅力的な場所するために、環境に配慮したいと思ったのです。できるだけオーガニックなものと再生素材を使用しながらも質素にはならずに、洗練された雰囲気に。そのうえでお店に入った瞬間に目に留まるのは、パトゥの洋服であることをを目指しました。
──パトゥは服づくりでも環境に配慮されていると聞いています。
ファッションは欲求と創造性が大切な要素だと思っています。でも今は環境問題を切り離してファッションを考えることはできません。パトゥはできるだけ自然に取り入れたいと思っています。政治的に取り組んでいるわけではないのです。
普段パトゥの服を着ている方々も、パトゥがこれほどサステナブルな洋服であることに実は気がついていないと思います。それでいいのです。気がついたら環境にいい服を着ていたという嬉しいサプライズであってほしいのです。服にはQRコードがついていて、読み込むと素材や商品がどのようにつくられたのかを知ることができます。でも、僕たちはそれを大きな声で知らしめようとはしていません。それはお客様の選択肢の一つであり、全員に強制的にお伝えすることではないのです。フレンドリーで正直であることが大切だと思っています。
ファッションは感情的なものだと思っています。人はいいたいことをいえますが、洋服は言葉を話ことはできません。人の心に寄り添ったものづくりがより重要だと思うのです。現在は商業的にサステナビリティを謳うブランドもありますが、数年後には当たり前になっているのではないでしょうか。僕たちはベストではなく、ベターを目指しています。
──パリは法律の改定もあり、サステナブルへの意識が高まっているようですが……。
フランスではとてもサステナビリティに配慮している人もいれば、まったく気にかけていない人もいます。ファッション好きな人はおしゃれであることに興味があるので、環境問題と直接紐付けながら動くことができないことも多いですよね。4 年前にパトゥのアーティスティック・ディレクターに指名されたときに、すでに世の中にはたくさんのブランドが溢れていました。そこで目指すべき目標や哲学を考えていたときに、最初から「lessbut better(少なく、しかしより良く)」ということを大切にしてきたのです。私は医者ではないので、人命を助けることはできない。服を作ることしかできないのです。でも続けるならポジティブな視点を持って行動することで、自分のやっていることに誇りを持てると思いました。
──プライベートでは環境への配慮をどのように実践していますか?
私も人間なので間違ったこともしていますよ。間違えながらもファッションは時間やエネルギーを使うので、その時間をよりよく過ごせるようには考えています。ものを購入するときには、長持ちするものを選ぶようにしています。特にファッションアイテムは、長くずっと着たいものを。ゴミもできるだけ出さないようにしたり。例えば100ユーロで10アイテムを買うよりも上質なものを1アイテム選ぶなど、より良いものに投資することを母から教わりました。とてもいいアドバイスだと思います。
──2023年春夏コレクションでは“ミューズ”にフォーカスしていました。あなたにとって最愛のミューズは?
僕にはたくさんのミューズがいます。これまで僕の服を着てくださった方や、これから着て欲しいと思っている方、友人だったり、憧れの人だったり。共通するのは、皆フレンドリーでやさしい雰囲気のある人たち。ファッション好きだけれど熱狂的なファッション好きではなくて、人のためではなく自分のために着飾っている人たちであること。年齢も体型も関係ありません。
──おすすめのアイテムは?
パトゥはワードローブという考えを持っていて、さまざまなアイテムを組み合わせて楽しんでもらいたいと思っています。代表的なアイテムをいくつかご紹介しますね。
リサイクルポリエステルを使ったブラウスは、ボリュームがあり、首元でリボンをしめてもいいですし、オフショルダーのように肩に降ろしてきることもできます。着方を気分によって変えることができ、遊び心もあります。
ぜひアイコンバッグの「ル パトゥ」も紹介させてください! 当初きのこやぶどうからつくられるヴィーガンレザーも検討したのですが、クオリティがまだ安定していませんでした。そこで新しい素材を発注するのではなく、倉庫に眠っていたスリーピングレザー(休眠在庫のレザー)を用いて、つくれるだけの数を生産することにしました。1点1点にシリアルナンバーをつけてね。肩がけも、斜めがけにもできます。フラップのフォルムは創業者のジャン・パトゥのイニシャル「JP」をかたどっているんですよ。
──最後にNumero.jpの読者にメッセージを!
あなた自身であることを楽しみ、そして着る洋服を楽しんでください!
Patou
IZAカスタマーサービス
TEL/0120-135-015
Photos:Takahiro Idenoshita Edit & Text:Hiroko Koizumi