「ピンクの後光差すスターたち」文・犬山紙子
ピンクの名前を背負った著名人たちを挙げてみると、個性豊かでエネルギッシュに活動している人ばかり。彼らはなぜピンクを選んだのか、そこから見える共通点とは。エッセイストの犬山紙子が時代の流れとともに考察する。(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2022年9月号掲載)
ピンクの後光差すスターたち
文・犬山紙子
バブリーなピンクのボディコン、ふわふわにカールされたゴージャスな髪、一度聞いたら忘れられない高い声、優しい笑顔。「ピンクの電話」を子どもの頃テレビで見て「都会のお姉さん、お気楽で楽しそうだな」という浮かれたイメージを持っていた。しかし大人になってからコントを見ると、その完成度の高さに驚かされた。演技がうまい。計算された間も最高だった。コント開始1秒で観覧者も当時の女の子たちの会話に混ざるような錯覚に陥るのだ。ゾーンを生むすごい芸。そして二人が劇団出身と聞いて納得させられた。それ以来ピンクの電話を思うとき「(誇り高き)ピンクの電話」だと思うように。
ピンクはただの色ではない。時に生命力を示し、時にラブリーで、時に強烈な個性で、時にジェンダーで縛る呪いとなる色だ。私は思春期にピンクを纏うのが怖かった。そこに付属する「女の子らしい」イメージと「バカにする人がいる」という事実が怖かったのだ。堂々とピンクを着られるようになったのは30代になってからだ。
そんなピンクを背負うスターたちは「ピンク」が持つ意味に向き合わざるを得ない。その言葉を背負うとき、男性社会の中でピンクが持ってしまうネガティブなイメージをはね返すパワーとプロフェッショナルであることがより求められてしまうはずだ。
「BLACKPINK」はかなり自覚的にピンクを背負っている。女性的だとされるピンクに打ち消す意味の黒を重ね、フェミニズムを踏まえた上で、男受けでも女受けでもない、自分受けを卓越した表現力で魅せつける。常に誇り高い表情からはエンパワーメントされる。
ももいろクローバーZのパフォーマンスの完成度は言わずもがな。アーティスト「BONNIE PINK」はピンクに「保守的ではない」というイメージを乗せ、芯のある女性像を歌い上げる。元アイドルの「ももち」こと嗣永桃子さんは、ピンクの持つ「かわいい」を最大限強化し、かわいいのプロフェッショナルであった。
異色なのが「BULLET PINK」だ。男性アイドルグループ超特急が女装し、一昔前の女性K-POPアイドルのような楽曲で踊る。こういった取り組みは少しでも「女性をなめてる」と感じさせると失敗するものだが、キレッキレに踊り、やり切る姿がそこにはあり、好感を抱いた。
ピンクを背負ったスターが堂々としていればしているほど、ピンクの持つ呪いは溶けてゆく。呪いが解けたら、「私はピンクが好き」だけがシンプルに残る。それはすごく素敵なことだ。
Illustrations:Kaoll Edit:Saki Shibata