もっとヘヴィーに、正直に! ロック界のニューアイコン、ペール・ウェーブスのヘザーにインタビュー by Natsuki Kato
インディーロックバンド、ルビー・スパークスのブレーンとしてはもちろん、音楽への愛と知識に溢れた“音楽オタク”としても知られるNatsuki Katoが、気になるアーティストに独自の視点で取材し、自らの言葉で綴る不定期連載がスタート! 第1回はペール・ウェーブスのボーカル、ヘザー・バロン・グレイシーにインタビュー。
ペール・ウェーヴスのサードアルバム『アンウォンテッド(Unwanted)』は、溢れんばかりのディストーション・ギター(ひずみを効かせたギター)で暗雲立ち込める2022年の現代社会を突き破るストレートなロックンロール・アルバムだ。ポップ・パンク・リバイバルの訪れを確実なものにするハイファイなミキシングと、フロントマン、ヘザー・バロン・グレイシーのアイデンティティから成るフラストレーションの爆発が混じり合い、僕ら世代の新たなセーフスペースがここに誕生した。今回はヘザーにこの作品のバックボーンや彼女が今考えていることなどを、同世代のミュージシャンとして僕自身の共感を交えながら尋ねた。
“本当の自分をさらけ出すことができるようになった”
──前作からわずか1年半でのサードアルバムのリリースとなりますが、『Who am I?』と自問しながら自身のルーツに回帰したセカンドアルバムとのテーマやコンセプトの違いや変化を教えてください。
「セカンドアルバムでは恋に落ちる自分についての旅路=ジャーニーを、1990〜2000年代のムードから影響を受けた音楽性で表現していた。でも今回のサードアルバムでは、ペール・ウェーヴスとしては初めて触れるようなジェラシー、怒りといった何年も自分の内側に抱えていたフラストレーションを外に向けてリリースすることが主なコンセプト。そういった意味では今作は前作とは正反対のことをやろうとしたんだ」
──2018年のファーストアルバム『マイ・マインド・メイクス・ノイジーズ』の歌詞にはロマンチックな恋に盲目的な少女像を感じていましたが、今作では自分を苦しめる相手を振り払う力強い面と、同時にそれでも愛を諦められない人間の弱さが共存しているようでした。この4年間で歌詞に対しての向き合い方にどのような変化がありましたか?
「ファーストアルバムの時はまだリリシストとしての自信も付いてなくて、作家としての自分をひたすら模索している時期だった。自分の感情をどれくらい外に吐き出して良いのかまだ分からなくて、愛について表現しながらもロマンスやメタファーを用いることで自分自身をその背後に隠している部分があったと思う。でも成長を経たことで今作では自分を完全に受け入れていて、本当の自分をすべてさらけ出すことができるようになったんだよね」
──嫉妬や怒りは愛に関すること?それとももっと大きな社会的なこと?
「当然、それは愛よりももっと大きなことについて言っているよ。ジェラシーなんかはもちろん愛の上での関係についてだけど、怒りは人間関係や音楽業界に対してだったり、虐められている人たちの持つフラストレーションだったり。何か明確な一つのトピックに対してのものではなくて、いろんな出来事に対する全体的な怒りを歌ってる」
“みんながなりたい自分になるべき”
──僕も1996年生まれでヘザー(1995年生まれ)とほぼ同い年で、感覚としてはZ世代ともミレニアル世代とも言えない絶妙な年齢だと思います。僕自身も好きな服を着たり(例えばレディースの服やスカートを着ること、ネイルやメイクをすること)、男らしくなくてもいいんだと親からは育ててもらいながらも、子ども時代の学校や社会ではまだまだ制限してくるものがたくさんありました。子ども時代と比べてジェンダーに関するここ数年での社会的なポジティブな変化について、ヘザー自身どう感じていますか?
「ジェンダーフリーの考えは日々前進していて、性別の壁やルールはどんどん壊せていると思う。スカートを履くのもクールだね。確かに昔は『男の子は泣いちゃいけない』、『女の子は男の子とフットボールで遊んじゃいけない』みたいな古臭い固定概念があった。でも私はフットボールをするのも大好きだったし、スケートボード片手にビッグシルエットのバギージーンズを履いてるようなやんちゃな子どもだったから、いわゆる典型的な女の子らしい女の子だったことは一度もないんだよね。そんな誰にとっても有毒な伝統や基準がなくなろうとしている現状はとても嬉しいことだよ。みんな自分のしたいことをすべきだし、なりたい自分になるべきだし、それは他人がとやかく言うことじゃない。あなたがハッピーだったらそれでいいの、それを誰かが邪魔できるわけないよ」
──ヘザーはライブでよくレインボーフラッグを掲げていますが、LGBTQIコミュニティの代弁者としてもあなたの音楽を通して人々に伝えていきたいことはありますか?
「自分に自信を持つこと、あるいは自己愛の大切さ。この世界の現代社会には、自分らしくいるべきじゃないと思わせてくるたくさんの要因があると思う。でもそういった声は取り払って、とにかくバンドとして尽力しているのはありのままのみんなを受け入れてあげること。シャイにならないで、自信を持って、自分自身を誇りに思ってほしいと伝えたいな」
よりハードに斬新に進化したサウンドに込めた思い
──僕のバンド、ルビー・スパークスではインスピレーションの源としてペース・ウェーヴスからも多大な影響を受けてきました。ペール・ウェーヴスがファーストアルバムでの80年代のシンセポップなサウンドから今作ではより明瞭なサウンドのポップパンクやギターロックに変化したように、僕たちもリファレンスが80年代ドリームポップから2000年代以降のエモやオルタナティブ・ロックへ自然とシフトチェンジしていきました。昨今のY2Kブームに代表されるように2000年代のポップ・パンクが現代のモードにマッチしたのはどんな理由があると思いますか?
「基本的にすべての物事や流行は繰り返されると思う。今はちょうどポップ・パンクやその周辺の年代が戻ってきてるよね。そういった音楽の流行は人々の気分とつながっていて、みんなの憧れが反映されてる。きっとポップ・パンクのような音楽が持つ『正直さ』こそ、今の若い子たちが本当に求めていて、知りたがっていることなんだと思う。だからこそこういったスタイルが今広がっているんじゃないかな」
──そういった音楽の成分を組み込もうと思ったきっかけは?
「とても自然なプロセスだったよ。パンデミックによってすごく長い間じっとしていたから、次にステージへ戻る時は最高に楽しいことをしようと思ってたんだ。私にとって『楽しいこと=もっとヘヴィーな音楽』だったし、バンドとしても軽い音やソフトな曲はもう書きたくなくて、よりハードで斬新なサウンドを加えたかった。だから音楽性の変化は自然な過程だったけど、同時に変わりたいというすごく意図的な決断でもあった。その決意こそが今回のサードアルバム誕生のきっかけだよ」
──パンデミックの真っ只中に製作された前作には歌詞やコード感にも内向さが感じられたのに対して、今作にはより外向きな力強さを感じます。この1年半での製作を取り巻く環境の変化はサウンドにどのような影響をもたらしましたか?
「制作環境の面では今作のプロデューサー、ザック・セルヴィーニが与えてくれたインスピレーションや影響は特に大きかった。今では大切な友人の一人でもある彼が元から持っている弾けるような音作りやプロデュース技術と、バンドのソングライティングによる組み合わせによって今作の最終的な音が仕上がったと思う。ザックなしでは絶対にこのサウンドは作り出せなかったね」
“ゴス”ファッションの参照源
──今回はアートワーク、写真、ミュージックビデオまでモノトーンで統一されていますが、そこにはどんなストーリーがありますか?
「このレコードを作っていたときに、カラフルではなく白黒の美しさが最初からしっくりきていて。アートワークの色付きのバージョンも見てないし、元からカラフルなバンドってわけではないけど、今まで以上にロックンロールでラウドなサウンドだから自ずとモノトーンの世界観が馴染んだんだ」
──ルビー・スパークスのボーカリストであるエリカも常にゴスなメイクやファッションに身を包んでいて、1999年生まれの彼女にとってのゴスはもうザ・キュアーやバウハウスではなくマイ・ケミカル・ロマンスや映画『The Crow』の世界観だそう。80〜90年代をリアルタイムで経験していない今のあなたにとってのリアルな『ゴス』とは?
「これはめちゃくちゃ難しい質問だね(笑)。私にとってゴスと言われてまず思いつくのは比較的トラディショナルなゴスかな。自分自身をゴスだとは思ってなくて、インスピレーションとしてその美学を吸収しているんだけど、自分にとってのトラディショナルなゴスは例えばスリップノットとか。これもすでにちょっと古い考えかも(笑)。マイ・ケミカル・ロマンスにももちろん賛成、彼らも確実にゴスの世界観をインスピレーションとして持っているよね。でもやっぱり一番は顔を真っ白に塗って、エクストリームなメイクアップを施して、顔中ピアスだらけ、みたいな古典的な形容がゴスらしいと思うな。眉も剃ったりまでは自分がするにはちょっとゴス過ぎるけど(笑)、好きなのはそういったヴィジュアル」
──ファーストアルバムの頃から軸となるスタイルはありつつも、作品ごとにファッションも変動しているように感じます。今作に合わせたヘザーのファッションやメイクにはどんな変化がありますか?
「まさしく自分の中の美学は常に少しずつ変化してる。やっぱり年齢を重ねるにつれて大人っぽい服を着たいと思うようになったし、ファーストアルバムの時はまだ迷いもあって自分を隠そうとしたりしていたけど、今は以前より自分に自信が持てたことでコルセットやスカートといったアイテムも着れるようになった。自分の好きな服がより明確になったから、そういった服に身を包むことが心地いいんだよね。ファッションはこのバンドにとって一つの重要な表現方法でもあるから、その境界線をさらに押し広げようとまだまだ探求してる。今作におけるヴィジュアルで言うと、黒髪からブロンドに変えたこと、グラム・ロックっぽいニーハイのブーツや、細めの眉毛などが大きな変化でありポイントかな。同時に90〜00年代からの影響も大いに受けてるよ」
──これからペール・ウェーヴスとして成し遂げたい野望はありますか?
「ペール・ウェーヴスはとても野心的なバンドなんだけど、今全員で目指しているのはもっと大勢のオーディエンスの前で演奏するようなアリーナ級のバンドになることだね」
Interview & Text:Natsuki Kato Edit:Mariko Kimbara