NYのアートと食のプロジェクトスペース THE GALLERYにて大山エンリコイサムが個展「Rock Show, Sick I Go」を開催
東京とニューヨーク、2都市に拠点を構えて制作を続ける美術家の大山エンリコイサム。2020年初頭から世界に蔓延するパンデミック下においてはニューヨークでの制作が叶わなかったが、この夏、約2年ぶりにマンハッタンにあるアートと食のプロジェクトスペースTHE GALLERY(ザ・ギャラリー)にてサイトスペシフィックな新作を公開し、話題になっている。展覧会「Rock Show, Sick I Go」開催にあたり、展示作品について本人に解説してもらった。
──大山さんはこれまでコム デ ギャルソン(2012年春夏コレクション)やシュウウエムラ(2015年)、最近では横綱照ノ富士の化粧まわしなど、ユニークなコラボレーションワークを手掛けられてきました。今回はミシュランシェフ大堂浩樹さんによるアートスペースでの開催となりましたが、内容について教えていただけますか?
「私のアートには多様な領域を横断していく性質があります。今回はコロナ禍のニューヨークに登場した『アウトドアダイニング(車道に設置された屋外飲食スペース)』に注目し、レストランでの飲食体験がインドアからアウトドアに越境していることを踏まえ、まずはTHE GALLERYに設置されたアウトドアダイニングのテントに自分のシグニチャーであるQuick Turn Structure (QTS)を使った壁面作品《FFIGURATI #404》を制作しました。
さらに、今回の展覧会の象徴とも言えるもうひとつの壁面作品が《FFIGURATI #400》ですが、そのQTSは、街角の壁などに連続して貼られる商業用ポスター「ワイルドポスティング」と同じ手法で制作されたポスターにも登場します。印刷された200枚のうち、約50枚をソーホーなど実際のストリートに貼り、約50枚をTHE GALLERYでインスタレーションとして展示しました。そして残りの100枚にはハンドペインティングを施し、部数限定のポスターアートとして販売する試みを行なっています」
「本展の特徴は、インドアとアウトドア、つまり空間を横断して展開されることですが、ポスター作品に関しては、アートとコマースの垣根を横断してもいます。200枚のポスターは業者から納品された段階ではまったく同じ素材ですが、街角に貼られると商業広告になり、ギャラリーに持ち込まれると展覧会の構成要素になり、ハンドペインティングが施されると展示物=アート作品としての意味を帯びてくる。『Rock Show, Sick I Go』という展示を契機に、作品は多様なコンテクストを横断し、価値の形態を変化させますが、逆に言えばそれは、ポスターが蝶番となり、異なる空間が隣接されることでもあります。例えばそれが購入された方の家に置かれたとき、その空間と『Rock Show, Sick I Go』という展覧会の空間がリンクされるという状況を作り出すのです」
──今回はほか、既存のプリントや絵画などにQTSが加筆された「Found Object」のシリーズも展示されていますね。
「このシリーズは、ニューヨークに住み始めて間もない2013年頃、フリーマーケットやスリフトストアで手にした古い手紙や写真、プリントへの関心から始まりました。もとのヴィジュアルの画面構成にQTSが入り込むことで、新たなリズムを引き出せるか、そうしたことを考えながら素材を選びます。ほとんどの素材は、雑誌の切り抜きやポストカードを額装した日常の他愛もないものですが、そこにQTSが加わることで、オブジェクトの生がアクティベート(再活性化)される、そうしたシリーズです」
<左>Enrico Isamu Oyama, FFIGURATI #337, 2021, Screenprint on paper, (H)8.86 × (W)11.26 inches, Ed. 35 <右>Enrico Isamu Oyama, FFIGURATI #338, 2021, Mezzotint on paper, (H)9.33 × (W)11.73 inches, Ed. 35
──ひとつのQTSを2種類の技法で刷った版画作品については?
「草間彌生さんなど日本を代表するアーティストのシルクスクリーン作品を手掛けてきた岡部版画工房という工房が神奈川にあるのですが、そこを現在引き継いでいる版画技師の牧嶋成仁さんを紹介されたことから始まった作品です。シルクスクリーンは20世紀に登場し、アンディ・ウォーホルなど過去多くのアーティストが取り入れてきましたが、近年ではストリート系の作家にも馴染みのある技法です。私としてはもう一歩、踏み込みたい気持ちもありました。自分にはイタリアのルーツもあるので、17世紀にヨーロッパで発祥したメゾチントという銅版画に関心を抱き、銅版画家の佐竹広弥さんにご協力いただけることになったので、ひとつのドローイングをシルクとメゾチントという異なるふたつの技法で刷ることにしました。まるで鉛筆の濃淡のような繊細な線もよく表現できるのがメゾチントの特徴で、シルクとは違った味わいのある作品に仕上がりました。20世紀のシルクスクリーンと17世紀のメゾチント、QTSが異なるメディアと時空を横断する連作です」
大山エンリコイサム「Rock Show, Sick I Go」
会期/2022年7月15日(金)〜9月17日(土)
会場/THE GALLERY
住所/17 W 20th Street, New York, NY10011
時間/11:00~21:00 (ランチ11:45~14:30、ディナー17:30~22:30)
休日/日曜
URL/https://www.odogallery.nyc
Instagram/the.gallery.nyc
Text : Akiko Ichikawa
Profile
http://www.enricoisamuoyama.net