2022年は“自分自身が心底楽しむ”が開運の鍵。人生を謳歌する米原康正さんの“楽しい”極意を詰め込みました。
2022年1月28日(金)発売の『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2022年3月号に寄せて。編集長・田中杏子からのエディターズレター。
イタリア帰りの私が地元・大阪より上京して間もなく知り合ったのが、当時フリーの編集者だった米原康正さん(以降:米ちゃん)。クリエイターの中では群を抜いて「一風変わった視点を深掘りする編集者」というのが私が抱いている米ちゃんの印象でした。とにかくマイナー路線まっしぐらで、深掘りした先の共通言語を見いだせない限り、彼の意図することが理解できずこちらは必死になるばかり。すべてにフェイクは存在せず、誠心誠意向き合えば共通言語が見つかるものの、適当に返答しようものならツッコミが半端なく、そこもまた米原哲学が本物であり他に類を見ない面白さなのだと思います。
かと思えば巷の女の子たちと仲良く戯れ、ギャル文化をポップに理解し、女子のみならず社会に馴染めない若者やオタクからも「米ちゃん!」と慕われ、彼らの生態に精通し、どのジャンルにも“取説”を持っているような人でした。『egg』や『smart girls』といった画期的な雑誌の編集を手がけ、『新感覚ガールズ・マガジンwarp LOVERS』や『投稿雑誌 アウフォト(OUT OF PHOTOGRAPHERS)』を発刊し、『SMスナイパー』でも連載を持つなど本気のエロ文化を提唱し続け、アンバランスさでバランスを形成しているような人でした(今もだけど)。20代後半の頃に私は、遊び仲間と一緒にクラブ・スケジュールを掲載するタブロイド版クラブマガジン『SPEAK』(今でいうZINE)を月一回発行していました。そこでもエロゲリラ日記と題した米ちゃんの連載「東京大快楽宣言」を載せていたのですが、テーマは常に「日々喪失しつつある現実感を再び獲得するための活動」に集約されていました。米ちゃん哲学ですね。ちなみに小誌の創刊(いや創刊準備号!)から2015年83号まで続いた「米原康正のポップな東京文化人類学」にて、私たちが作り出すモードな世界観にポップで楽しいリアルな東京カルチャーの視点を盛り込んでくれたことは言うまでもなく、その礎は現在にもつながっています。
1994年から97年頃まで刊行していたTOKYO UNDERGROUND PUBLICREVUE『SPEAK』。「東京大快楽宣言」連載ではエロゲリラというリアリズム運動体として活動していた米ちゃん。作る側も参加する側も無償のメディアでしたが、思いっきり楽しんでいました。強いて言えばクラブで飲むビール代(ただ酒)ぐらいにはなっていたでしょうかw。拝。
02年頃にはフリーの編集者からチェキ写真を撮るチェキフォトグラファーにもなり、チェキやコンデジやスマホで作品を仕上げるといった「側ではなくリアルな中身で勝負」を体現した草分けでした。米ちゃんのチェキ作品は高値で売買され、チェキ写真集『TOKYO AMOUR』を刊行したり、結果、撮りたいもの、訴えたいことがある人が社会をうならせることができるという至ってわかりやすい方程式を世に知らしめた人でもありました。昨今では、写真にアクリル絵の具でコラージュを施した作品も生み出し、編集者でチェキフォトグラファーでDJでクリエイティブディレクターでアーティストという多くの肩書きで、常に神出鬼没な米原康正に昇華しています。ちなみに中国のSNS Weiboでは、文化人で2番目にフォロワーが多く(22年1月10日現在280.2万人)、中国本土に降り立った際には両サイドにSPが張り付き、超VIP待遇の滞在となるそうです。リアルを追求する米ちゃんラバーが世界中に増加しても、原宿を歩けばいつもの米ちゃん。四方八方から声がかかり、頭にちょこんとキャップをのせて屈託のない笑顔で手を振り返す。いつ何時も変わらない米ちゃんにこそ、私たちは絶大なる信頼を置くのでしょうね。
さて、コロナ禍で先行きが見えないまま2年が経過しました。米ちゃんとリモートでトークライブをした際「来年の動向をどう見ているか」の私の質問に、雪崩のような返答が押し寄せました。そのすべてが面白く、今っぽい。だったら2022年3月号は米ちゃんを特別ゲストエディターに迎え、気になるものを列挙してもらっちゃおう!そんなこんなの一冊です。米ちゃんワールドへ、ぜひ!!
Numéro TOKYO編集長 田中杏子
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