【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.12 ヴァージル・アブローの逝去
Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。
vol.12 ヴァージル・アブローの逝去
ヴァージル・アブローが11月28日に亡くなりました。
ヴァージル・アブロー氏が死去、41歳 ルイ・ヴィトンやオフホワイト手がける
https://www.cnn.co.jp/style/fashion/35180091.html
僕は1981年生まれで、80年生まれのヴァージルとはほぼ同世代なのですが、早朝目が覚めたら何人かの知人からこのニュースのメッセージが入っていて、しばし現実なのか夢の話なのかうまく理解できないまま目覚めました。
オフホワイトのデビュー前後あたりからヴァージルの存在は知りつつも、洋服には正直あまり興味を唆られずそこまで強い関心を持っていなかったのですが、2017年に発表されたナイキとのコラボレーションの“TEN”のシリーズを見て、僕の意識は大きく変わりました。10モデルのうち5足は購入して、今も手元にありますが、エア・ジョーダンからブレーザーといったナイキの名作をリミックスしたようなアレンジのそのシリーズの鮮烈な印象に度肝を抜かれたのです。ああ、なんてセンスのいい人なのだろうか、と。
90年代の原宿のセンスに魅了された感覚が蘇ってきた感じがしたというか、最新のテクノロジーを纏ったようなかたちでモダンにアップデートされたそういったピントがグローバルに発信されていく様に、時代が変わっていく潮目を感じました。実際、ファッションのシーンにストリートの要素が次々と取り込まれるスピードはそこから最高速へと加速し、そして多ジャンルを跨いだ世界観の掲示が当たり前のことになっていき、大きく変化しました。
ヴァージルの前にルイ・ヴィトンのデザイナーを務め、今はディオールとフェンディを手掛けるキム・ジョーンズ、バレンシアガのデムナ・ヴァザリアあたりの面々もストリートのエッセンスをモードに持ち込んだデザイナーだと言えますが、やはりベースはファッションデザイナーであるという認識が個人的には強く、対してヴァージル・アブローに対しての印象はクリエイティブ・ディレクターであり編集者的なもので、2018年初頭にその彼がルイ・ヴィトンのメンズのアーティスティック・ディレクターに就任すると聞いたときには、これはすべてがひっくり返ったということなんだな、と衝撃を受けたことを今でもよく覚えています。センスのプロフェッショナルが、グローバルでトップのラグジュアリーブランドのトップに立った瞬間でした。
そしてそこからはルイ・ヴィトンやナイキの仕事はもちろんのこと、ぱっと思い出せるだけでもイケア、ヴィトラ、エビアン、パイオニア、メルセデス・ベンツといったメーカーとの協業や、村上隆、トム・サックスといったアーティストのコラボレーションなど、疾風怒濤の勢いで時代を作り上げていったのは、皆の知る所です。
2019年に癌の告知を受けていたとのこと、多少のドクターストップはあったとはいえ、そんな苦難の下でもそういった弱みを露ほども見せずに勢いを緩めることなく仕事を続け、自分の人生を生きたそのスタイルには、とにもかくにも敬意を示す以外にはもはや何もできません。
この連載の第四回で書いたLVMHへとオフホワイトを“売却”した背景には病気のこともあったのかもしれません。やはりまだまだやりたいことがあったのだろうとも思うと、同世代としては余計にやりきれなさが募るのと、ヴァージルの仕事をもっと見たかったなとも悔しくて悲しい気持ちが胸に溢れます。
12月1日にマイアミで開催されたルイ・ヴィトンのショーの前には“FOREVER”の大きなタグが会場に掲げられ、ヴァージルの像が設置されました。空にドローンで“VIRGIL WAS HERE”と描かれたのを見て、本当に亡くなってしまったんだなとじんわりとした気持ちになりました。
人生は短いです。アレキサンダー・マックイーンが自ら命を絶ったのもほぼ同じくらいの年齢の41歳の直前でしたが、ヴァージルの逝去に僅かの救いがあるとすれば、彼が、これでもかというくらいに日々をフルスロットルで生ききったところに、かもしれません。僕も毎日を大事に生きていこうと思います。
Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue