【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.6 フジロック無料配信の心意気
Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。
今回は、先月末に開催された『FUJI ROCK FESTIVAL ’21』(以下フジロック)が無料で配信をしていたことについて書きます。
vol.6 フジロック無料配信の心意気
「フジロック」YouTubeで70組以上のライブ映像配信
https://natalie.mu/music/news/441027
毎年7月末に開催されるフジロックだが、昨年は新型コロナの影響で中止、今年は東京オリンピックと重ならならないように(去年の当初のスケジュールと同様)8月後半の開催と相成りました。
開催に対する反対意見も多分にあり、それらも一定以上理解できるものでした。ただ去年も中止になっていて、フジロックという苗場の山の中での特殊な環境のフェスが2年連続中止になると、それはそれでその文化そのもの及び周辺領域の会社の死に直結する問題である気もして、主催者は主催者で演者のみなさんを含めて生きる術としての開催決行だったところもまた感じるところでありました。
国や行政の定めるルールに基づき地元の許可も得ての開催という前提の上で、自分はワクチンの接種も終わっていたこともあり、また10代の頃から毎年来ている思い入れのあるフェスだということもあって、特に医療従事者の方々には後ろめたい思いもありながらも、結局参加することにしました。
冒頭のリンクのニュースの通り、今年は相当数のライブがYouTubeで無料配信されて、自宅でフジロックを愉しんだという人も数多くいたと思います。配信自体は2018年に開始されていて、3回目の取り組みとなるが今回の規模が一番大きかった印象です。
昨年の中止もあり懐事情的にはおそらく苦しい状況ながらも、太っ腹に例年通り無料で配信したのは主催者側の心意気の部分も多分にあったのだろうなと思いつつ、来年以降、現地でフェスティバルを体験してみたいと例年以上に多くの視聴者に思わせた部分もあったのではないでしょうか。
正確な視聴者数のレポートは観られないながら、2日目のGREEN STAGE(一番大きいステージ)のトリであったKing Gnuの視聴者数が数十万人だったことから考えると、3日間ユニークでの視聴者数は軽く三桁万人に届いているはずで、仮にこのうちの5000人が来年のフェスに来場して(今年は3日券が49000円だったが概算ということで)5万円のチケットを買ってくれたとするとそれだけで2.5億円の増収になります。僕も天候が悪い間はホテルで配信をみたりもしていたのですが、やっぱり現地で観たほうが俄然ワクワクするし、映像からもそれは十分に伝わっていたように感じました。
配信に置き換えて、仮に1万人が1万円、いや1万円は高くて払わないかもとすると、10万人が1000円を払ってくれたとしても収入の合計が1億円にしかならない上に、さらに有料配信にした場合、収益の分配はどうなるのですかといった出演アーティストとの交渉が発生しそうなこともあったりで、無料で配信して来年の入場者数を増やすためのプロモーションと割り切ってしまった方が俄然手っ取り早くて結果的に効果的なのでは、と頭に浮かびました。
ちなみに9月頭に長野県松本市で開催予定だったセイジ・オザワ 松本フェスティバルは残念ながら公演自体は直前に一旦中止になってしまったものの、メインのコンサートは無観客で実施し配信を無料で、しかもなんと2回も行うことになりました。
チケットが完売だった公演が無料で配信されるというのも異例な話ですが、こちらは来年以降のプロモーションというより、世界中から松本に集まっていた一流の奏者たちが音楽のちからに導かれてもう止まれなかったのかもしれないな、と感じているところです。ビジネス的な目論見を超越し、なんとかコンサートを開催する術を求めて気合で配信だけでもやろうということになった様相、その気持ちの篭もった演奏がどのようなものになるのか、シャルル・デュトワの指揮するサイトウ・キネン・オーケストラのストラヴィンスキーの『火の鳥』をご興味ある読者のみなさまにはぜひ聴いてみていただきたいです。
Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue