90年代の空気を漂わせるZ世代のシンガー・ソングライター、ビーバドゥービーの新譜 | Numero TOKYO
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90年代の空気を漂わせるZ世代のシンガー・ソングライター、ビーバドゥービーの新譜

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、beabadoobee(ビーバドゥービー)のEP「Our Extended Play」をレビュー。

90年代の空気が漂う、懐かしくも新しいZ世代のシンガー・ソングライター

90年代なんて比較的最近だと思っていたのだが、もう実に30年前だというのだから時の流れは恐ろしい。かくいう筆者はミレニアル世代なので、そうは言ってもその当時は物心つくかつかないか、という時期ではあるのだが、2000年前後以降に生まれたいわゆるZ世代ともなると、さらに当時のことを覚えている人はほとんどいないだろう。beabadoobeeこと、ロンドン育ちのシンガーソングライターであるベア・クリスティも、2000年生まれのZ世代のアーティスト。けれど、彼女の出す音はなぜか90年代の空気が漂うのが興味深いところだ。

フィリピン生まれでロンドン育ちの彼女。昨年にはデビューアルバム『Fake It Flowers』をUKのレーベル《Dirty Hit》からリリース。《Dirty Hit》といえば、The 1975が所属することで有名なのだが、実は彼女、The 1975のフロントマン、マシュー・ヒーリーをメンターとして慕い、ソングライティングなどについて教えを受けることもあるのだそうだ。国内外を見渡してもソロ・アーティストがチャートを席巻し、バンドというアーティストの形態がすでに少々古いものとして捉えられてしまう昨今にあっても、その影響力を保ち続けているのがThe 1975というバンドなのだが、昨年のアルバム『Notes On A Conditional Form』ではむしろ自身らの”ひと昔前の懐かしさ”を逆手に取り、パンクやガレージ・バンドを彷彿とさせるパフォーマンスやサウンドを盛り込みながらマシュー自身の(現代のロック・ヒーローとしてではなく)ひとりの人間としての素直な想いを歌っていたことも記憶に新しい。

beabadoobeeは、彼らの音楽へ向かう姿勢からサウンドメイクまでもを自身の作風に反映させているようで、20代前半の若者としての率直な言葉を、The 1975ともよく似たミドルの音域の詰まった爆発力のあるバンド・サウンドにのせる音楽性を持ち味としている。今作『Our Extended Play』は、昨年のアルバムに続く彼女の新しいEP。サウンドや音楽性は概ね前作と同じ路線で、2曲目「Cologne」で切れ味の鋭いサウンドと挑発的なメロディを聴かせている。ただ、アルバムではニルヴァーナなんかを思わせるグランジ風の楽曲が印象的だったのに対し、今作にはどちらかといえばより甘くポップなナンバーも耳をひく。4曲目「He Gets Me So High」はまるでアヴリル・ラヴィーンのようなパンク風味のストレートなポップ・チューン。“ヒステリック・グラマー”が好きと語り、ジャケットのアートワークも、ファッションや色づかい、字体に至るまで90年代風で(当時の原宿にビルボードが出ていても不思議ではない)ちょっとした感動さえ覚えるのだが、果たして意図的なのか、あるいは本人の好みがたまたま30年前とリンクしているのか……。

90年代のポップ・バンドへのオマージュ / リバイバルといえば、いま全米チャートを賑わせているオリヴィア・ロドリゴとも通じる流れでもあって、国を超えて一つの盛り上がりを見せているのも面白い。ただやはり、筆者としてはまず第一に「懐かしい!」という気持ちが先行してしまうのが正直なところ。ひと世代若いだけで、懐かしいものが新鮮に見えるというのはちょっとだけ羨ましくもあるのだった。

beabadoobee
「Our Extended Play」
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Text:Nami Igusa  Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

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