【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.2 ネトフリ値上げと日本人の物価感覚
Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。
vol.2 ネトフリ値上げと日本人の物価感覚
第2回の今回は、先日、日経新聞の一面でも報道されていた日本の物価水準が他の先進国と比較したときにギャップが出てきた話を取り上げてみます。
世界一律価格、日本に押し寄せる ネトフリ13%値上げ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC25BQF0V20C21A5000000/
前回取り上げたアートの価格もそうですが、資本主義のシステムの下で発展を遂げていく国家では基本的に物価の上昇と賃金のゆるやかな上昇が続いていき、お隣韓国では平均所得がこの20年間で2倍以上に、ほかの先進国でも軒並み50%以上の所得の上昇が起こっています。Numeroの読者のみなさまの感心が高いであろう高級ブランドの商品でも、ご存知のとおりこの20年で2倍近くのプライシングになっていることは決して珍しくありません。
かたや日本国内だけでみると、国民の所得が上がらないどころかじわじわ下がる中、淹れたてのコーヒーがコンビニで100円で購入できるようになったり、ユニクロの高クオリティで低価格な製品群もそれにあたると思いますが、そういったイノベイティブな値下げを各所で実現し生活のクオリティを保ってきた側面も大きいです。
一見嬉しい、このリーズナブルな価格設定を実現してしまう能力というのは稀有なものではあるのですが、外で飲むコーヒーといえばコーヒーショップで買う400、500円のものだったものがこの価格になると同じ杯数だけコーヒーが販売されてもカップコーヒーの市場規模は四〜五分の一になってしまうわけで、そんなことばかりが起こっていると景気がよくなるはずがありません。
一昔前まではよく使われていた(ローカルの感覚にあわせて値付けされる商品の代表的なものとして)ビッグマック指標がありましたが、それに似たものとしてAmazon Primeのような日本の配送インフラに基づくサービスに関しては、日本人の物価感覚にあわせた価格設定が今後もなされる気がします。しかしブランドのバッグしかり、ネットフリックスしかり、そもそも海外で生産・制作されたものに関しては日本ローカルにあわせた値付けはますます行われなくなっていくでしょう。
治安を含めて、コストをかけずに快適な生活を獲得するにはこんなにいい国はないのですが、資本主義のシステムの下では負け組であり続けた結果、我々の賃金も大きくは上昇せずに、記事にもある通り徐々に舶来ものに手が届きにくくなってきます。言わば海外旅行に旅行先の物価が高くて行きにくくなる、というのが国内に波及してくる、みたいな状態が起こり始めているわけです。世界で勝負する気概のある人にはチャンスともいえるのですが、国全体でみると昔ほど『メイド・イン・ジャパン』の価値がグローバルで通用する時代では残念ながらなくなってきてしまっています。
日本でも我々のようなスタートアップの育成など経済成長に力を入れ続けるスタンスを政府は見せていますが、なかなか世界のスピードに追いつくことができているかというとそうではなく、脱資本主義で鎖国的なスタイルを志向したほうがいいのではという意見がでてきてもおかしくないところまできているのかもしれません。海外のものを生活に導入すればするほど貧しくなってしまうという状況がすぐそこにきているどころか、もうじわじわと始まっているのです。
個人的には資本主義のプレイヤーとしてもプロフェッショナルでありたいと強く思っており、まだ諦めたくはない気持ちが強いですが、日本が大きな岐路に立たされているのは間違いありません。実際に開催されるのか未だに腑に落ちてないですが東京オリンピックのあとの10年、20年、この国の未来はさてどうなっていくのでしょうか。
Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue