アーティスト高橋理子と「adidas」がコラボレーション。法被ジャケットや浴衣ジャケットを展開する自由発想とは
アーティストの高橋理子とadidas(アディダス)のコラボレーションプロジェクト『HIROKO TAKAHASHI COLLECTION』が実現。高橋 理子が作品制作する上でテーマに掲げる「制約から生まれる無限の可能性」から生まれた、円をモチーフにしたグラフィックとadidas のスポーツウェアが化学反応を起こし、全89アイテムにも昇るコレクションを展開する。中にはadidas 初となる法被ジャケットや浴衣ジャケットも登場。性別や国籍、世代を問わず、ストリートからスポーツシーンまで幅広く楽しめるラインナップに仕上がっている。高橋理子にコラボレーションの経緯と制作の裏側について話を訊いた。
わくわくして気分が上がるものを
──コラボレーションの依頼が来た時、どのような感想を持たれましたか。
「すごく嬉しかったです。中学生の時のジャージもそうでしたし、高校時代に所属した柔道部では何かしらadidasのアイテムを身につけて練習していました。とても身近な存在だったんです。あとは、普段の活動から和のイメージを持たれることが多いのですが、そこから遠いところにあるグローバルなスポーツブランドと一緒にプロジェクトをすることで、私への先入観みたいなものを壊してもらえるんじゃないかなとも思いました」
──出来上がりを見て、いかがでしたか?
「それぞれのアイテムに対し、どのようにグラフィックを入れるべきか、素材や製造方法をアディダスのデザイナーや工場と確認しながら一つ一つ作っていきました。正直、アイテム数が多くて全体像は把握できていなかったですね。でも、89点ものアイテムが店頭に並んでいるのを見て、グラフィックの分量や入れ方、配置などが想像以上にバランス良く仕上がっていると思いました」
──制作にあたり、スポーツブランドとのコラボレーションで意識したことは?
「スポーツウェアは、着て気持ちが盛り下がってはいけないですよね。わくわくして気分が上がり、力がみなぎって来るような大胆なアイテムを作りたいと思っていました」
──これまでのコラボレーションと異なった点はありましたか。
「このような大きな規模のプロジェクトは初めての経験でした。また、ブランド内でカテゴリーごとにデザイナーの方がいて工場もそれぞれ異なるので、細かいやりとりを通じてとても勉強になりました。スポーツウェアの機能性や素材、縫製のクオリティ、それからグローバルブランドならではの高い品質など、多くのことを知ることができました」
──限られたモチーフと条件の中で、制作を続ける理由や醍醐味は何でしょう。
「制約がある方が、深堀ができるというのが利点だと思っています。ルールがあってその中で深く表現を追求していくことは、私にとってはおもしろいこと。ただ自由であるより、厳しく制限されていた方が『何ができるだろう』とやる気を刺激されます。今回のプロジェクトでは、円をモチーフにした1種類のグラフィックをアイテムによってアレンジを加えながら展開しました。エンボス加工で表現したスタンスミスは、パーツごとにグラフィックデータを作って提案をしました。シューズは面積が小さい上に複雑な作りなので難しかったですね」
サステナブルな着物のつくりに共鳴
──今回のコレクションで最も気に入っているアイテムは?
「浴衣ジャケットですね。男性も女性も関係なく羽織れて、ジャケットのようにだけではなく、ローブとして家の中で着たりプールサイドで水着の上に羽織ってもいいと思います。全身を柄で遊ぶコーディネートってなかなかする機会がないと思うのですが、ぜひ強いグラフィックを纏って楽しんでいただきたいです」
──法被ジャケットや浴衣ジャケットはadidasも初の試みのアイテム。和の要素とスポーティなアイテムを掛け合わせる上で、難しかったことや工夫した点があれば教えてください。
「自分自身は、日頃から和と洋を分けて考えていないんです。もともとは洋服を作る勉強をしていて、布からオリジナルの服作りをするために大学でテキスタイルを専攻しました。そこで出会った着物を手がけるようになったのは、素材を無駄にせず、染めた生地を隅々まで使える合理的な構造に魅力を感じたからです。日本の伝統や文化であるといった歴史的な点に興味を持った訳ではないんです。私が手がける着物をはじめとした合理的なものづくりにadidasが共感してくださったことは、今回のプロジェクトスタートのきっかけでもあります。そこから、日本のものづくりのフィロソフィーを感じるアイテムを作ろうということで、法被ジャケットや浴衣ジャケット、甚兵衛や素材の無駄が少ない四角いTシャツを作ること。現代の日本で“和風”と呼ばれるものの多くは、過去の日本を踏襲しているものを指すと思うんです。“和”を強く意識しすぎると、これまで見てきた既存の日本のコピーになってしまいがちなので、先人の知恵を引き継ぐ必然性を意識しながら、現代の日本に生きる自分の中に自然と湧き上がってくる感覚を頼りに制作に臨んでいます。過去から解き放たれた状態で、現代を生きる私が作った作品から「和」を感じてもらえるのは、とても嬉しく思います。それは今の日本を表現できているということだから」
──ダイバーシティなど社会的なメッセージも込められています。どのような人々の手に渡り、コレクションが広まっていってほしいですか。
「心が自由で解放されている人たちですね。ストアスタッフの方々やディスプレイの着こなしに見られるように、法被ジャケットや浴衣ジャケットのようなアイテムも固定観念にとらわれず自由に身につけて自分のものにしていただきたいです。スポーツウェアは競技をする人も応援する人も、チームとして同じものを身につけると気持ちが盛り上がりますよね。その中でいかに人と被らない着こなしをするかも楽しみのひとつだと考えています」
──これまで手がけてきた作品の中で、もっとも印象に残っているものは?
「『RENOVATION』というタイトルの作品です。母や親族の着なくなった振袖など、古い着物を引き取り、すべてほどいて再び布の状態にしてから、洗って脱色をしたり、上から型染めをするなどして私のグラフィックをのせ、仕立て直したもの。昔は着物の染め替えや仕立て直しは身近なことでしたが、今ではそこまでして着物を着る人は少なくなってしまいました。新しく生まれたものでなくとも、単に知らなかったことを知るだけで、新鮮な驚きや喜びがあるということをメッセージとして込めた作品です」
──コロナ渦でクリエイションや日々の生活で、心境の変化はありましたか。
「いちばん大きいのは海外に行けなくなったこと。とはいえ不必要な外出が減り、落ちついて自分と向き合える時間が増えました。絵を描く時間を作ったり、やりたいと心の中で思っていたことを実行できたり。幸い体調も良好だったので、これまでとは違う特別な時間を過ごせたように思います。そんな中で、武蔵野美術大学の教授に就任したことは大きいできごとでした。日々学ぶことも多く、新鮮な環境です。ただ、大学教員に女性が少なかったり、担当しているテキスタイルコースの生徒のほとんどが女性なのに、実際にテキスタイルに関わる仕事をしている人は男性が多かったり。日本のジェンダーギャップの問題を目の当たりにして、どのように良い影響を及ぼすことができるかを考える日々。責任重大だなと思っています」
──今後、挑戦したいことがあれば聞かせてください。
「展覧会など、作品を通して私の考えを知ってもらえるような場を海外にも広げていきたいと思っています。作品発表だけでなく、海外の大学などで、若い世代の方々に私の活動について伝えられるような状況も目指したい。今回のadidasとの取り組みがそのきっかけになったら嬉しいですね」
『HIROKO TAKAHASHI COLLECTION』
高橋理子氏を象徴する円のみで構成されたグラフィックを配したコレクション。
法被ジャケットや浴衣ジャケットをはじめ、ランニングやスイム、ゴルフなど、多様なカテゴリーでリリース。スーパースターやスタンスミスなどのアイコニックなスニーカーでも展開し、全89種がラインアップ。日本を中心に世界各国のアディダス、オンラインショップにて販売中。
アディダスグループお客様窓口
TEL/0570-033-033 (土日祝除く9:30~18:00)
URL/adidas.jp/hiroko_takahashi
Text: Aika Kawada Edit: Michie Mito