【新連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.1 現代アートはなぜここまで高くなる!?
Sumally Founder & CEOの山本憲資による新連載「ニュースから知る、世界の仕組み」がスタート。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。
vol.1 現代アートはなぜここまで高くなる!?
Numero読者のみなさんは、日々どんなニュースを見ていますか? 新聞、テレビ、LINE、アプリ、ネットニュースなど、数多くのメディアが日々の出来事を報じています。ゴシップとは違って、経済のニュースになると聞いたことあるキーワードが出てきているものの、実際どういうことなのか、そしてなぜそれが起こっているのかがいまいち分からない、ということありませんか? そう、学校ではニュースの読み方ってなかなか教えてくれないのですよね。 この連載では、読者のみなさんも興味のありそうなニュースを取り上げて、その背景を解説しながら、世の中のどういう「ルール」が出来事の前提になっているか、というのを知るきっかけになるといいなと。 初回はアートについて、取り上げてみます。昨今、現代アートへの感心が高まり、みなさんの周りでも手頃な作品を購入してみた、という人もいるのではないかと思います。バスキア絵画、100億円で落札 歴代2位
先月、バスキアの作品が歴代2位の約100億円で落札された、というニュース(記事はこちら)がありました。バスキア作品の中では2017年に元ZOZO社長の前澤さんが落札した作品の120億円の価格に次ぐ、歴代2位の価格です。購入者は明らかになってはいませんが、少なくとも数百億円規模の資産を持っている大金持ちの可能性が高いと思われます。評価の固まった(特に物故)アーティストの作品は価値がゼロになることはないでしょうし、作品を所望する富裕層の数が増えれば増えるほど、これ以上数の増えることのない作品の争奪戦は激しさを増しその価格相場は必然的に高くなります。実際、記事にもあるとおり、2001年に同作品が出品されたときの落札価格は約1億円でした。20年で100倍以上の価値がついています(ちなみに同期間におけるAppleの株価は50倍弱の上昇)。僕が約20年ほど前、大学生の頃に10万円程度で購入したKAWSのエディションのシルクスクリーンが、先日の(昨今国内では勢いのある)SBIオークションで約800万円で落札されていましたが、KAWSのアジアでの人気にはバブル的な勢いを感じざるを得ません。
近年は人気のアーティストの作品を、グループで購入し、作品の一部の権利を所有するといったサービスも出てきており、こういった傾向をみると、ただの消費ではなく投資としてアートが購入されているケースも少なくはないです。
また、昨今のアートマーケットの盛り上がりを鑑みると、投資という以上に「両替」という感覚もあるのかもしれません。価値が安定しているアーティストの作品に関しては、大きな値上がりをするかはさておき、値崩れを起こすこともまた少なく、その前提であれば消費しているというより、現金で資産を保有する代わりにアートを資産として保有しているという人も少なくないのだと思います。個人のバランスシートの「資産の部」の現金の一部が、ある意味有価証券にも近いともいえるアートに置き換わっている、という感覚もあるのでしょう。
個人的には、値上がりしそうなアーティストを見定めて背伸びして作品を手に入れるよりも、精神的にシンクロニシティを覚える若手の作品を手の届く範囲でコレクションしていくのがおすすめです。この5年でも若手アーティストの質が大きく底上げされており、10万円〜50万円での予算でもかなり選択肢がありますし、若手作家であれば、展覧会に行けば実際にアーティストに会える機会も多く、どこか恋愛に近い感覚で好きな作品に巡りあい、まずはその気持ちへの対価として作品を購入してみてください。
結果、そのアーティストが10年後、20年後に超人気アーティストになっていればラッキーですし、いわゆる相場というところでは価値が高まっておらずとも、自分が好きな作品と暮らす時間にはそれだけで十分な価値があります。しっかりとしたギャラリーで購入していれば、若手でも価値がなくなってしまったということはあまり起こらないはずで、なぜならギャラリストの人がそのアーティストの作品に恋に落ちたからこそ、そこのギャラリーで扱っていることがほとんどだからです。まずは、自分の好きなアーティストを探しましょう。そして勇気を持って飛び込んでみてください。
Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue