松尾貴史が選ぶ今月の映画『秘密への招待状』
インドで孤児たちの救援活動にいそしむイザベル(ミシェル・ウィリアムズ)は支援者のテレサ(ジュリアン・ムーア)に会うためNYを訪れる。テレサの娘の結婚式に招待されたイザベルは、テレサの夫が元恋人であることに驚く……。スザンネ・ビア監督『アフター・ウェディング』のハリウッドリメイク『秘密への招待状』の見どころを松尾貴史が語る。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年3月号掲載)
寄付がもたらす意味
最近、小規模ながら「note」というネットサービスに登録して、書いた文章を購読してもらうということを始めました。なんと、その文章を買ってくれた方から、「サポート」という名の寄付も少しずつですが寄せられるようになりました。そうなると不思議というか面白いもので、「気張って作り続けていこう」という気が湧いてくるのですね。
昨今は、クラウドファンディングで夢をかなえるべく活動する人をサポートして、その特典をもらうというスタイルも普及しています。これも、持ちつ持たれつでしょうか。これまでは、持たざるものは夢を捨てなければならないことが多かったと思いますが、結構なシステムが発明されたものです。
人が何かに寄付をするという時、純粋な投資家が支援しようという動機ばかりではないでしょう。有名人や有名企業が、難渋している状況や地域の方たちに多額の援助をするという得難い現象は、時に感動を呼び、それ以上の利益をその出資者に与えることもあるようです。
例えば、ある不謹慎である種の品行方正な人からは嫌悪されるような芸風のタレントが、こっそり名を隠して被災地の支援に無償ボランティアとして赴き活動をしていたということが明るみになった時、イメージの落差の大きさから反動でリスペクトの対象になってしまいましたが、彼はそういう波に乗ることなく、実直、というよりも愚直に自身の芸風を全うしているようです。
多額の寄付をして「売名行為だ」と誹りを受ける人もいます。いわゆる、嫉妬の対象としてイメージが定着している「セレブリティ」がその対象になりやすい気もします。売名だろうと何であろうと、役に立つのなら動機は何でもいいと思いますし、何もしない人が文句をつける筋合いではないのにおかしな話です。
さて、この『秘密への招待状』は、インドで子どもたちの文具にも事欠く苦しい経済状態の孤児院を運営しているイザベル(ミシェル・ウィリアムズ。当初は別の俳優がキャスティングされていたそうですが、ウィリアムズで大正解だと思いました)のもとに、高額な寄付の話が遠く離れたニューヨークから持ちかけられます。条件である、贈り主テレサ(ジュリアン・ムーア)との面談のために、イザベルを母のように慕う孤児を置いて、かの地を訪れることになったのですが、そこで半ば強引にテレサの娘の結婚式に参列することになり……。
物語の構成が見事なところに、役者が皆達者で、終盤に差し掛かるまでこの寄付がどういう意図、動機なのかを固唾を飲んで見ることになります。
派手な作品ではありませんが、コロナ自粛でご家族と過ごす機会も多い状況で、一緒にご覧になるのも趣向かと思われます。
『秘密への招待状』
監督/バート・フレインドリッチ
出演/ジュリアン・ムーア、ミシェル・ウィリアムズ、ビリー・クラダップ、アビー・クイン
配給/キノフィルムズ
2/12(金)より、 TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
https://afterthewedding.jp/
配給:キノフィルムズ
© ATW DISTRO, LLC 2019
Text:Takashi Matsuo Edit:Sayaka Ito