10人のクリエイターに聞くマイベスト写真集 <前編>
写真集との出合いは人生を彩る。一枚だけの写真と同様に、連なるイメージの集合体は強烈に記憶に残るもの。時間を経て見返せば、当時の記憶を生々しく思い出すものだ。そんな特別な一冊とそれにまつわるエピソード、そして写真の魅力をクリエイターたちが語る。今回は前編。※写真集はすべて本人私物(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年1・2月合併号掲載)
1.濱中敦史(twelvebooks代表)
『One day in November』 ジェシカ・バックハウス(2008)
本を通じ作家と言葉を交わす
「初めて訪れたパリ・フォトで手に入れた思い出の一冊。偶然アートギャラリー「Robert Morat」のブースで声をかけられ、作家本人から作品や写真集のことを説明してもらう贅沢な時間に。自分の原点や転機になったことを思い出す際に手に取ります。15年近くコレクションを続け、所有する写真集は約3000冊ほどに。魅力ある写真集は、造本から編集など細かい部分も作品のコンセプトに沿って適切に選択し、まとめられ、一つの作品として成立していると思います」
(はまなか・あつし) アートブックの海外出版社の国内総合代理店として書籍の流通やプロモーション、展覧会などを手がける。www.twelve-books.com
2.モーガン茉愛羅(モデル、フォトグラファー)
『THE OTHER DAY』 クエンティン・デ・ブリエ(2016)
作家の感性に共鳴
「20年間の作家の生活を切り取った写真集で、素敵なポートレートがたくさん。でも注目したのは、最後のクレジットのページ。出演者をページ毎に一人残らず書き記していて。日常への愛が伝わってきます。写真を始めた3年前に初めて買った写真集で、それまでは書店に行っては見ていました。日常を撮る自分と近いものを感じていたのだと思います。所有する写真集は20冊ほど。友人が写真集を出版した際は必ず買うようにしています」
(モーガン・まあら) ファッションモデル、フォトグラファーだけでなく女優としても舞台やCMで活動中。
3.大野隼男(フォトグラファー)
『荒木経惟 写真全集 陽子』 荒木経惟(1996)
許し合うこと
「妻の陽子さんとの時間、愛情とつらさ、その断片は、どれも写真でしかできない美しい残し方だと思っています。空の写真は、涙が出るほど人間らしい写真で記憶に残っています。確か吉祥寺の古本屋で購入しました。あまり頻繁に見返すことはありませんが、大事な人との時間について考えるとき、ページをめくってしまいます。購入する写真集は、自分の心が動いたり価値観を揺さぶるもの、それから、理解できなくても心に引っかかるものです」
(おおの・としお) アーティストのワールドキャンペーンを手がけ、2018年にはラフォーレ 原宿で企画展を開催。
4.マイカ・ルブテ(シンガーソングライター、DJ)
『あかつき』 中野道(2020)
友人の制作風景を見守って
「“命”と“時間の流れ”がテーマだと友人である作家から聞きました。見返すうち、子どものようにイノセントな視点が一貫してあることに気づきます。おじいちゃんの手の皺、てんとう虫が手の上を這う感触を味わう姿。どれも自分の記憶にない光景ですが、不思議と懐かしさを覚えました。世界のすべてが新しく新鮮に見えていた、かつての自分自身のことを思い出せたのかもしれません。撮影を間近で見ていたので、本を手にしたときは感無量でした」
(Maika Loubté) 音楽活動だけでなく、映像制作やモデル活動も行う2020年10月に新曲「Show Me How」をリリース、絶賛配信中。
5.石原海(アーティスト、映像作家)
『Suzi Et Cetera』 ボリス・ミハイロフ(2007)
手放しては手に入れる本
「誰しもが持ちうる暴力性みたいなものを包み込んでいる写真集。ミハイロフの地元ウクライナの風景や女たちがページをめくって現れるたびに、物語が伝わってくる。実はこの本を人生で二度購入していて。最初は21歳の時にNYの本屋で、$80を当時の恋人と半分ずつ支払い、別れるときに手放しました。数年後に東京の古本屋で見つけて購入し、いまはイギリスの友人宅に。手にしては消えて、また手に入れる。そんな関係性を繰り返す本です」
(いしはら・うみ) 愛、ジェンダー、個人史と社会を主なテーマに、フィクションとノンフィクションを混ぜて作品制作する。
Photos:Kouki Hayashi Text:Aika Kawada