あいみょんインタビュー「燃え尽きることは一生ないと思ってます」 | Numero TOKYO
Interview / Post

あいみょんインタビュー「燃え尽きることは一生ないと思ってます」

私たちの日常にそっと寄り添って、感情や景色の尊さを教えてくれる新世代スター、あいみょん。2020年9月に発売された3rd アルバム『おいしいパスタがあると聞いて』を通して、メジャーデビュー前の願望から、いま彼女の中にある思いについて振り返った。あいみょんの日常と心の変化にクローズアップ。(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2020年11月号より抜粋)

「もっと刺激がほしい。それによって私は新しいものを生み出すから」

時代を代表するミュージシャン、あいみょん。柔らかく自然体ながら、凛とした“自分らしさ”を内包する佇まいからは、自らの力で新しい世界の扉を開きたいという、フレッシュなエネルギーがあふれている。ニューアルバム『おいしいパスタがあると聞いて』は、あらためてシンガー・ソングライターとしての得難い資質を感じさせられながらも、風のような軽やかさのある日常に根付いた楽曲が印象に残る。

ドレス ¥554,000 ピアス¥60,000/ともにLoewe(ロエベ ジャパン クライアントサービス 03-6215-6116)
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──ニューアルバム『おいしいパスタがあると聞いて』は、生活に根付いた楽曲が多く収録されています。

「生活がすごい大事だって気づきましたね。この時期だからっていうのもありますけど、日常生活が自分の感性をつくるし、衣食住をちゃんとしなきゃなって思いましたね。これまでちゃんとしてなかったわけじゃないんですけど、より意識するようになった。『部屋の乱れは心の乱れ』っていわれますけど、確かにそんな気がしてて。『いま死んだらこの部屋の状態、めっちゃ恥ずいな』って思ったのもあります(笑)。たとえ外面を良くしてても、そういうときに素が見えてしまう。基本的に私は家の中で曲を作るんです。もちろん外から持ってきた情報も曲に混じってるんですけど、生活がベースにある楽曲が今の自分にハマってて、今みんなに聴いてほしいっていう理由でこういうアルバムになったんだと思います。昔は本を読んだり、映画を見たら曲を書けることもあったんですけど、音楽中心の生活になってきたことによって、のアートは趣味で楽しむようになりましたね。最近は、森アーツセンターギャラリーに『おいしい浮世絵展』を観に行きました。現代アートでも、抽象的な作品がすごく好きで。あと、何百年も残ってるような古き良き日本の絵とか。絵を見に行くと、どうしてこの作品はここまで残る作品になったのかを考えます。いま、音楽はCDがあまり手に取られなくなって、“もの”としては残りにくい。でも、絵はストリーミングとかじゃなくて、大切に保管されている。その違いはなんやろなって」

──アルバムの1曲目を飾る「黄昏にバカ話をしたあの日を思い出す時を」では“余裕のある生き方がしたい でも鐘の鳴るほうへは行かないぞ”と歌っています。

「この曲は3年前に書いた曲なんです。到底いまの状況とは違う自分がいて。それなのに『鐘のなるほうにはいかない』って歌ってる。当時の私は、本来なら鐘のなる方に行きたかったと思います(笑)。でも、曲作りする時って、どこか強がってるんですよね。少し大人ぶったり、ひとつ上の目線でものを言ってる感覚で。そういう風に書いた楽曲が、ちょうど今の年齢の自分に追いついたみたいな感じで。あらためてこの楽曲を見て『あ、今の私が言いたいことを言ってくれてる』って思って1曲目にしました。決意表明に近い曲だと思っています」

──“もっと刺激をもっと混乱をもっと人生を”という歌詞は、これからのあいみょんさんの指針に成り得るような言葉だと思いました。

「そもそも負けず嫌いなので、自分の人生には刺激が足りない、喜怒哀楽においてのすべての感情が足りないなって思ってて。だから『もっと自分に何か起きればいいのに』って思ってたんですけど、それは今も変わらなくて。私、小さい不幸が常に自分に起きればいいのにって思ってるタイプで。でも、実際に起きたらすごく落ち込むんですよ。でもそれが自分の曲作りの鍵になる気がしていて。だから『ほんまに財布を落としたいな』とか『家の鍵なくしたいな』とか思ってて(笑)。そういう小さいことでも自分に起きれば何かが変わるかもしれない。不幸面してるわけじゃなくて、何か『うわ!』って思うことが欲しい。人生は満たされ続けてもおもしろくないから。世の中はもちろん平和であってほしいですけど、自分自身はちょっとボコボコしてる方がおもしろい。だからもっと刺激がほしいし、自分を混乱させるような何かがほしい。それによって私は新しいものを生み出すから、って思っています」

トップ¥186,000 スカート¥143,000 ハット¥93,000/すべてMarc Jacobs(マーク ジェイコブス カスタマーセンター 03-4335-1711)
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──それは、自分にとって居心地が良かったり安心できる場所に浸ってはいけない、というふうにも言い換えられる?

「インディーズの頃は、有名になって注目されたいとか、めっちゃ広い家に住みたいということが活力になってて。そういうのにハマるアーティストさんもいると思うので、良くないことではないと思いますけど、私の場合は何か刺激がないと頑張れないのかも。メジャーデビューするタイミングとかめっちゃ忙しくて、初めて譜面をパンって家の中で投げたことがあって(笑)。満たされるために、有名になるために一生懸命やってても、結局しんどくなったりしてるわけだから、「簡単じゃないんやな」って思いましたね。当時はどうしていいかわからない感覚もあったけど、今はあの経験をしておいてよかったって思います」

ジャケット¥264,000 スカート¥155,000 ベスト¥164,000 ストライプシャツ¥82,000 ピアス¥25,000 ブローチ¥48,000 ブーツ¥137,000/すべてMaison Margiela(メゾン マルジェラ トウキョウ 03-5725-2414)
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──「マリーゴールド」が2018年を代表する曲になったときは満たされた感覚にはなった?

「あの曲がばーんっていったときは、『なんか面白い!』って思いました。でも自信のある曲で、できたときに「きっと自分の表題曲になると思うんです」って言ってて。だからあの曲のことはずっと信じてたんですけど、満たされた感覚はない。「褒められてうれしいな」って思ってました。でも人生はそんなに甘くないから、その次の曲が重要になってくるって思ってましたし、『マリーゴールド=あいみょん』になったので、考えることが増えましたね。でも、あまりヒット曲に恵まれない世の中だったにもかかわらず、一曲でもそういう楽曲があることはすごく幸せなことだと思っています。時には壁になる曲でもあるんですけど、それはそれで頑張ろうって思う。だからいろいろ思わせてくれる楽曲ではありますね。でも、アーティスト活動をあまり重く捉えないようにはしてます。歌うことは別に私の義務ではなくて、ただ楽しいから、人に褒められたいからやっているんです。それくらいの感覚でこれからも向き合えたらいいなって思ってます」

──その感覚と負けず嫌いな面とは、どういうふうに折り合いをつけている?

「そうですね。音楽は勝ち負けじゃないっていわれますけど、私は結構勝ち負けやなって思ってるタイプで。ランキングとか売り上げ枚数とかじゃなくて、アーティスト単体として“自分が勝った”って思う瞬間があればいいかなって。まだまだ自分の上にはたくさんすごい人がいるので。今は結構負けず嫌い精神でやってるかなって思いますね。燃え尽きて終わる人もいると思うんですけど、自分は燃え尽きることは一生ないと思ってます。きっと作詞作曲は続けるんじゃないかなと思ってて。でもどこに向かっていくのかは自分が一番わからないですね。でもまだ勝ったとは思ってないので……私は誰と闘ってんのやろ(笑)。それは具体的にはわからないんですけど」

Photos:Toshio Ohno Styling:Masataka Hattori Hair&Makeup:Masaki Sugaya Interview&Text:Kaori Komatsu Edit:Chiho Inoue, Saki Shibata

Profile

あいみょんAimyon 1995年生まれ、兵庫県出身のシンガー・ソングライター。2015年にタワレコ限定シングル「貴方解剖純愛歌~死ね~」でインディーズデビュー。オリコンインディーズチャートTOP10入りを果たす。16年にシングル「生きていたんだよな」でメジャーデビュー。映画やドラマの主題歌を書き下ろし、数々のヒット曲を打ち出す。20年9月9日に1年7カ月ぶりとなるニューアルバム『おいしいパスタがあると聞いて』を発売。 aimyong.net/

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