中世フランスから現代までを繋いで拡げる、作曲家・阿部海太郎の美しい音世界
舞台や映画、ドラマなどの音楽を手がけ、ジャンルを超えて音楽を探求する作曲家・阿部海太郎のアルバム『Le plus beau livre du monde 世界で一番美しい本』が2020年10月7日にリリースされた。
本作の題材となったのは、パリ郊外の城に残されていた15世紀の装飾写本『ベリー侯のいとも豪華なる時祷書』。約500年前のフランスの人々の暮らしが、月ごとに精細に描かれ、”世界で一番美しい本”と呼ばれている。金やラピスラズリなどの顔料を使った鮮やかなその本は、城の宝物庫で保管され、公開されることがほとんどなかった。けれどもNHKが撮影を許可され、その貴重な映像を8Kで収録、そして「世界で一番美しい本」(2019年)として放送された。
新作アルバム『Le plus beau livre du monde 世界で一番美しい本』には、この番組のために阿部海太郎が書き下ろした、12ヶ月をテーマにした曲など全15曲が収録されている。
マンドリン、ピアノ独奏、弦楽四重奏、木管五重奏、オルゴールからオーケストラなどなど、多彩な編成の曲からなり、そして演奏陣には今をときめく音楽家が揃う。指揮者は新国立劇場をはじめ国内主要団体のオペラ公演で活躍し、チェンバロ奏者としても注目される根本卓也。そして中村大史(tricolor)、 権頭真由(Hyogen)、角銅真実、Bun Imai、Mica Bando、葛城梢など、それぞれ個性的な音楽活動を行なっているメンバーが集結。古典的な趣きにクラシックの入り口もありながらも、現代的な音や解釈などが取り入れられていて、心が踊る。
また、題材となった『ベリー侯の豪華時祷書』も、ぜひ見てほしい。例えば10月の頁には、ルーブル宮殿の外側はほとんど畑!という、今では想像もつかないパリの景色が広がる。当時の音風景はどんなだっただろうと妄想しながら聴くのも楽しい。澄んだ空気に鳥の声、そして馬の吐く息、車も電気もない時代、音はどんな風に響いていたのかしら・・・・。
また、本作は(8K番組に対応すべく生み出された)22.2ch環境で録音され、ミックスされた音源はイギリスでマスタリングしている。さらにCDや配信だけでなく、年内にはアナログ盤も発売予定。こちらはイギリスでカッティングし、ピアノソロ曲の楽譜が付いているという。
最新の音響技術を用いながらも、アナログ盤での音源にもこだわり、さらには聴くだけなく演奏も可能にする楽譜付き。現代における音源化について、そして音楽との向き合い方も深く考察している阿部さんらしい展開が待っている。
ちなみに本作のアートディレクションはKIGIの植原亮輔、渡邉良重が担当。その美しいデザインの魅力も加って、どの音源もコンプリートしたくなるかも。
リリース日からは特設サイト leplusbeaulivredumonde.com が開設されている。こちらでは約1年にわたって、彼自身の言葉や、本作に関わりのある人たちの言葉、そしてイスラエルのコンテンポラリーダンスの演出・振付家であるアブシャロム・ポラックによる映像などが公開されていく。そのほかにも、イベント企画、オリジナルプロダクトなども展開予定。
1冊の美しい本『ベリー侯のいとも豪華なる時祷書』から生み出された音楽が、この先の季節を共に経ながら、さまざまな人たちの表現に連なっていく。音楽との出会いが、幾重にも広がってゆく体験をぜひ。
阿部海太郎『Le plus beau livre du monde 世界で一番美しい本』
発売日/2020年10月7日
価格/¥2,800
発売元/Theatre Musica
ディストリビューション/SPACE SHOWER MUSIC
アートディレクション/植原亮輔、渡邉良重(KIGI)
特設サイト/leplusbeaulivredumonde.com