家族、兄弟姉妹、友人、仲間、人を思いやって つながって進んでいく、そんなお話です。
2020年8月28日(金)発売の『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2020年10月号に寄せて。編集長・田中杏子からのエディターズ レター。
私が6歳の頃。2歳上の姉と父母の4人家族で冬の高野山に登ったときのこと。登山というよりロープウェイで頂上付近まで行き、雪山を散策して帰る予定でした。ところが帰路のタイミングで状況が一変。ロープウェイが故障して復旧の目処が立たないという。そこには小さな休憩所しかなく、宿泊ができるような設備はおろか、家族4人がひと晩を過ごすのに十分な食べ物も飲み物もなく、慌てる父母を見てとてつもない不安に襲われたのを覚えています。待ってはみたものの復旧は明日の朝まで難しいとの結論が出た頃には体が芯まで凍り、感覚も麻痺状態に達していました。そんななか『皆で歩いて下山しよう!一緒に下山すれば怖くない!』と誰かが声をかけたのです。あとでわかったのですが、大学の登山サークルの学生さんたちでした。夜の雪山を徒歩で下山するのが安全なのかはわからないけれど、残っても解決策はなく苦渋の選択で私たちもその一行に加わって下山することに。雪山の夜はシンシンと寒く、濡れて冷たくなった靴を見つめながら、一歩また一歩…。私と姉は何度も気が遠のきそうになりながら、それぞれ父と母の手を固く握り、その命綱だけは手放さないようにとなんとか保っている状態でした。
そんなとき誰かが大きな声で歌い始めました。♫丘~を越~え~行こうよ~~口笛~吹きつ~つ~♫ 歌は、悲惨な状況に温かみを添えてくれます。父も母も姉も、そして私も泣きながら歌い始めると、周りの皆が合唱を始めたのです。合唱しながら、声をかけ合いながら、途中お兄さんに肩車をしてもらいながら歩くこと数時間。街が見え、周辺に安堵の声が聞こえてくる頃には苦境を共に乗り越えた連帯感に皆が包まれていたのを子どもながらに感じ取っていました。ロープウェイが故障しなければ雪山を徒歩で下山なんてむちゃなことはしなくて済みましたが、それ以上に、他者を思いやる心、連帯感、人とのつながりに触れることができたことは、何物にも代え難い貴重な体験となりました。
“つながり”はたくさんのことを感じさせ、教えてくれます。今号では現代社会の“つながり”や“連帯感”について、文化人類学者の上田紀行さんに伺っています(p.86)。現代の日本にとって大切なのは「その“つながり”があなたを生かすものなのかどうか」だそうです。確かに“ネガティブなもの”が存在しているのも然りです。また「共苦を縁に変えるような出来事により“心のつながり”から新しい時代が見えてくる」と結んでいらっしゃいます。 受難だらけの2020年を読み解く意味でも、意義深い考察、ぜひご一読ください。また、美しいヴィジュアルで表現した「あの人が切り撮った心のつながり(p.68)」では俳優で写真家の安藤政信さんが俳優仲間の平手友梨奈さんを、同じく俳優で写真も撮る仲野太賀さんは尊敬する父、中野英雄さんを撮り下ろしてくださいました。心に染みる素晴らしい作品が並んでいますのでご覧になってください。
私たちは常に誰かとつながって生きています。他人を思うことは自分を思うこと。自分を愛することは家族や友人を愛することにつながるということを忘れずに生きていきたいですね。今号をどうぞお楽しみください!
Numéro TOKYO編集長 田中杏子
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