変化があると、進化する。次の章へと駒を進めましょう。
2020年7月28日(火)発売の『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2020年9月号に寄せて。編集長・田中杏子からのエディターズ レター。
2020年を境に世界や社会のあり方、価値観がガラガラと音を立てて変わりました。2021年まであと数カ月となる下半期は、どんな出来事が起こるのか、不安とこれからを案じる気持ちとポジティブに未来に向かいたい思いが入り交じり、複雑な日々を過ごしています。2020年には200年続いた星が動くので価値観が変わりますよ、と多くの占星術師が予言していましたが、まさか世界的に疫病が流行し、こんなふうに私たちの人生に変化をもたらすとは想像もしていませんでした。
今回の出来事で、私たちは多くを学びました。そして常に前を向いて歩こうとするならば、この変化をどう意味づけしてサバイブするのかが肝になってくるのだと痛感しています。
今号の表紙は、ラトビア共和国から届いた手作りのマスクを着けた4人のモデルが、カーニバル風にファンタジックに飾ってくれました。
マスクを着用した理由は、この表紙でマスクがニュー・ノーマルになった現在を表したかったのと、デジタル社会へと移行するこれからの日々は、別の人格や人柄、マスクを装って生きていくことが当たり前になり、さらにその傾向が強まるであろうことを示唆し、だからこそマスクの奥にある“生身(なまみ)”のリアルな自分自身が、とても重要になることを表現したかったのです。
モデルたちは皆、猫や羊、フクロウやウサギになりきって、とても楽しそうに「別の人格」を表現してくれました(リアルな彼女たちの素顔はnumero.jpで紹介予定です。そちらもぜひご覧くださいね)。
創刊当時からクリエイターに支えられ、関係を構築してきたいまだからこそ、この逆境をどう乗り越えようとしているのか、「アーティストたちが思うこれまでのこと、そしてこれからのこと」を企画しました。表現方法はさまざまですが、この時代を後世に残すという記録的な要素も含まれています。
「アートが導くマインドチェンジ」で取材をしたキュレーターの長谷川祐子さんの「アーティストは時代の変化を見通す力がある。時代の兆候をどう表現し、人々の想像力に働きかけていくのか。私たちにとって当たり前のことに日頃から疑問を感じ別の感じ方や生き方の可能性を提案することがアートの力」という言葉にもあるように、寄稿してくれたクリエイターの作品からは未来に向かうヒントがちりばめられていました。
人が集まれない状況を逆手に取って、靴とバッグを各クリエイターに送り、フォトグラファーには作品を、モデルには自撮りでヴィジュアルを仕上げてもらうといった新しい手法での表現も行いました。思いが幾重にも重なった「It’s a Change」らしい一冊に仕上がったと満足しています。
これからはオンラインがコミュニケーションやメディアの主流になるといわれ、それが時代の流れであることに異論はありません。ただ、それだけになおいっそうフィジカル面からに心を満たすということの意味を深く考えるようになりました。これから時間をかけて、変わっていくものと変わらないものに二分化されそうですが、正直なところ実態はまだつかめていません。
ただ、挑戦する、学ぶ、創造する、対話する、瞑想する、鍛える、汗を流すといったフィジカルに心を満たす行為は、ずっと変わらず私たちの心身を満たしてくれるのだと思います。もちろん雑誌を手に取ってページをめくることも、その一つだといいなという期待も込めて。End of the Beginning。さあ、目を凝らして、次の章へと向かいましょう!
Numéro TOKYO編集長 田中杏子