イラストレーションの中に息づくプールの風景
ポップアート、スーパーリアリズム、デイヴィッド・ホックニー、アメリカの生活感覚。そんなキーワードのもと、1970年代後半に生まれた美しいプール・イラストレーション。現在も第一線で活躍する2人の作家、永井 博と山口はるみがその魅力を語る。(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2020年4月号掲載)
永井 博
Hiroshi Nagai
大滝詠一のレコードジャケットに代表されるトロピカルな風景イラストレーションで、1970年代から現在まで活躍するイラストレーター。
アメリカの風景にみる“何気ない美しさ”
「初めてプールを描いたのは、77年に発売されたコンピレーションレコード『THE BESTO FOLDIES BUT GOODIES “The T WIST”』のジャケット。その後に『A LONG VACATION』の絵を描いてからは、プールの絵を頼まれることがすごく多くなりましたね。73年の夏に行った40日間のアメリカ旅行もそのきっかけで、シアトルからLAに向かっているときだったかな……飛行機から住宅街を眺めていたらプールがぽつぽつ並んでいるのが見えて、それが印象に残ったんです。当時からそういうアメリカの何気ない風景みたいなものが好きで、建築の本なんかを参考によく描いていました。アメリカの強い光を表現するために影を濃く描いていくんだけど、暖色系の影と寒色系の影があって、その色によっても印象が変わる。僕はその“影”に惹かれるんですね。それに、複雑な都市の絵よりもシンプルな風景が描きたいから、プールっていうモチーフはそれにぴったりなんです」
山口 はるみ
Harumi Yamaguchi
PARCOの広告をはじめ、1972年からアイコニックな女性像をエアブラシで表現。国内外の美術館で展覧会を行うイラストレーター。NANZUKA所属。
自由と自立を象徴するプールサイド・ギャルズ
「1977年にPARCOの初夏の広告を頼まれたとき、ぱっと頭に浮かんだのがハワイのビーチで見たワンシーンだったんです。そこにいた女性たちが、人がたくさんいる中で突然着ているものをさっと脱いでいって、それがすごくかっこよかった。そんな風景を描きたくて、プールサイドにいる水着の女性を描くことになったんです。それがたくさんの方に受け入れられて……それ以来、いろいろな機会でプールを描くようになりましたね。プールはさまざまな画家によって描かれていますが、やっぱりすごいのはデイヴィッド・ホックニーの作品。おしゃれでセンスが良くて、風景画としても今までにない表現だった。彼の描くプールには男性しか出てこないけれど、私が描いてきたのは女性。自立していて、自由で、勢いがあって……そういう女性像が出てきた時代でした。プールサイドには人の動きや、恋や、物語がある。そんなイメージをずっと描き続けてきたような気がします」
Text : Mayu Sakazaki Edit : Risa Yamaguchi