生粋のごはん狂・平野紗季子が選ぶ“至福の一皿”アドレス
食いしん坊のフードエッセイスト・平野紗季子さんが「口に運べば幸せな気持ちになれること間違いなし」と、太鼓判を押すメニューとは。朝ごはんからディナーにかけて至福の一皿を、時系列で厳選!(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2019年11月号より抜粋)
健やかなるときも、病めるときも。食べる幸せのいろいろなかたち
“幸せの一皿”として、平野さんがまず挙げてくれたのは、オークラが誇る伝統の味、レモンパイ。半世紀にわたり料理人に守られてきたレシピと多くの人に愛された存在にハートを射抜かれた。ぜひルームサービスで食べたいとリクエストが。
「ルームサービスには常々憧れがあり、海外のホテルに泊まったときもついお願いしたくなってしまう。おいしくなくてもいいんです。滑車の付いたテーブルひとつで、お部屋がレストランに変わるファンタジーが好きなんです」。
幸せのひとときを収めたカットは、本特集の扉だ。さらには、食の幸せにはいろいろなパターンがあると教えてくれた。
「ストレートに料理人の技術に感動することもあるし、疲れたすっぴん状態で訪れても迎え入れてくれるお店の優しさに幸せを感じることもあります。それから大好きな喫茶店のご店主とか、古き良きビストロのマダムとか、あの人に会うために行きたい店もありますよね。あとは、可能な限りどんなに疲れていても、おいしいものを食べて眠りたい。それさえできれば健やかな精神状態で生きていけます。カロリーのことは気にしない(笑)」
毎日働く女性ならじーんとくる、沁みるエピソードも。
「会社勤めしていたときは深夜まで働く日も多くて。いつも帰宅する頃はヘトヘトだったんですが、自宅の前に、ツルの赤いメガネを掛けた男性がやっているカウンターの食堂があったんです。深夜2時近くまで営業していて、夜中に疲れ果ててお邪魔すると黙って出してくれるのが、春菊のすり流し。漫画みたいですよね(笑)。ラーメン屋や居酒屋しか開いてないような時間に、相手の状態を見てそっと食べ物を出してくれるとか……泣くしかない。彼のおかげで頑張って生きようと思えましたね」
いわゆるご馳走だけが幸せに直結しているわけではない。身体や心が弱っているときに寄り添い、労ってくれる一皿に格別なありがたみを感じる。それも幸せ。
心身を満たす5皿をリコメンド
朝ごはんからディナーまで。それぞれを選出した理由についてはこう語る。まずは、異国情緒あふれる朝ごはん(東京豆漿生活)から。
「とろんとした舌触りと優しい甘さの豆漿に、ジュワッと揚げパンを浸していただきます。満員電車も寝不足も遠い世界の出来事みたいな、リラックスな台湾式朝ごはん」
続くのは、モダンな飲茶(YAUMAY)のランチ。
「リッチな素材を惜しげもなく使ったハイクオリティな飲茶たち。蒸篭を開けるたびに立ち昇る湯気に包まれながら美味を頰張っていると、雲の上にいるかのような天国的な時間が訪れます」
さらに、おやつもいただこう。
「リトルシェフの生姜のパフェは、真っ白。最後の一口までおいしく食べられるパフェが少ない中、こちらのパフェは味のバランスが完璧、一瞬でペロリですよ。このパフェを好きな人と食べたら、ちょっとやそっとのいざこざなんぞって思いますね」
日が落ち始めたら、ディナーに向けて気軽にアペロも楽しみたい。
「Le Boutonオリジナルのウスターソースと、vinmariオリジナルのタルタルソースがおいしすぎて。ひとつもふたつも上を行くアジフライです。お店の内装も素敵で、トイレのノブがやたら可愛いです(笑)」
一日を締めくくるにふさわしいディナー(noura)は、驚きのアミューズで幕開け。
「スフレタイプのパンケーキに、トリュフオイルとメープルシロップがたらり。ふわふわ食感、底はガリッとキャラメリゼ。反則レベルの幸せアミューズです」。
食べることを起承転結で楽しみ尽くすラインナップに。
淡い憧れを叶え、心の支えになり、特別な人との時間や純粋な楽しみとしても力を貸してくれる。〝幸せの一皿〞は、奥が深い。
Photos:Kisshomaru Shimamura(Portrait), Ayumu Yoshida(Food) Interview & Text:Aika Kawada Edit:Chiho Inoue