佐々木蔵之介インタビュー「まだ俳優だとは言い切れないです」
自分自身の今に影響を与えた人物や、ターニングポイントとなった 出来事、モノ、場所との出合い。それをきっかけに変化し成長した自分を振り返る。 佐々木蔵之介のビフォー&アフター。(「ヌメロ・トウキョウ」2018年11月号掲載)
──演劇を始めたきっかけは?
「神戸大学に入学し、オリエンテーションの日にたまたま高校の同級生と会って、『はちの巣座』という演劇研究会が新入生歓迎公演をやっているから、時間もあるし観るか?と。どのサークルに入るか、何も考えていなかったんですけどね。学生会館の小さな教室に行くと、芝居はすでに始まっていました。段ボールで目張りされ、ステージといっても平台で、手を上げたら照明に触るくらいの小さな空間。そこで学生たちが自分たちで作ったネタを織り込みながら芝居をしているのを見て、大学生は自由やなあ、こんなアホなこともできるんや!と思って。芝居が終わったら先輩に『どうする?』と聞かれ、二人とも『まあ、やるか』。先輩が『そんなすぐに決めなくてい』と慌てたくらい軽いノリで即決しました」
──そこからいつ演劇の沼に?
「ずっと家業の造り酒屋、佐々木酒造を継ぐつもりでした。大学卒業後に広告代理店に入ったのも、新聞やラジオ、雑誌などで宣伝し、売る方法を学ぶため。たまたま配属が大阪本社だったので、休日になんとなく劇団を続けていました」
──しばらくは会社員との二足のわらじだったわけですね。
「はい。あるとき東京の劇団に誘われて。最初は断っていたんです。でも強く誘ってもらって、つい…。なぜ会社を辞めたのか、いまだにわからないです。冷静に判断したら、この仕事は絶対に選ばない。家業を絶対に継ぐと思います。俳優をやりたいというより、終わらせられないような気がして、それがいまだに続いている感覚です。家業を継がなかった分、ある程度のところまではやらなければと思ったけど、ある程度がどのレベルなのかもはっきりしない(笑)。映画やテレビに出たいという感覚もなかったです。当時の関西小劇場にはメディアに出る意識は一切なかったですから」
──劇団☆新感線をはじめ、関西小劇場に勢いがあった頃ですね。
「ちょうど先輩たち、古田新太さんや生瀬勝久さん、升毅さんたちがドラマに出だした頃。僕は、ああそうかと思ったぐらいで、自分が出る気はなかったです。ドラマは30歳で上京してから、お話をいただくようになりました」
──自分が俳優として生きていくと決心、自覚したのはいつですか。
「うーん。まだ俳優だとは言い切れないです。俳優をさせていただいているとは思っていますけどね。“終わらせられない”が続いているだけ」
──満足感がないから続けているのでしょうか?
「そのとおりです。映像なら現場でOKが出たら満足できます。でも演劇は稽古場にダメをもらいに行くもの。ダメをもらい続けるから、今日もできなかった!と続けるんでしょうね。何かを目指すというより、一つ一つを乗り越えないと次が見えてこない」
──キャリアの上で人生が大きく変わった瞬間はいつですか。
「いちばん大きかったのはNHK朝の連続テレビ小説『オードリー』(2000)への出演。家族や親戚、家の近所の人たちに僕が俳優をしていると認知されました。8カ月近く一つの役を生きたことも初めての経験でした。朝ドラはセットが多いので、カメラがどこから撮影するかなど、ドラマの勉強になりましたね」
──映像と並行して、舞台にも定期的に出演。全く違う顔を見せていますね。『リチャード三世』『BENT』『マクベス』などチャレンジングな作品ばかりに出演するのはなぜ?
「これ、どないしよう?怖いなぁ!という作品をなぜか選んでしまうんです。演劇だと、この頂を登ってみようかという気になる。『リチャード三世』は極悪人、『BENT』は強制収容所の話で『マクベス』は病院で一人役。この秋は前川知大演出で『ゲゲゲの先生へ』に出演します。やっと普通っぽい?といっても、半分妖怪(笑)。その点、ドラマ『黄昏流星群』では普通の人間、等身大の役ですね」
──『黄昏流星群』は弘兼憲史の漫画を原作とした大人のラブストーリー。主人公のエリート銀行マン瀧沢完治を演じられます。
「はい。真面目一筋の仕事人間でしたが、突然、上司のミスにより左遷されてしまいます。どん底に突き落とされたとき、ふとした思いつきで単身スイスへ。そこで黒木瞳さん演じる栞と出会い、恋に落ちる。恋多き人ではなく、地味で平凡な男が突然、新しい扉を開ける。きっと誰にも起こり得る話だと思います」
──佐々木さんにとって初めてのラブストーリー主演だとか。
「撮影に入ってしばらく、僕は勝手にヒューマンドラマだと思い込んでいて(笑)。PRのコメント取りの際、初ラブストーリー主演と知って驚きました。僕、ラブストーリーが何か、よくわからないんですよ。共演の黒木さんや中山美穂さんは上手でわかっていらっしゃる。演じてみたら、しゃ べらないとき、聞いているときが重要だなと感じました。自分はつくづく器用じゃないなあと実感しています」
──撮影で印象的だったことは何でしょうか?
「このドラマは秋冬の話なんですね。特に今年の夏は暑くて、ロケでコートとマフラーはきつかった(笑)。保冷剤を隠し持ったり、冷感スプレーを頭にかけたり、暑さ対策が大変でした」
──この主人公のように、急に感情を揺さぶられて、突然人のことを好きになることはありますか。
「うーん、あるんでしょうね。ないと言ったらもったいない。あったほうがいいから、あるでしょう。だから、いつでもそのときのために用意をしておいたほうがいいですよね」
──佐々木さんは今年50歳という節目の年ですね。
「はい。2月、映画『嘘八百』の撮影の最中に50歳になりました。すると共演の中井貴一さんが『50歳は今まで歩いてきたのを見ながら、先の山が見える』と言うんです。自然と先を見せつけられると」
──見せつけられますか?
「わからない(笑)。そこで奥田瑛二さんが『おまえ50歳か。この一年が大事。この先、おまえと会えるかどうか、こうして一緒に飯食えるかどうかも、この一年で決まる』って。大げさな気がしたけど、振り返れば、節目の年は大事だったということでしょう。そう言いつつも、翌日撮影なの に三人で飲み続けたという(笑)」
──お酒は永遠の相棒ですか。
「日常ですね。楽しみは寝酒。日本酒、ビール、ワイン、最後にちょっと強めのウイスキー飲もうかなとか。毎夜、お酒で仕切り直します」
Photo: Masato Moriyama Styling: Norihito Katsumi Hair&Makeup: Tatsuya Nishioka Interview&Text: Maki Miura Edit: Sayaka Ito