「市川実日子」は90年代に始まった
女優、市川実日子。姉・実和子とともに人気モデルとしてファッション誌で活躍していた彼女から90年代を思い起こす人も多いだろう。そんな90年代の空気感をまとった市川実日子にインタビュー。(「ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」2018年3月号掲載)
──当時モデルとして活躍していた市川さんにとって、90年代はどんな時代でしたか?
「私、90年代の印象があるみたいですね(笑)。大人になってから『17歳の頃のイメージのままで止まっている』って何回か言われたこともあります。94年に『オリーブ』専属モデルとしてデビューしたとき、学業を優先するといった約束がありました。高校に通いながら部活動に近い感覚でモデルの仕事をしていたこともあって、自分としては、普通の高校生として90年代を過ごしていた感覚なんです。あとみんなの中にあるであろう、自分の好きなものをいっぱい知りながら成長する時期が、私は〝90年代〟だったことと、そういう時期にモデルの仕事で本当にたくさんのものを見せていただき体感できたので、今の自分が持っている感覚への影響がとても大きな時代だと思います」
──女優を始めたきっかけは?
「専属モデルを卒業していろいろな雑誌に出るようになってしばらくしてから『モデルの仕事とは?』と考えた時期がありました。楽しくないとかではなく、隙間風みたいなものが心に吹いたんです。そのタイミングでお誘いいただいたのが、初めて出演した作品でした。モデルの仕事を通じて、スタッフの方々と一つのものをつくる喜びを教えてもらったのですが、映画に参加してみたら、雑誌とはまた違う職人さんたちの集まりで『すごくかっこいい!』と感じました。大人数の人が一つになっていく感覚や、台本一冊をもって何かをつくっていくことが、どんどん好きになっていったんです。今はまた違う喜びもあると思いますが、人と一つのものをつくることが、この仕事をしている自分にとっての大きな喜びだと思っています」
──『羊の木』で独特の空気を放つ清美を演じるにあたり、監督には何を求められましたか?
「撮影に入る前に監督とお話をする時間があり、そのときに清美と(松田)龍平くんが演じる宮腰は、人間から遠い存在だと言われました。監督が言おうとしていることを自分なりに探りつつも、現場に入ってからは監督が丁寧に演出をしてくださったので『そういう動きをする人か…』と清美の人物像が膨らみました。あと撮影現場の富山に流れる独特の空気も、演じる上ですごく良いヒントやエネルギーをくれました。でも難しかったです! だって人間じゃない存在ですし、演技がいきすぎても違うことに見えてしまうかもしれないし…いまだに「あれで良かったのだろうか?」と感じる部分もあります」
──90年代は、素に近い部分を求められていた印象がありますが…
「それ、よく言われました!『そのまんまで!』って、すごく(笑)」
──今、また近いものを求められているのではないでしょうか?
「リバイバルってことですか(笑)? 今は…どうでしょう? うーん…自分としてはわからないですね、時代の雰囲気って少したってからわかることのように思うので。90年代って、やっぱり今にはない空気がありましたよね、時代の色というか。80年代、70年代となってくると、もっと色濃くあったのではないかと妄想したりもするんですが、90年代の色を自分が覚えているということは、すごく幸せなことだなって思います」
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© 2018『羊の木』製作委員会 ©山上たつひこ、いがらしみきお/講談社
『羊の木』
港町に移住した元殺人犯の男女6人と、彼らの素性を知る市役所職員。ある事故をきっかけに狂いはじめる日常を描きながら、人間の本性をあぶり出すヒューマン・サスペンス。
監督/吉田大八
出演/錦戸亮、木村文乃、北村一輝、優香、市川実日子、水澤紳吾、田中泯、松田龍平
URL/hitsujinoki-movie.com/
全国公開中
Photos:Kiichi Fukuda Styling:Noriko Fujitani
Hair&Makeup:Kazunori Miyasaka Interview&Text:Miki Hayashi