21世紀少女 vol.30
現役東大女子がつくる、21世紀のホテル
ホテル経営者、龍崎翔子
フォトグラファー田口まき&小誌エディトリアルディレクター軍地彩弓がお送りする「21世紀少女」。クリエイターやアーティストなど、21世紀的な感覚を持つ新世代女子を紹介。今回のゲストは、現役東大生ながらホテルを4店舗経営する龍崎翔子。21歳らしい可愛らしい風貌の彼女が語ったのは、驚くほど純粋で真摯な、ホテル経営への思いだった。(「ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」2018年1・2月号掲載)
軍地彩弓が読み解く
「新しい“街”のつくり方」
現役東大生でホテル経営者。その龍崎に出会ったのは工事だらけの渋谷。生まれ変わろうとしている街の真ん中で、現在21歳の彼女に会った。
取材時点で4軒のホテルを経営し、ついに来年には首都圏にも進出するという。そんな彼女がホテルに興味を持ったのは小2の夏だった。「親に連れられてアメリカを1カ月かけて東海岸から西海岸まで車で横断したんです。毎日どこに泊まるのかが一番の楽しみだったのにどこも変わり映えがなくて」。
小説『ズッコケ3人組』でホテル経営者という職業を知り、周りの大人に「ホテル経営をしたい!」と言ったが、ホテルに就職すれば、という答えばかり。そこでまず一番高い環境に自分を置こうと思い、東大を目指した。「大学に入ってすぐにAirbnbに出合って。これは衝撃的でした。ホテル経営の敷居が下がってる。自分でできるじゃないって思って」。そこからが早かった。ホテルでバイトをしながら、経営を学ぶ。こんなデジタルの社会でまだまだ予約管理に手作業の工程が多いことに疑問を持った。「今は予約も会計もクラウドでなんでもできてしまう。タブレット端末で利用できる仕組みを組み合わせれば私でもホテル経営はできると」。
今の会社を母と立ち上げたのは2年前。19歳の4月だった。1軒目は北海道・富良野のペンション。「最初は普通のペンションと何も変わらない光景だったのですが、あるときフリーのバーを作ったら宿泊したお客さんがここに集まり、旅先の出会いが満足度を高める、ということに気づきました」。この原体験から“ソーシャルホテル”という人とのつながりを生むホテルをつくりたいと強く思うようになった。
そして、地元・京都に「SHE,」をオープン。「大切にしているのはホテルという箱の中でいかに良い思い出をつくってもらえるかということ。PRをほとんどしていなくてもSNSやレビューでいい評価もらえて色んな方に予約をいただいています」。
彼女がしたいこと、それは“ホテルのありかたを変える”こと。今までホテルがなかった場所にホテルをつくることで、人が集まり、街の空気が変わっていく。今年大阪・弁天町にオープンしたホテルでは、レコードプレイヤーを各部屋に入れ、フロントに置いてあるLPを聞いてもらえるサービスを提供。「バンクシーみたいに人の常識を壊せる人に憧れます。これからも、アバンギャルドなことをどんどん仕掛けていきたいです」。
the recipe of me
私の頭の中
21世紀的感覚を持った新世代の若者は、普段どんなことを考えているのだろう? そのヒントは、彼らの周りの“モノ”にもちりばめられている。彼女自身がそうであるように、彼女の周りには、アバンギャルドと真面目さを同時に感じさせるモノが混在していた。
(左上から順に)
1. 経営する「HOTEL SHE, OSAKA」の客室。
2. 白のキャップは『水曜日のカンパネラ』のライブグッズ。
3. 2017年夏、電通でインターンをしていたときにもらった手帳。「ウェブ系のコースに参加してました」
(左上から時計回りに)
4. ホテルの全客室にレコードプレーヤーを置くキッカケとなったLPレコード。「ジャケットを手に取って選んで歌詞を読んで針を落として聴く、という原始的な体験を用意したかったんです」
5. 京都のセレクトショップ「VOU/棒」と「サウナの梅湯」が企画したDJイベントのミックスCD。
6. 漫画『とんかつDJアゲ太郎』
7.「バンクシーは、イスラエルとパレスチナの分離壁に面した場所にホテルを建てたり“アートで境界を壊す”人。コンセプト自体に思想があって、共感しています」
8.「HOTEL SHE, OSAKA」のラウンジ内。
(右上から時計回りに)
9.「HOTEL SHE, OSAKA」では、USJや海遊館へのリムジンでの送迎も行っている。
10.「HOTEL SHE, OSAKA」の外観。
11. いとこがパリで買ってきてくれたORLANEの香水。
12. たまに着けているメイベリンのブルーリップ。
(左上から時計回りに)
13. 彼氏にもらったCASIOの時計。
14. ファンの方にもらった宝石の形のジェムソープ。
15. 東大の心理学のテキスト。「人の行動の意図や潜在的な理由がわかりやすく、勉強になります」
16. 雑誌『mark』。「そのときのホットな情報をランダムに手に入れられるので、意識的にいろんな雑誌を読むようにしています」
龍崎翔子の年表
2004年 8歳
家族で1カ月間アメリカ横断旅行をし、地域にかかわらずホテルがどこも似たり寄ったりなことに対して問題意識を持つ
2007年 11歳
ホテル経営を志す
2015年 19歳
母とL&G GLOBAL BUSINESSを設立。北海道・富良野で「petit-hotel #MELON 富良野」を開業
2016年 20歳
京都・東九条で「HOTEL SHE, KYOTO」開業
2017年 21歳
大阪・弁天町で「HOTEL SHE, OSAKA」開業
龍崎翔子への5つの質問
──今の日本をどう思いますか?(政治・経済・文化など総合的な意味で)
「もったいないですよね。古くから文化的に豊かで素敵な国ですし、大好きなんですけど…。トロンやWinny、iモードやmixiしかり、世界を変えうるチャンスを何度も掴んでいるのに、大きな石にせき止められて身動きすら取れなかったことが多いと感じています。このままだと、あっという間に周回遅れになって世界から取り残されてしまうことが目に見えていると。若い世代には新しい動きがあるので、“社会を前に推し進める力”が止められないような風潮になったらいいなと思っています」
──尊敬している人や憧れの人は誰ですか?
「芸能人でいうと『水曜日のカンパネラ』のボーカルのコムアイさん、水原希子さん、ローラさん。3人ともタイプは違いますが“アバンギャルドで知的な人”がすごく好きなので。そんな女性になりたい!と思っています。あとは…両親ですかね。それは、成人してからより一層感じています。今も母と一緒に会社を経営していて、仕事上でも尊敬しているし、ポジティブな人生観にも影響を受けています。父は54歳で母は51歳ですが、いまだに夫婦仲がすごく良いところも素敵」
──今後の目標、挑戦したいことは何ですか?
「“ホテル”という概念をもっと広げて、新しい可能性を提案していきたいですね。これからはより大きな価値を社会に対して提案できるような会社にしていきたい。旅館やホテルの運営委託やブランディングなどクライアントワークの話もいただいているので、そこで新しい宿泊体験をデザインすることも目標の一つです。規模はまだまだですが、業務形態としては、星野リゾートさんと似ているのかもしれませんね。今の会社らしさは守りつつ、どんどんいろんな挑戦をしていきたいです」
──今一番興味があること、今一番怖いと思うことは、それぞれ何ですか?
「今まで大きなホテルの多様性を広げる仕事をしてきたのですが、次はホテルとお客さまのインターフェイスを変えることで、ホテルの枠組みを変えていきたいと思っています。観光業や不動産業を横断しながら新しい旅の形をデザインしていくのが楽しみですね。地に足をつけて、初心に立ち返りながら事業を行なっていきたいです。また、平和的な国際環境が壊されることが、観光業に携わる人間にとって一番怖いですね」
──10年後の日本はどうなっていると思いますか?
「良くも悪くも、今と変わっていないんじゃないでしょうか? 日本はすでに幸せになってしまった国だと思うので、みんな現状に満足していると思うんです。だから、本質的にはきっと変わらない。ただ、物質的豊かさから精神的な豊かさを求めるようなトレンドにはなるかもしれませんね」
Photo:Maki Taguchi Director:Sayumi Gunji Text:Rie Hayashi