21世紀少女 vol.7
ヘアサロン『Bettie』オーナー 山本由美子
原宿ミラクルヘアの生まれる場所
フォトグラファー田口まき&小誌エディトリアルディレクター軍地彩弓がお送りする「21世紀少女」。 クリエイターやアーティストなど、21世紀的な感覚を持つ新世代女子を一人ずつ紹介。今回のゲストは、可愛いもの好きな女子たちから絶大な支持を得る原宿の美容室『Bettie』を経営するヘアスタイリストの山本由美子。撮影と取材は彼女の好きなものが詰め込まれた店内で行った。(「ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」2015年10月号掲載)
「私たちのイメージアイコンである、アルヴィダちゃん(Arvida Bystrom 写真家、モデル)が2年前くらいに始めたのがこのパステルヘアなんです。当時、クロエ・ノガード(Chloe Norgard インスタグラマー)がレインボーヘアを始めた頃と重なるのですが、そのとき私がAMOちゃんのヘアをパステルピンクにしたんです」
彼女たちのファッションはヴィンテージが基本。90年代の映画『ヴァージン・スーサイズ』に出てくる甘い砂糖菓子のスタイルだ。
「彼女たちに影響を与えているのが、まさに90年代のカルチャーなんです。ソフィア・コッポラ、MILKFED.、キム・ゴードンのX-girl、音楽ではカーディガンズやソニック・ユースとか。あの時代のカルチャーとファッションが混じり合った感覚がいま来ているんだと思います」
コスプレガールたちとの明らかな差は、この原宿ガ–リーなコたちには“外人”のようになりたい願望があるということだ。金髪の繊細なカール、ふんわり猫っ毛は、まるで『綿の国星』(大島弓子作の漫画)! 90年代生まれの彼女たちにとって90’sはリバイバルやトリビュートでなく、まさにここにある最先端なのだ。90年代は、80年代の華やかで過剰な物質主義の世界に馴染めない、ちょっと内気で、傷つきやすい女子マインドから生まれた。『ヴァージン・スーサイズ』の甘い世界と残酷な結末。現実のシビアさからの逃げ場を求めている空気が、現代にシンクロしている。時代がスピード感を増すときに、逆行するように内省的にカワイイ世界に安らぎを感じる。これが2015年のガールズマインドなのかもしれない。
私の頭の中
21世紀的感覚を持った新世代の若者は、普段どんなことを考えているのだろう? そのヒントは、彼らの周りの“モノ”にもちりばめられている。山本さんの好きなモノはブレない。ピンク、ガーリー、儚さ、可憐さ。世界観たっぷりの店内から好きなモノをピックアップし、紹介してもらった。
(上から時計回りに)店内にあるネオン看板「Bettie’s Club」。
(左)店のコンセプトである「モーテル」にちなんで、雑貨ブランド“The Skips”と一緒に作ったキーホルダー。完売。(右)Bettieのオリジナル缶バッチ¥650。
店の看板犬である、山本さんの愛犬ギャロくん(♂・8歳)。
「お店の雰囲気に合うものをお客さまがよく持ってきてくれるんです。このペガサスもそうだし、ここには頂き物がたくさん飾ってあります」。
the recipe of me
(上から時計回りに)山本さんのインスピレーション源である雑誌やZINEたち。左から『ROOKIES』『hi you are beautiful how are you』by Valerie Phillips、『Lula』『EDITORIAL MAGAZINE』。
カナダのフォトグラファー、ペトラ・コリンズの本。ガーリーな世界観が満載♡。
「ウェス・アンダーソンの世界観は素晴らしい! グランド・ブダペスト・ホテルは映画もこの本も大好き」。
大好きなクロエ・セヴィニーの本。
(右上から)店内のミラーのイラストを担当するリコヘルメットさんの試し書きボード。これがすでに可愛い!
お客さまからの頂き物のバービーちゃん。
(左上から時計回りに)お店の開店祝いに、原宿の『MILK』からもらったオリジナルのリカちゃん。衣装もヘアメイクもすべて手づくりのMILK仕様!
お店に3つあるお城の置き物の一つ。
奥のポスターは、フォトグラファーのヴァレリー・フィリップスが撮影したアルヴィダ・バイストロム。
トイレの側面もぬかりなく!壁紙は子ども部屋用のものを使用。
山本由美子の年表
1998年 20歳
美容学校の通信課程へ入学
2000年 22歳
憧れの都内サロンに入社。キャリアをスタート
2007年 29歳
サロンの立ち上げに参加し、大好きなガーリーカルチャーをさらに追求
2015年 36歳
好きなコトを共感し合える仲間と『Bettie』オープン。
山本由美子への5つの質問
──今の日本をどう思いますか?(政治・経済・文化など総合的な意味で)
「東京、特に原宿周辺でいえば、『満遍なく』『みんな一緒』って感じです。もしかしたら平均値は高くなっているのかもしれないけど。私が20代前半の頃は、海外ブランドが日本にわーっと入ってきた時期で、無理してでもハイファッションを取り入れたい!個性を出したい!という気持ちだったけど、今の子にとっては、海外ブランドもファストファッションで、物心ついたときから身近にあるもの。それってどういう感覚になるんでしょう。憧れではなくなるのかな?」
──尊敬している人や憧れの人は誰ですか?
「ソフィア・コッポラです。映画『ヴァージン・スーサイズ』がきっかけで、おしゃれでガーリーなものの世界に入り込んでいったので。ハッピーではないけれど、細部まで完璧に作り込まれているあの世界観は、衝撃でした。あとは、身近な人だと『MILK』のデザイナーの大川ひとみさん。本人はかなりラフなのに、めちゃくちゃ可愛いものを作っていて。そういうハッとする人や、ギャップがある人、こだわりの強さを感じられる人は格好いいと思います」
──今後の目標、挑戦したいことは何ですか?
「ジャンルを超えて面白いことができるお店作りがしたいです。あとは“ガーリー”を軸に、今までとこれからをミックスして新しいジャンルを構築していきたい。お店を開いたことで、ものづくりをしている子たちが『一緒に何かやりたい』と言ってくれるようになったんです。だから共感し会える人たちと、小さいことからでも活動していきたいですね。それが若い女の子たちのスパイスにもなればいいな。ミックスされた新しい文化を発信していきたいです」
──今一番興味があること、今一番怖いと思うことは、それぞれ何ですか?
「興味のあることは『息抜きプロジェクト』。共感し合える人たちと、自分たちがやりたいことをやって、初心に返ろう、みたいな。怖いことは、ネットとSNS。良いこともたくさんある半面、10代の子の心のはけ口みたいになっているのが怖いなって。昔は自分の中で消化するか特定の誰かに受け止めてもらっていた思春期特有の“闇”を、いまはSNSに書き込むことで発散している。それって、誰が受け止めているかわからないじゃないですか」
──10年後の日本はどうなっていると思いますか?
「このガーリーな世界観が好きな子たちが滅びてないといいな。いまは原宿にいるおしゃれな子たちすら、ファッションよりもアイドルアニメが好きみたいで。お店でもいちばん盛り上がるのは、好きなアニメの話。そうすると、10年後、彼女たちが30代になったときには、土台がそこにあるわけですよね。そうなったときの世の中はどうなっているんだろう。いまの時点でカルチャーショックの日々なので、10年後はもっとギャップが開いてるのかもしれないですね…」
Photo:Maki Taguchi
Director:Sayumi Gunji
Text:Rie Hayashi