21世紀少女 vol.30東京ガール的、自撮りアニメーションの世界アーティスト、シシヤマザキ | Numero TOKYO
Culture / Post

21世紀少女 vol.30
東京ガール的、自撮りアニメーションの世界
アーティスト、シシヤマザキ

フォトグラファー田口まき&小誌エディトリアルディレクター軍地彩弓がお送りする「21世紀少女」。クリエイターやアーティストなど、21世紀的な感覚を持つ新世代女子を紹介。今回のゲストは、アーティストで作家のシシヤマザキ。人々を惹きつける独特の動画が話題の彼女。そのルーツを探るべく、彼女の世界観たっぷりの仕事場にて、撮影・取材を行った。(「ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」2017年12月号掲載

軍地彩弓が読み解く「リアルと半リアルの境界線」 「初めまして」。そこにいたショートカットの女の子はまさにルミネの話題になったムービーで見ていた女の子そのままだった。オフィスにはピンクの肌に黒のパンツ、赤い唇に艶ホクロの人形。そこはまさしくシシヤマザキ・ワールドだ。 大学を選ぶとき、自然と芸大を目指すことになった。「ただ、漠然と行くんだろうな、という感覚があって」。彼女の父は1980年代から活躍する現代アーティストであり、現在女子美で教授を務めるヤマザキミノリ。子どもの頃から家にMacがあった。「小学校時代からPostPetで遊ぶ子どもでした」。ミュージックビデオを見て育った。芸大に入ってから、自分は平面の人じゃない、と感覚的に気づいた。いわゆるデザインという要素をそぎ落として、求められていることを自分の色を抑えて作り上げる人ではないと思った。「圧倒的に新しいもの、見たことなくて、みんながわかる要素があるものを作って、どんどん世界に出していかなきゃと思っていました」。

2010年、21歳のとき大学で見つけたPRADAの「YO VIDEO!プロジェクト(YO YO BAGのプロモーション)」で動画が選ばれたことが世に出るきっかけとなった。彼女の作風は独特だ。まず動画を撮影して、それをコマ割りして水彩のタッチで描き、アニメーションに仕上げるロトスコープという技法。そのモデルは自分だった。「最初はそれが手軽だったこともありますが、自分主体で何か作ることが面白いと思って」。その後、大学の課題で作った一本のアニメーションムービー『YA-NE-SEN a GO GO』では彼女自身がキャラとなり、アニメーションになって動き出す。

動画をVimeoに投稿したことで、話題になり、ついにはルミネのCMに採用される。今年話題になった「Chanel(シャネル)」の「ガブリエル ドゥ シャネル」のキャンペーンでは、カーラ・デルヴィーニュがモデルとして登場している。「撮影はパリ。たった1日だったけど、絵コンテを見てカーラが本当はできないスケボに挑戦してくれて感動しました」。シシの世界観の中で、ガブリエル ドゥ シャネルを持ったカーラが動き出すムービーになった。

「日本女性のアニメと実写の境界のなさのハイコンテクストさがすごいと思うんです。半リアルをリアルとして生きていくのもありなのかもしれない」。シシが生きる道はリアルだけにとどまらない、だからこそ無限の可能性を感じた。

シシヤマザキの頭の中

21世紀的感覚を持った新世代の若者は、普段どんなことを考えているのだろう? そのヒントは、彼らの周りの“モノ”にもちりばめられている。シシヤマザキは、どれをとっても彼女らしい独自の世界に囲まれていた。

(左上から時計回りに)
1. 制作を手がけたChanel 2017SSに発表された「ガブリエル ドゥ シャネル」のキャンペーンムービー中の1コマ。カーラ・デルヴィ
ーニュがシシヤマザキの水彩画の世界に登場。
2. トレードマークの赤リップ。
3. 愛用中のリュックはmikihouseのもの。「マザーズバッグって最強に使いやすいんです」。
4. 小学生の頃に自由ノートに書いていた漫画。

(左上から時計回りに)
5. 手塚治虫の『ネオ・ファウスト』。「小さい頃から意味もわからず読んでいたんですけど、いま読んだら自分が全く知らない時代の若者の話で、すごく面白かった!」。
6. 高校生の頃に書いた10年後の自分宛ての手紙。「10年たって開けてみたら、真面目すぎてビックリ! 別人みたい(笑)」。
7. 小学校中学年になると、PCでイラストを描くように。
8. 小学生の頃に書いていた漫画。「常に不満がいっぱいの小学生だったから、口も悪いんですよね(笑)」。

(右上から順に)
9. 「これは気がおかしかったときに描いた自画像です(笑)」。
10. SHISEIDOとコラボして出した、自身のキャラクター シシガールグッズ。
11. こちらもシシガールグッズ。左はキーホルダーで、右はミラー。
12. ボストンのMIT(マサチューセッツ工科大学)で売られていた赤血球のぬいぐるみ。

(左上から時計回りに)
13. シシガールグッズのiPhoneケース。
14. 愛用中のサングラス。
15. 必需品のハンカチ!「左はSwimmieのシシガールハンカチで、真ん中はアイ・ウェイウェイのグッズです」。
16. 自分のiPhoneケースはこちら。

シシヤマザキの年表

1996年 6歳
ギャグ漫画制作を始める

2006年 16歳
アメリカに留学

2010年 20歳
「Prada(プラダ)」のキャンペーンに作品が選ばれ、上映される 

2015年 25歳
ルミネ10% OFFのキャンペーンCM、ポスターデザイン
YUKI『好きってなんだろう・・・涙』のMV、アートディレクションを務める

2017年 27歳
「Chanel」の新定番バッグ「ガブリエル ドゥ シャネル」のキャンペーンムービーを制作

シシヤマザキへの5つの質問

──今の日本をどう思いますか?(政治・経済・文化など総合的な意味で)

「同じアジアの国のことをもっと見たほうがいいよ!と思います。今、中国、台湾、シンガポール、フィリピンとか、アジアの音楽シーンが結構熱くなってきてて。PVもファッションもすごくカッコいいんです。どちらかというと西洋っぽいカッコよさよりも、そっちが熱い。だから日本人として日本独自のものを面白くしていくんだったら、今は同じ東洋のカッコいいものを見たほうが自分たちを客観視できるし、もっと進化できるんじゃないかと思います」

──尊敬している人や憧れの人は誰ですか?

「ハローキティ! やっぱり圧倒的にすごい。本当にどこにでもいるから。最高に可愛いし、猫だから最強だし。ご当地キャラから漫画から、何にでもなってるじゃないですか。ビッチ感やばいですよね! 奴隷のようにこなす!みたいな(笑)。そして出来上がった形がダサくても関係ないっていうか。キティちゃんだから。シシガール(自身のキャラ)も“記号”として共通認識されないと意味がないと思っているので、そこまでいけるといいなぁと思っています」

──今後の目標、挑戦したいことは何ですか?

「やりたいことはめっちゃいっぱいあるんです。VRもいろんな可能性があると思ってこれからやりたいし、“1980YEN(イチキュッパ)”というバンドに参加しているので、それもやっていきたいし。あとは、シシガールを誰かにアニメーションにしてもらいたい願望もあります。18禁の二次制作とか(笑)。真面目なことを言うと、最近はクライアントワークと作品の見え方をもっと混ぜ合わせたくて。区別するんじゃなく。もっと物事を自分の感性で見て、その中間をいってみたいなと思っています」

──今一番興味があること、今一番怖いと思うことは、それぞれ何ですか?

「興味があるのはサウナ。サウナと水風呂を繰り返していると、それが人生でいちばん大事なこととしか思えない(笑)。本当に毎回違った身体感覚を得られて、入れば入るほど、どんどん新しい世界が見えてくるんです。サウナに没入していって感性の目が切り開かれる感じがする。そうすると、サウナ以外のことでももっと全身で、自分の感性で何かを感じたいって思うようになって。最も怖いのは、回転扉。タイミングも存在も何もかもわからない。グルーヴが全く合いません(笑)」

──10年後の日本はどうなっていると思いますか?

「最先端にはいないだろうなっていう気はしますね。でもそれは悪いことではなくて。カルチャーってどこが最先端かって、日本だったときも中国だったときも絶対にあるし、繰り返していると思うんです。でもこれからは拠点が“国”じゃなくて“スタイル”とかになっていくと思うんですね、漠然と。だから希望としては、10年後、日本はもっと世界に馴染んでたらいいかな(笑)。もしかしたら、今の状態がいちばん中途半端かも。中途半端に外を意識して、中途半端に自分たちのことも主張している感じが」

Photo:Maki Taguchi Director:Sayumi Gunji Text:Rie Hayashi

Profile

シシヤマザキ(ShiShi Yamazaki)水彩画風の手描きロトスコープアニメーションを独自の表現方法として確立。CHANEL、PRADA、資生堂などのブランドのプロモーションイメージの制作を担当し、世界的に活躍している。 オリジナルアニメーション「YA‐NESEN a Go Go」(2011) 、「やますき、やまざき」(2013)は国内外問わず数多くのフェスティバルで上映され、反響を呼ぶ。ライフワークとして一日一個の顔「MASK」を毎日作り続けるプロジェクトも行う。

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