21世紀少女 vol.2
ペインターLy
超越するストリートアートの旗手
フォトグラファー田口まきと、小誌エディトリアル・ディレクター軍地彩弓がお送りする連載「21世紀少女」。クリエイターやアーティストなど、21世紀的な感覚を持つ新世代女子を紹介。vol.2は、ペインターのLy。浅草のビルの屋上に描かれた彼女の作品の前で撮影を行い、白と黒だけで構成されたその世界観のルーツを探った。(「ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」2015年4月号掲載)
軍地彩弓が読み解く
「街を覆う明るい影の正体」
渋谷パルコだったり、原宿のキャットストリートだったり。見慣れた風景の中に前からあったみたいにそのウォールペイントがある。記憶に残っているのが、大きな翼のモンスター。そこにこちらをじっと見つめる目が描かれている。心に引っかかって、どこかでまた浮かんでくる情景。その絵を描いているのがペインター、Ly(リイ)だ。
「あえて、ペインターといっています。アーティストでも画家でもなくて。それはキャンバスだけじゃなく、壁も、なんにでも描く人でありたいから。最初はグラフィックデザインの仕事をしていたんですけど、空き時間に絵ばっかり描いてクビになって(笑)それくらい、ずっとずっと絵を描いている」
絵を仕事にしたい、と思ったのは小学生の頃。
「幼稚園くらいのときから、時間があればずっと想像していました。その頃から描いていたのはモンスターの絵。絵を売って食べていく人がいると知ってから、画家として生きていこうと思ったんです。最初は決められたものを描くのは苦手だったけど、『自分が描きたいものを描いていいよ』って先生に言われて、そこから変なモンスターとか好きな絵を描き始めてこれが転機になったんです」
彼女の絵はほぼモノトーンで描かれる。その世界には他の色は存在しない。10歳の頃から描いているモチーフ、名前はHATE。黒くて、ぼうっと存在するけど、なぜか可愛い。それは『千と千尋の神隠し』に出てくるカオナシにも見えてくる。
「意味がないと色を使いたくなかった。あと、新しいものにまったく興味がないんです。自分の内側にある何かを探して、それを獲得していく、そんなイメージで絵を描いています。だから絵を描くとめちゃくちゃ満たされます。やっぱ絵ってすごいなって」
話しているとき、彼女はめちゃくちゃ明るい。彼女が持っているのは“明るい影”。絵を描こうとする純粋さ。パブリックな場所に現れる彼女のモノトーンのアートは、街を行き交う人たちの内面を映しているかのようだ。渋谷でもNYでもパリでも、たぶん地球上のどこに存在しても、すっと風景に入り込み、見た瞬間“あっ!”っと身がすくむ。キース・へリングがストリートにこだわったように、Lyもペインターとして、作品を作り続けるだろう。そのとき、見る私たちに、自分の中に隠されている意識を思い出させること。これが彼女の無意識の策略なのかもしれない。
Photos:Maki Taguchi
Direction:Sayumi Gunji
Text:Rie Hayashi